お兄様と屑妹

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  宿屋(中略)編〜 つづき のつづき




 シャー、と微かに聞こえてくるシャワー音を聞きながら、ルークは宿の自分に宛がわれた部屋の片隅に立っていた。


 外でアッシュと出会い、その後しばらく無言のまま、気まずい思いをしながらも出店を回っていたのだが、あまりの気まずさにアニスが怒鳴りだして、半ば無理矢理二人だけこうして宿へと戻る事になった。
 まだアニスやギンジは、アッシュを乗せてきたノエルと共に、三人で店を見ているだろう。


 そしてなぜ、ルークがこうしてぽつんと部屋の隅に立っているかというと、実はアッシュに、俺はもう寝るからお前はまた外に遊びにでも行け、と言われてしまったのだ。
 一人にしてくれと突っぱねられて、けれどルークは部屋から出る事を躊躇い、扉の近くで所在無く佇んでいる。
 何度かは、言われた通り外へ出ようかとドアノブに手をかけたりもした。
 けれど結局また手を引っ込める事を繰り返す。


 ……一緒にいたいのだ。


 きっと勝手に家を出て行った事に腹を立てているのだろう。
 しかし、そうやってどんなにアッシュが怒っていても、それでもルークは共にいたい。


 二週間、会っていなかった。
 しかも会ったとしても、たった一日。
 次の朝にはもう出発しなければという事になって、夜も、共に添い寝をするだけ。
 正直深くまで触れ合ったのは、一度ルークが酷い吐き気と共に寝込み、病み上がりにしたセックスが最後だったから、ゆうに二ヶ月は経っている。




 部屋に一つしかないベッドをぼんやりと見ながら、潔く座ってしまおうかと考えていると、パタン、と扉の閉まる音が鳴った。
 びくっと肩を揺らし、恐る恐る風呂から上がってきたアッシュを見る。


「……ぁ…………」


 アッシュは殆ど全裸で出てきていた。
 腰に一枚だけタオルを巻いている、それこそ風呂上りです、という格好だ。
 律儀にもしっかりと躰を拭いてきていて水滴は殆ど滴ってはいなかったが、それでも普段髪を上げているその紅い長い髪は、ぞんざいに前髪が落ち、背に張り付いたりしている。


 数歩、前に歩くだけで届く距離。
 その鍛えられた男性らしい肉体の美しさに、割れている腹筋に、すっと伸ばされた背筋に、傷だらけの躰に、格好良くて綺麗な顔に。
 浅ましくも、触れたいと思ってしまうのに。


 その前髪の隙間から覗く翡翠の双眸にぎろりと睨まれ、ルークは身動きが出来なくなる。
 咽が一瞬に渇き、潤そうとこくりと咽を鳴らすも、痛みだけが微妙に伴い、渇望する。


「何だ、まだいたのか。早く行け」
「お、兄様……」


 かろうじて出た言葉は、随分と掠れていた。
 突き放される言葉に、哀しくなって、不覚にもじわりと涙が浮かぶ。


 アッシュはルークに背を向けると、タオルを床に落とし、全裸のままベッドへと横になって壁の方へと向いた挙句、毛布まで被ってしまった。
 本気で眠るつもりなのだろう。


 お兄様がそこに寝たら俺はどこで寝れば良いのだろうとか、確かに勝手に出て行ったのは悪かったけれど、そんなに怒らなくたって良いじゃないかとか。
 そもそもお兄様が家から出してくれないのが原因じゃないかとか、どうしてあんな時間に自分のいる所に来たんだろうとか、色々と頭の片隅で考えたりもした。


 だが。
 明らかな拒絶を示すアッシュに、ぼろぼろと流れる涙を止める事が出来無い。
 視界が滲み、かろうじて見えるアッシュの紅い髪さえぼやける。


「ひく……お、に……さま……お、おれ……ふ」


 ぐしぐしと鼻を鳴らし、外套の袖で涙を拭う。
 いつもなら、ルークが泣けば必ず抱き締めて慰めてくれる筈のアッシュは、全く動こうとしてくれない。
 それがまた、余計に苦しくさせた。


「うう、うー……や、だっ…………ひぅ、や……ねが」


 男の時は全然泣かなかったのに、女になってしまってから自分は泣いてばかりだ。
 特にアッシュの事になると、とたんに臆病になる。
 好きだって何度も言われているのに、ちょっとの事で嫌われてしまうんじゃないかと不安になって。


 ……けれど、抱き締めてもらいたい。


 いっぱいいっぱい、抱き締めたい。




 ルークは意を決したように一度ぐいっと腕で涙を拭くと、後ろを向いて手を伸ばした。
 かちゃ、と静かな音を立てて鍵が閉まる。


 それから着ていた外套を脱いで、頭に付けていたバンダナも取り、床に落としていく。
 するりと背中まで垂れた長い髪は、部屋の柔らかな光によって、赤くしっとりと焔を放つ。
 胸の上にあるボタンを二つ取り外し、インナーも脱いで、ベルトも外し。


 ぱさり、ぱさりと衣類が床へと落ちていき、とうとうルークは一糸纏わない全裸となった。
 女性らしく丸みを帯びた、肌触りの良さそうな白く綺麗な躰。
 ふくよかな胸に付いている可愛らしいピンク色をした乳首はつんと立ち、髪の毛と同じ色をした茂みに隠れた場所は、目の前にいるアッシュを欲するあまり、微かに湿っていた。


 自分から脱ぐというのはとても恥ずかしい事であったが、それでもこのまま出て行くより、よっぽどマシだ。


「おにい……様」


 すん、と鼻を啜りながらベッドに近づくと、ルークはアッシュの被っている毛布の中に手を入れて、少しずつずらしていった。
 彼はきっとルークが何をしようとしているのか、その気配すらも把握出来ているのだろう、触れてもぴくりともしない。
 ただ普通に呼吸を繰り返している。


 こっちを向いてくれない事に挫けそうになりながらも、肩から腕へと掌で撫でながら、拒絶するように向けられている背中に、口付けていく。
 唇を寄せ、頬を擦り寄せ。
 まだ下半身を覆っている毛布の中に自分の身を滑らせベッドの空いている場所に横になると、その背中にふにゃりと胸を押しつける。


「お兄様、好き……好き。好き」


 久しぶりの暖かい、素肌を通してのぬくもりに、ルークは泣きながらふわりと笑みを浮かべる。


 ここ数カ月の兄の命令は少しばかり理不尽だとも思ったし、アッシュと共に旅したくて、少し拗ねて師匠と一緒なんてずるいと言ってみたりもした。
 でも、今回こうして外へ出ても、アッシュならば呆れながらもいつものように、仕方無いなと言いながら笑って許してくれるだろうと思っていたのに。
 まさかこんなふうに怒られるどころか、突き放されてしまうなんて、思いもよらなくて。


「ごめん、俺が家勝手に出てったから怒ってるんだよな…お兄様は俺の事心配してくれてたのに……でも俺、やだった。何もやらずにただ毎日を過ごすのは、も……やだ」
「……あれは、お前のせいではないと言った筈だ」


 ぽつりとぞんざいに返された言葉だったが、自分を思い労わってくれている内容に、それだけでルークは嬉しくなった。
 本当に何故、アッシュはルークをずっと家から出したがらなかったのか、それは友人達だけでなく、ルーク自身も疑問に感じていた事で。
 けれどこうして彼を感じているだけで、そんな事がどうでも良いと思えてしまうから不思議だ。
 素直に言っても良いか、と、そんな気分にさせてくれる。


「……でも俺、ずっとお兄様と一緒にいたいから。それに、その……ダイエットしないと余計に嫌われるし……」


 暗に太ってしまいましたと告げている内容に、ルークは少し恥ずかしくなり、眼を瞑った。
 これからダイエットして、どうにか元の体形に戻さないと、彼は振り向いてくれない。
 そんな気さえしてくる。


「頑張るから、だから、俺を嫌いにならないで……」


 やはり何の反応も返されず、シーンと静まり返る。
 いっそこのまま眠ってしまおうか、もしかしたら起きた時、いつものように抱き締めてもらっているかもしれない……そう思ったとたん、アッシュは上半身を起こしてベッドヘッドに寄りかかった。
 自分から離れようとしているのかと、無くなった温もりに不安を覚えて見上げたルークであったが。


「……へ?」


 両脇を捉えられぐいっと躰を引っ張られたかと思うと、すとん、とアッシュの太腿へと座らされた。
 互いに裸で向かい合う、その格好に少し気恥ずかしい気もするが今更だった。
 だが、アッシュはルークの腰を掴むと、真剣にその滑らかな腹を見つめている。


 太ってる事を確認しているのだろうか、胸を隠しつつもじもじと見つめられる行為から逃げようと腰を振るが、アッシュは眉を寄せて、やはりじっと見ていた。


「あ、あの……お兄様?」


 向かい合ってくれた事は凄く嬉しいし、こんなに近くで、しかも自分に触れてくれる事も凄く嬉しい。
 しかしなぜ、何かを確認するかのように、何度も何度も腹を撫でてくるのだろう。
 アニスは見ただけで自分の変化に気付いたのだから、このアッシュの行為は、太ってる事を確認しているのでは無い気がしてきた。
 くすぐったさに身を捩りながら、どうにかして兄の考えを汲み取ろうと、ルークはその端正な顔を見つめる。


 が、じっと見つめていると、アッシュの太腿に座っているせいか、自分の方が見下げる形となり。
 顔のその先にあるものを見てしまい、カッと顔が赤くなるのを感じた。


 少しだけ昂ぶっている、アッシュのペニス。
 自分の胎内に入り、掻き回し、突いてくるそれに、ごくりと咽が鳴る。
 欲するあまり、中から蜜が溢れ出し、濡れてしまっているのが自分でもわかる程になっていた。


 きっとアッシュにだって伝わっているだろう。
 ひくひくと疼いてしまう場所は、アッシュに跨っている為にぱっかりと開いて、良く見えてしまっているのだから。


「……に、さま」


 ちょっとだけ自分が前に動けば、ペニスへと辿り着く距離。
 動いてしまいたい、と欲望に駆られるのを抑えているのは、やはりアッシュの視線のせいで。
 何を考えているのかわからないけれども、真剣になっているこの状況で、セックスを強請ってしまう訳にはいかなかった。


「ルーク」
「……んぅ?」


 ようやく掛けられた声に、既に半分浮かされている思考で、どうにか頷き返す。
 アッシュの手は、腹から上へと撫でていき、ルークの細い腕で隠していたその下に入り込み、乳房の片方を掴む。
 そのままムニムニと揉まれて、欲しかった快楽を与えられ、ひく、ひく、と躰が揺れた。


「ん、ん……あんっ……や。お兄、様っ……ひゃあっ!」


 掌で優しく揉まれていたのだが、唐突に、ぎゅっと乳首を摘まれ、引っ張られ、ルークはびくんと背を仰け反らせた。
 引っ張られたまま、残った指で器用に、また乳房を揉みしだく。


「あ、んは……ん、んん、んっ」
「……薬は、ちゃんと飲んでいるようだな」
「ぇ……?」
「自分の胸を見てみろ」


 アッシュの手がルークの乳房からどき、ルークはふわふわとした頭で、それでも言われた通りに自分の胸を見下ろした。
 つんと尖った乳首の先端から、白いものが流れ出てきている。
 今までは無かった現象に、ルークは驚き、眼を見開いた。


「なに、これ」
「あの眼鏡から貰った薬だ。一週間に一度は飲めと言われただろう?」
「うん、言われた……」
「あれは、お前の躰が女性としてきちんと機能出来る様に、女性ホルモンを高める薬だそうだ。もし女性ホルモンが欠落してしまったら、これから先つらいだろうからな。二ヶ月前もつらかっただろう?本来なら、あれ程苦しくはならないらしい。元が男だったお前だから、あれだけ吐いて何日も寝込んだんだ」
「……そうだったんだ」


 あの時は、たまたまアッシュが屋敷へと帰ってきた、その直後だったので、ずっと看病してもらえた。
 苦しかったけれど、一週間も一緒にいれて、嬉しかった記憶がある。


「こうやって母乳が出てくるのは、その薬が効いている証拠だ」
「あ、あん!」


 ふにゅと、もう片方の乳房も揉まれ、しかもミルクが出ている方の乳首を、ちゅっと吸われる。
 舌で舐められ、かりっと歯を立てられ、揉まれている方からもミルクが零れ始めた。
 アッシュの手に流れ、乳房を伝い、臍の方までツーと落ちていく、その感触にさえ身震いする。


「……甘いな」
「や、しゃべん、ないでっ……あ、あっんあっ!」


 ぺろりと舌を出して、質の悪い笑みと共にルークの顔を見上げたアッシュは、そのまま胸を弄りながら、下のとろとろと濡れた秘所へと指を伸ばす。
 ぬちゃ……と絡みつく粘膜質の音が響き、次いで奥へと入っていく男らしい無骨で長い指がぐちゅぐちゅと胎内を掻き回す。
 広げられた入り口から空気が入り、ごぷっ、と音を立てて、蜜はアッシュの太腿へと滴り落ちる。
 望んでいたものをようやく貰えた喜びに、ルークはぼろぼろと涙を流して喘いだ。


「ふぁ……ああ、あっ」
「欲しいか……?」
「んああっ!や、やぁ……!」


 指を入れたまま下から躰を持ち上げられ、指の付け根のもっと先ですら飲み込んでしまう程、ずっぷりと指を咥え込んでしまう。
 そのまま躰を前へと引き寄せられ、空いた腕で抱き締められ、唇が触れる程に顔を寄せられた。


「ルーク」


 そっと、優しい音色で名前を呼ばれる。


 それだけで、躰は震えた。
 快楽以外のもので涙が流れる。


 いつもの、お兄様だ。
 自分を見てくれている、欲してくれている、嫌われて……無い。




「ぅ、ぅえええ……」
「ルーク?」


 情けない泣き声を出しながら、アッシュへと抱き付く。
 困惑気に名前を呼ばれ、それでも優しく宥めるように背中を撫でられ、ルークはアッシュの頬へと自分の濡れた頬を摺り寄せ甘えた。


「だ、だって……っ、俺、嫌われてるって、思っ……思ってっ。ひぐ……太っちゃったし、さっきまで、俺の方見てもくれなくてっ……」
「……悪かった」


 アッシュの謝罪と、その後にぽつりと言われた言葉に、ルークは驚く。


「ふぇ……?」


 嫉妬していた。
 確かに、そう聞こえた。


 のろのろとだが、アッシュと視線を合わせる。
 すると、ぱちぱちと涙を零しながら瞬きするルークの眼には、ばつの悪そうに、けれどほんのりと頬を染めて眉を寄せる兄の顔が映った。


「俺以外の奴と、あんなに楽しそうに笑ってやがったから、苛立っちまったんだよ。お前と二人きりでいたら、怒りに任せて無理矢理犯しちまいそうで、追い出そうとしたんだが。なのにお前は、素っ裸になって胸押し付けてきやがるし」


 どれだけ耐えるのに必死だったか、と珍しく歯切りの悪い口調で話す彼に、ルークはまたぽろぽろと涙を流しだした。
 大事にしていると、そんな優しい言葉だったから。


 そっと自分から、アッシュの唇へと羽根のようなキスを落とす。
 そして大好きな人を抱き締めたいと思っていた、その通りに、アッシュの首へと腕を絡ませる。
 回されている腕に、触れ合う胸に、自分の濡れた場所へと当たるペニスに、あったかいなぁと、うっとりと眼を細めながら、静かに囁く。


「お兄様になら、犯されても良い……」
「…………言ってくれるじゃねぇか」
「ん……?ふぁ?あ、んあああっ!?」


 スッとトーンの落ちた声色に、気付いた時には、既に遅く。
 認識をする前には腰を持ち上げられ、胎内へ勢い良くペニスを突き入れられていた。
 ずっと欲しいと感情が先走っていた為に、それを本当に受け入れただけでルークはイってしまい、ぴゅくぴゅくと乳首からミルクが小さな噴水のように飛び出て、仰け反っていた自分の腹へと落ちていく。


「ぁあ……あぅ……」
「良い光景だな」


 中に入っているアッシュに埋め尽くされているのを感じながら、ルークは震える自分の躰を抱き締めた。
 くつりと笑ったアッシュの方は、入れただけではイけなかったようで、ルークの断絶的な締め付けを味わうように、細い腰を掴み上下に揺さ振る。


「ふっ……ふくっ!ぅうう……んぅっ!」


 上へ持ち上げられては手を離されて、ふくよかな乳房が上下に揺れながら、その度に強烈な摩擦と一緒に子宮まで届いてしまうのではと言う程、奥まで昂ぶったペニスを受け入れる。
 一度イッてしまった躰には、あまりにも強烈過ぎる快楽に耐え切れず、逃れるように、ルークはベッドへと手を付く。
 だが、前へと上体を傾ける格好は、まるで胸を触って欲しいとせがんでいる様なものになってしまい。


「ふっ……あぁん」


 案の定、乳房を鷲掴みにされ、ルークは喘いだ。
 揉まれる度に、尖って痛い程に膨れてきた乳首からトロトロとミルクが出てきてしまい、恥ずかしくなる。
 しかも至近距離にあるアッシュの笑みは、何処と無く恐怖を感じてしまうようなものがあって。


 怖いけれども、これから与えられる快楽への期待に、知らず胎内のものを締め付けた。





  to be continued...

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お兄様「大」暴走。

2006.08.13
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