お兄様と屑妹

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++




  休暇(中略)編〜 つづき




 すぅ、と大きく息を吸った。
 それをゆっくりと出していく。

 心地良いまどろみに身を任せ、眼を瞑ったままうつらうつらと緩やかな眠りに酔いしれる。
 優しい匂いが鼻梁を擽り、それがまた気分を浮上させていく。

 幾度と頭を撫でられ、髪を梳かれ。
 だんだんと躰の感覚がはっきりとしてくると同時に、瞼が震えた。

 眼を開け、瞬きを繰り返し、先に見えたものは……女性の胸か。

 ネグリジェらしき寝巻きの隙間から、ほんの少しだけ覗く綺麗なピンク色をした乳首が、そう悟らせてくれる。
 押し付けられている乳房の感触の柔らかさも。

 ならば、これは。


「……ルーク?」


 呟いた声は、いつもの己の耳に入る音と、微かに違っていた。
 けれどもこの頭を胸へと抱き込んでいる主は、その手を緩め、こちらの顔を覗いてくる。


「お兄様、起きたのかっ?」


 驚く声と一緒にまた胸へと抱き込まれて、アッシュは眉を顰めた。
 少し苦しいと感じながら、しかし気付けば己の腕もルークの腰に回されている。

 彼女を抱き枕代わりにして眠っていたようだ。


「よ、良かったぁ……返事してくれた…」
「何をそんな大げさに……何故泣くんだお前は」


 なんだか少し躰が重いと思いつつ、ゆっくりと顔を上げれば、べそべそと泣いているルークの顔が。


「だ、だってもう、二日も寝込んでたんだぞ、お兄様」


 ああ、そういえば熱を出したのだったか。
 そう言われると、躰が重いのも頷ける。
 病み上がりで本調子ではないから。

 それにしたって二日も眠り続けていたのか、と少し驚いた。
 何度か起きてトイレに行った記憶はおぼろげにあるものの、その時誰かに声をかけられたような気がするだけで、一体誰に何を言われていたのかという事までは全く覚えていない。
 起きた時間が何時なのかとか、何日だったのかとかいう事を考える行為すら出来無かった。

 ルークは涙をパジャマの裾で拭き、ぽつぽつと喋り始める。


「俺が起きたら、隣にお兄様が寝ていて。でもいつもみたいにくっ付いたら、躰凄く熱くて。息も滅茶苦茶上がってるし。で、ちょうどその時、母上が俺達の看病のためにって部屋にいたんだけど……聞いたらお兄様、俺の看病して無理したんだって…」


 二人で同じベッドで眠っている場面を、親に思いっきり見られているというのはどうだろう。

 そもそも彼女を哀しませないようにと隣に眠ったはずなのに、泣かせてしまっては意味が無い気がするのだが。
 それが二日間も熱を出して寝込んだ己のせいだというのはわかっているが、まさか看病していて眠っていなかったのまで本人にバレているとは、なんて格好悪い。

 思わず躰全体の力が抜けていき、はぁと溜め息をついて眼を瞑った。
 柔らかな胸へと顔を埋めると、また頭を撫でられる。
 まだ微熱があるのか、頬に触れるきめ細やかな肌の感触がほんのりと冷たく、気持ち良い。


「お兄様、ごめんなさい」
「……気にするな。俺が、お前のために看病したかっただけだ。それより、お前の方は平気なのか?」


 顔色や声からも、かなり落ち着いているようには思えた。
 しかしこうしてパジャマ姿で共にベッドに入っていたという事は、まだあまり良くなっていないのかもしれない。

 ちらりと眼を開けルークの顔を覗くと、彼女は微かに頬を赤く染めながらこくんと頷いた。


「ん、まだちょっと吐き気するけど、だいぶ良くなった。熱ももう無いし。お兄様がずっと傍にいてくれたお陰だ」
「……あの眼鏡の薬が効いたんだろう?」


 柔らかな笑顔にアッシュは咄嗟に言い返すものの、顔を顰めて上げかけた頭をまた伏せた。


「お、お兄様?まだ具合悪いのか?」


 ルークがわたわたと焦りながら、窺ってくる。
 大丈夫だと否定はするものの、どうにもいつもの調子が出ない。
 まだ熱があるせいで頭は少し重いし、カラカラと咽が痛い。
 そう認識した途端、けほ、と堰が出た。


「咽、痛ぇ……」
「あ、えっと水……水。すぐそこにあるから、俺取るよ」


 よいしょとルークが起き上がると、無くなったぬくもりに虚無感を覚えた。
 アッシュも水を飲む体勢を取ろうと、重い頭を上げる。

 くらりと眩暈を覚えつつ周りを見渡せば、窓から見える空は晴れていた。
 青い空に、白い雲。
 太陽の位置からして、昼を少し過ぎた辺りか。

 そして部屋の中は、自分達以外には誰もいなかった。
 誰かがいたら眼を覚ました瞬間声をかけてくるだろうから、そうなのだろうとは思っていたけれども。


「ルーク、父上と母上はどうしている?あと眼鏡……ジェイドは」
「父上は仕事、母上は書斎。ジェイドは客室にいるから、何かあったら呼んでくれって。ほらこっち、寄りかかって」


 ルークは並んでいたクッションを二つ背凭れに置き、水を注いだコップを持ったままじっと見てくる。
 いつになく気迫を出して睨んでくる屑妹に、アッシュはたじろいだ。

 何なんだろうかと危惧するも、指示通りクッションに躰を寄りかからせる。
 渡された水を飲み干し、それをまた彼女へと返すと、何故か嬉しそうに笑われた。


「……何だ?」
「へへ。なんか今日のお兄様、可愛く見える」
「…………」

 思わず眉間に皺を寄せ、そこを指で押さえた。

 果たして褒め言葉と受け取って良いものなのか、判断が出来無い。
 いや、己からすれば明らかに貶されている言葉なのだが……言った相手がルークなのものだから、怒るにも怒れない。

 アッシュは盛大に溜め息を吐きながら、ベッドから抜け出した。
 ルークが慌てて声をかけてくる。


「お、お兄様?どうしたんだ?」
「トイレ。行くだけだ」
「だったら俺も」
「ついてくるなよ……?」


 立ちくらみに頭を押さえつつ、再び立ち上がろうとする相手へと振り返る。

 ルークはうっ、と咽に言葉を詰まらせ、その場に固まった。
 これだけの殺気を出したのだから、当然だろう。
 しかも頭がふらふらしているせいか、手加減など出来ていない。

 戻ってきた時に泣いていたらどうしようかと考えつつ、彼女が固まっているうちに、部屋の洗面所のドアを開けた。







 眠れるのなら眠ってしまおうかとも思ったのだが、流石に二日も寝ていたせいか無理だった。


「お兄様……」
「…………」
「えっと、躰。拭こうか?」


 ベッドへと戻ってきた時、泣いてはいなかったものの不安げにしていたルークは、今もおずおずとした様子でこちらを窺ってくる。
 だがアッシュは無言のままずっとクッションに寄りかかり、ぼんやりしていた。

 すると目の前に、濡らして絞ったタオルが迫ってくる。


「そこに新しいパジャマとか下着とかも用意してあるし、な?」
「………ああ」


 どうにもこうにも、構ってほしいらしい。
 諦めたように頷くと、ぱぁと嬉しそうに顔を輝かせ、ルークは一度タオルを近くにあった洗面器の傍に置いた。
 そしていそいそと、パジャマのボタンに指をかけてくる。


「へへ、やっぱり今日のお兄様、可愛い」
「……おい」


 人がどうして沈黙を守っていたのかという理由がわかっていないのだろうか。
 あまりにも察しの悪過ぎるルークに、アッシュははぁと溜め息をついて困った表情を浮かべた。


「お兄様のお世話なんて、こういう時じゃないと絶対出来無いし。いっぱい俺に甘えて良いからなっ」
「……あのな」
「ん?」
「何でもねぇ」


 なんだか怒っているのが馬鹿らしくなって、しかしわざわざ何かを言うのも億劫で、アッシュは首を振るだけに留めた。

 どうやら熱に弱った姿に、可愛いという表現を使っているだけらしい。
 それはどんな人間でも熱一つでも出せば、口数は少なくなるし覇気も無くなるし、甘える行為もするだろう。

 それに確かに、普段のアッシュは何でもこなしてしまう。
 それこそ他の者は一切の手が出せないほどに。

 手の掛かる子供ほど可愛い、と女は口を揃えてよく言うが、ルークもそうなのだろうか。
 元男だったにも関わらず、今はもう心も完全に女なんだなと思うと、少し複雑な気分になった。

 上着を脱がされると、首元にタオルを宛てられた。
 洗面器の水はぬるま湯だったようで、ほんのりと温かい。
 ゆっくりと胸や腹を拭かれ、腕の方にも滑っていき、汗を拭き取られていく。

 二日寝込んだ躰の汗が重かったのだと、綺麗にされていくとわかる。
 かなり気持ちが良い。


「ん、次。背中拭くから」


 ルークはアッシュの背に腕を回し躰を引き寄せ、クッションから離させた。
 抱き締めるような格好のまま、汗ばんだ背中も拭かれていく。

 こうして女性らしいふくよかな胸に顔を埋めさせようとするのも、ルークからすれば甘えられているという認識に繋がっているのだろうか?

 柔らかな乳房に押し付けられ、甘い香りに包まれるも、アッシュの顔は険しかった。


「お前は……自分が女になってしまって、嫌だと感じた事は無いのか?」
「……お兄様?」
「男のままの方が良かったと、そう思う事は無かったのか」


 今まで一度も聞いた事は無かった。

 女になってからは卑屈どころか、常に笑顔でいたルークの様子に失念していたけれども、男であった者がいきなり女になってしまったのだ。
 周りの人間にはわからない不自由があっただろうし、もしかして悩んだ事もあったかもしれない。

 けれどもアッシュの疑問を振り払うように、ルークは首を横に振った。


「お兄様と一緒にいられるのなら、男でも女でも、どっちでも良いよ。でも、あえて言うのなら……俺が女じゃないと、お兄様とこういう関係になれなかった。お兄様は俺を憎んだままだった。それならきっと、俺は女になれて良かったんだ」


 ふわり、と笑う気配。


「お兄様が、今の俺を愛してるって言ってくれるから。だから、このままで良いよ」
「……そうか」


 今のルークを愛している。

 ならば男の時のルークを愛していたのか、と聞かれれば、答えはわからなかった。
 同じ外見、同じ存在であった己のレプリカであるルーク。
 そんな相手を愛せたのか。

 ルークの言う通り、憎しみの方が大きかった。
 同じ顔を見るたびに苛立った。

 けれども、多分好感はそれなりに持っていたんではないかとも思う。
 でなければ、女になったルークを見ても抱きたいという気は起きなかったはずだ。

 アッシュはふと笑みを浮かべた。
 仮定を口にするなんて、本当に己らしくない。

 そう思いつつ、ちゅっと。
 あやすように、そして甘えるかのように目の前にある柔らかな胸の谷間の中心に唇を落とし、ぺろりと舐めた。
 するとルークは、小さく震える。


「……んっ、あ…?」


 舌を出したまま顔をずらし、大きく開いているネグリジェの胸元を引っ張り、隙間から見えた乳首へと這わしていく。
 まだふにゃりとした柔らかな突起を吸い、舌で弄ると、すぐに硬くなってぷくりと膨らんだ。
 そのままツンと尖った乳首にちゅうと吸い付く。


「あんっ……ちょ、待っ…や、お兄様……んん」


 牽制をかけてくる彼女の乳首から離れ、すぐ上辺りに赤い痕を付ければ、鼻にかかる可愛らしい吐息が聞こえてきた。

 下からネグリジェの中に手を入れ、震える太腿を撫でながら腰まで辿っていく。
 上から下着の中まで手を忍ばせて柔らかな尻を撫で、歪むほどに掴むと、ひくんと躰が跳ねる。
 ルークは濡れたタオルを掴んだまま、胸元にある己の頭に縋りついてきた。


「ぁ、ん……やん、や、お兄様……やめ」
「……俺に甘えてもらいたいんだろう?だから、甘えてやってるんだ」
「だからって、これは……はぅん!」


 利き手を前に移動させ、陰毛の下の小さな陰核を直に弄るだけで、ルークは嬌声を上げながらひくひくと痙攣した。
 女にとって敏感な場所ゆえか、反応が良い。

 ひとまずそこからは指を引き、更に下の花弁の奥をそっとなぞれば、既にじわりと濡れ始めている。


「あ、ゃ、やぁんっ。あ、お兄様、熱出てるんじゃっ……やっ、ゃうぅっ!」


 ずぬっと中へ二本指を突き入れ、くちゅくちゅと濡れる音を聞きながら奥へ奥へと内壁を押し、埋め込んでいく。
 指が全部入れば、自然と掌で秘所全体を覆うようになり、快楽に浮かされて膝で支える力すらないのか、ルークの重みがそこに圧し掛かった。
 それでも女である躰は軽く、もう片方の手では尻を掴んでいるので、普段より力が出ないと言っても支える事は出来た。

 指を動かし胎内の感じる部分をこすり嬲ると、ルークはどんどんとこちらに縋るようになり、より一層指が中へと食い込んでいく。
 愛液に濡れた胎内は、ぐちゅぐちゅと厭らしい音を立て、また新たに蜜を零し下着まで濡らしていく。


「ま、まだぁ、躰拭き終わって、なっ……んあっ、あ、あんっ、あんっ」
「……拭きたいのか?」


 弓なりに顎を逸らしビクビクと痙攣していたルークは、弄る指を止めると、ここぞとばかりにこくこく頷いた。


「はぅ、んっ……うん、…や、止めて……お願い、止めてお兄様……俺、ちゃんとお世話する、から」


 頬を紅潮させ、はっはっと荒い呼吸を繰り返し、眼から涙を零す。
 朦朧とした様子で顔を覗き込まれ、アッシュは答えるように薄く笑みを浮かべた。


「だったら、全部拭いてもらうか」
「ん……んぅ!」


 胎内から指を引き抜き、下着からも取り出した。
 ぐすと鼻を啜りながら、慌ててネグリジェの裾を降ろし整えるルークを、笑みを浮かべたまま眺める。

 そしてこちらを見てきた時、アッシュはとろとろと濡れて糸を引く愛液の絡まった指を舐めてみせた。
 ルークは湯気が上がるほどカァッと赤くする。あまりにも可愛らしい姿に、クックッと咽が震えた。


「苦い……けど、甘いな……?」
「や……や…ぁ」


 視覚的にすら感じてしまったのか、ルークは小刻みに腰を揺らしている。
 それにまた笑みを深くするも、アッシュは愛液を舐め取りながら、顎でしゃくった。


「拭いてくれるんじゃなかったのか」
「……っ、うん。拭く……拭く、けど」
「自分で脱いだ方が良いか?」


 既に上半身は拭き終わったのだから、次は下半身になるのが必然。
 しかし下を脱ぐとなると、己のペニスを眼にする事となる。

 いや確かに、ルークが気持ち悪さに吐き続けた期間、アッシュは彼女の様子を伺いながら時々汗を掻く躰を拭いてやった。
 それこそ隅々まで。
 もちろんルークの様子に気が気ではなく、性的な行為へ繋がる事など一切無かったけれども。

 だからコイツも、そんな風に躰を拭いた己に同じものを返したいと思っているのだろう。


「お、俺が脱がす」


 ルークは戸惑いながらも頷き、律儀に握っていたタオルを洗面器の横に置くと、足の間に座ってきた。
 そしてパジャマの下に手をかけ、下着と一緒にそろそろとズボンを下ろしていく。

 腰を浮かせば楽に脱げるのだが、あえてそれをしなかった。
 クッションに深く背中を預けたままだ。
 そして次第に頬を赤く染めて難しい顔をしていく彼女を見下ろす。


「どうした?」
「っ……えと……な、何でも…」
「……欲しくなった、とかな」
「ぅっ……」


 アッシュが腰を上げないため、丁度ペニスが見えた段階で引っ掛かっている状態だ。
 ルークは恥ずかしそうに眼を潤ませながら、それでも物欲しげに咽を鳴らし、上目遣いでこちらを見上げてくる。


「あ、あの……俺、ちゃんとお兄様の世話……したいんだけど。でも、その……あの」
「お前の好きなようにしたらどうだ?」


 もじもじと太腿を擦り合わせ、しどろもどろに言葉を紡ぐルークに、無表情のまま答えてみせる。
 しばらくは目線を彷徨わせ黙ったままであったが、観念したのか、眉を寄せたまま遠慮がちにまだ勃ち上がっていないものに手を伸ばしてきた。





  to be continued...

/

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

病み上がりなのにね…!

2013.03.13
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

←Back