変わらないもの  
中篇

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「ほら、ちゃんと歩けってばよ」
「歩いてんだろぅがよ」


 ナルトと肩を組みながら、引き摺られるようにして夜道を歩く。

 今日は修行のし過ぎで足下が覚束無く、不本意にもナルトと肩を組んで、世話になっている家まで帰らなければならない状況だった。
 視界がぼやけているし、頭も重い。
 一日中チャクラを練り続けた記憶はあるが、こんなになるまで無茶をしてしまっていたのだろうか。
 自己管理が出来無いとは、情けない。

 カカシに言い渡された、足だけの木登り修行は、意外にも難しかった。
 サクラはさっさと出来てしまったというのに、自分はこのドベと一緒でまだ天辺まで登れない。
 しかも少しずつではあるが、追いつかれてしまっているのだ。

 焦りが、滲んでしまう。


「おいドベ。…テメェには、負けねぇからな」
「……サスケ?」
「絶対に、負けねぇ。お前には、俺を追い越す事は出来無ぇんだよ。どれだけ追い掛けてこようが、逃げきってやる」


 どうした事だろう、今日は思っている事が簡単に口から出ていってしまう。
 こんな事を言ったら、ナルトは憤慨して喚くだろうに。
 疲れているから相手にしたくないのに、気付けば自分から油に火を注いでしまっていた。

 しかし返答は、予想に反して静かなものだった。


「…そうだな。サスケには、ずっと逃げていてほしいってばよ。不用意に近づいたら絶対に喰っちまう。今だって、自分を抑えるのに必死なんだからな」


 耳に届いてきた言葉に、サスケは眉を寄せた。

 何を言っているんだ、コイツは。
 力を抑えて、俺に勝てるとでも思っているのか?
 それとも勝つ事を諦めたのか。

 …いや、ナルトがそんな柔な性格でないくらい、知っている。


「はん。ナルトのくせに、俺を馬鹿にするとはな。そんなんで俺に勝とうなんざ百年早ぇんだよ、万年ドベが」
「万年ドベ、ね。久しぶりに聞いたってばよ、その台詞。…全く、ここ最近の俺達の状況を忘れるほどに酔っぱらっちまうなんて、サスケってば気ぃ抜きすぎだぜ?サクラちゃんも、こんな状態のサスケを俺に押し付けてくるなんて酷いってばよ」
「ああ?何ぐだぐだ文句言ってんだよ。言いたい事があるならハッキリ言え」


 耳元で煩いナルトを、サスケは睨み付けた。
 眠気で視界がぼやけているが、それでもナルトの蒼い眼が何処にあるかだけはわかった。

 本当に、嫌みなくらいに澄んだ蒼をしている。
 穢れを知らないわけではないのだろう。
 理由は知らないが、彼は生まれた頃から独りだと聞いていたし、昔から悪戯ばかりするからか里の大人達からも好かれていなかった。
 誰かを憎む事だって、ありそうなものなのに。

 それでも強く、ひたむきに前を見続ける強い双眸をしているのだ。
 憎しみに塗れている自分にとって、何処までも広がる青空のような清々しさには、惹かれずにいられない。
 陽のように眩しく、暖かな命の光を放っている彼が羨ましい。

 そして本人に言う気は全く無いが、追われる事が心地良くもあるのだ。
 ナルトが自分を見ている事に、言いようもない優越を感じる。

 ずっと睨んでいると、ナルトは深い溜め息を吐いてきた。
 さっきから何なのだ、コイツは。
 ナルトのくせにムカつく反応ばかりしてくる。

 喧嘩を売られたら、啖呵を切って買う奴だろう?
 失礼にも人を指さして、負けねぇってばよ!と、大声で叫ぶだろう。
 何故そんなに、大人びたような反応を取るのだ。


「おい、ナルト?」
「…サスケ。近づいてきたのは、お前からだからな?」
「はあ?お前、さっきから何、訳のわからない…っ、……ん」


 ………っ、…な、…に?

 何を、されている?


「ん、んっ……んふ、ぅ、んん」


 ああ、これは…キスだ。

 ナルトの生暖かい舌が無遠慮に口の中に入ってきて、あっという間に弄られていた。
 逃げようとしても、いつの間にか腰をきつく抱き締められていて躰が密着しあい、しかも空いている手で顎を掴まれ、動かないように固定されてしまっていた。
 ナルトのくせに何処からこんな力が出てくるのだろう、躰を捩っても退かせない。

 …違う、自分の躰に力が入っていないのだ。
 どれだけ突っぱねようとしても、何故か手が震えていて、ナルトの服を握る事しか出来無い。


「ぅん、…ん、んぅっ、ふ……は、ん」


 咥内を余す所無く舐められていき、くちゅくちゅと唾液が混ざった。
 舌と舌が絡み合って、時折舌先を柔らかく突かれれば、生々しい感触に何度も背筋が震えてしまう。

 何でこんな事を、と思うのに、どんどんと快楽に侵食されて思考が奪われる。


「は、サスケ……ん、」
「ん、ふ……ん、ぅ、ナルト、…ぁふ、は…」


 絡み合っていた舌が離れ、代わりに下唇を柔らかく食まれた。
 それだけでふるりと背筋に悪寒が走っていき、堪らずにぎゅっと眼を瞑る。
 ナルトの腕が腰に回っていなかったら、きっとその場に崩れてしまっていたくらいに、躰はふらふらだった。

 唇を軽く吸われて、そのままナルトの暖かい唇は自分の唇とくっついたまま。
 そっと眼を開けてみれば、間近で互いの双眸がぶつかり合った。
 焦点が合わないほど近くに、ナルトの蒼い眼がある。


「サスケ…」
「…は、………ん」


 鼻が擦れ合い、ナルトの熱い呼吸が口の中に入ってくるような感覚がした。

 ふわふわとした熱に酔わされながらも、サスケはふと疑問に思った。
 つい最近にも、こんな近くから眼を覗かれた事が無かっただろうかと。
 彼の蒼い眼が、普通の状況では有り得ないだろうというくらい、近くにあった。

 あれはいつだった?
 確か、ナルトが請け負った任務の状況が気になって、彼の元に足を運んで話し掛けて……。


「…―――――っ」


 驚きに声が出ないとは、この事か。

 そうだ、自分達はもう下忍では無い。
 あれからもう、何年も経っているではないか。

 ナルトに負けたくなかった、そして復讐を果たしたくて里から抜けた自分は、それでもナルトに追われて追われて、追われ続け。
 色々な事があったけれど、過去を清算して、コイツのいる里へと戻ってきていた。


「ぁ…ナルト。その、これは」


 間近にある、ナルトの眼。
 それは冷たいものへと変わっていた。
 自分を見つめてくる獣のような眼に、キスの時とは違った悪寒を感じる。
 辺り空気が張り詰めていく。

 何故すっかり忘れていたんだ。
 酒か、酒のせいか。

 そういえば隣に座っていたサクラから、飲みすぎだと注意されていた記憶が何となく残っている。
 しかしナルトにとっての自分は特別だと彼女から言われて、うっかり舞い上がってしまったのは自覚していた。
 そして何故ナルトと二人きりで夜道を歩いていたのか、そこら辺の経緯が全くわからない。

 ナルトが、相変わらず腰を抱き閉め唇を触れ合わせたまま、クツリと咽を鳴らした。


「ようやく、気が付いたか?…でももう、遅いってばよ。今だけは、………離さない」
「ナ、ルト」
「喰わせろよ、サスケ」


 ―――骨の、髄まで。


 妖艶な囁き声と、押し付けられてきた下半身に、サスケはあまりの驚愕に眼を大きく見開いた。




















 白いシーツを、震える手でもってどうにか手繰り寄せようとした。
 しかしそんなもので顔を隠せる筈は無く、隠したところで野獣の眼から逃れる事も出来無い。

 窓から見える空が闇夜であろうと、月光だけが頼りの暗い部屋の中であろうと、忍である自分達にとっては全く障害にならないのだ。
 だがそれが、今はこんなにも恨めしかった。


「ぁ、は……くぅっ、う」


 ナルトの住む部屋に連れ込まれて。
 酒で力の入らなくなっているせいで抵抗なんてする力も無く、ベッドの上で全裸にされて、躰を見られている。
 何であんなに飲んでしまったのかと、今になって自分の行動を呪いたくなった。

 しかも彼が服を脱いで上半身を晒した時、月光を浴びたその青白く浮かび上がる姿に、うっかり見惚れてしまったなどとは口が裂けても言いたくない。


「っ…くそ、見るな……っ、う」


 何度そう言っても、ナルトの眼は離れてくれそうにない。
 足を掴まれて、無理矢理股を開かされ、中心にあるペニスにねっとりとした視線が絡みついている。
 それだけで浅ましくも感じ、勃起してしまっている自分が、情けなさすぎる。

 しかも揶揄するように、クスリと笑われた。


「サスケのここ、凄くいやらしいってばね」
「っ……」
「ほら、見ているだけで少しずつ蜜が零れてきている。月の光に浮かび上がって……艶めかしい」


 言葉で責め立てられて、サスケは恥辱に歯を食い縛った。
 どうにもならないとわかっていながらも、自分の倒錯的な格好を見ないようにぎゅっと眼を瞑る。

 しかし、その途端。


「っぅ!」


 ぴちゃ。

 ペニスの先端に触れてきた感触に、思わず腰が跳ねた。
 そのままカリまでを暖かいものに包まれ、先端の尿道の入り口を舐められていく。

 ぴちゃり、ぴちゃりと音を立てながら先走りを吸われ、腰が勝手に揺れる。


「…う、くぅ…っ、っ」


 眼は強く瞑ったまま、口を押さえて出ていこうとする嬌声を我慢した。

 口淫を施しながらも、ナルトの手は、何も身につけていない太股を撫でてくる。
 手触りを楽しむように、膝から股の付け根までを何度も往復して。
 時々袋の方まで嬲られては、びくりと腰が撓る。

 それだけだと思っていた。
 それ以上の事は無いだろうと。
 だが暫くして、一連の動作に紛れて触れてきた場所には流石に驚きを隠せず、サスケは弾かれるようにナルトの方を見てしまった。


「っ―――」


 まずったと気付いても遅く、自分の下半身も一緒に見てしまい、あまりの状況に羞恥から全身が熱くなった。
 それでいて、ナルトの眼に捕らえられて逸らす事が出来無くなる。

 強すぎるのだ。

 蒼い眼の強さが、指一つ動かせないほどに自分の躰を縛り付ける。
 これ見よがしとばかりに、ナルトはこちらを見つめたまま、月光に彩られテラテラと濡れたペニスを舐めてくる。
 ちろりと、赤い舌を見せて口の端を上げる。


「っ……ぁ」


 背筋が震えた。
 一気に射精感が高まり、ガクガクと腰が痙攣してしまう。
 我慢していた筈の声も、呼吸がままならなくなったせいで閉じる事が出来無かった。


「ぁ、っ……ん、はぁあ」
「ふ…スゲェ綺麗だってばよ、サスケ」
「う、あ、馬鹿ヤロ…っ、くわえたまま喋んなっ…っあ、……っ、ぁ、も」
「イきたい?」
「だからっ!っ…ぁ、あっぅ、っ―――!」


 与えられる愛撫に我慢出来ず、サスケは咽を引き攣らせた。
 足をシーツに押付けてもなお、ガクガクと揺れる腰。
 飛び出る熱い精液、そして…ごくりと咽を鳴らし、飲まれる音。


「ぁ、……う、ぅ…」


 イったにも関わらず、中身が無くなるくらいに穴の中を吸われる。
 そして綺麗にする為か、陰茎の部分を、獣の毛繕いのように舐め上げられていく。


「ん…ちょっと濃いけど、美味かったってばよ、サスケの精液」
「っ……、」
「イく時のサスケ、凄く色っぽい顔してたし。ここもスゲェ気持ち良さそうで…」
「もう、黙れっ」
「―――エロい」


 囁くナルトの艶めかしくも擦れた声に、サスケは泣きたくなった。
 これ程に居た堪れなくなったのは、もしかしたら初めてかもしれない。

 何なんだ、一体。
 何故男である自分が、同じ男である友人からこんな事をされなければならない?
 こんなふうに人の躰を弄んでまで、ナルトは自分に何を求めているというのか。

 そんな、頭が混乱した中での問いは、余計に混乱の渦へと落とされる事によって答えを得る。


「っうあぁ!?」
「あぁ…すげぇ狭いってばよ、サスケのここ」
「な、ぃ…あぐっ」


 さっき、一度だけ触れられた場所だった。
 指で微かに撫でられて思わず眼を開けてしまったのだが、今の状態はその比ではない。
 中に、指が埋め込まれている。

 こんな事をされてもなおわからない程、残念ながら自分は無知ではない。

 抱くつもりか。

 この俺を。


「サスケ、まだ第一関節も入っていないってばよ?そんなに締め付けんな」
「ぅっ…ふ、ざけんなぁっ」


 あまりの言いぐさにキレたサスケは、瞬間的に右手に溜めたチャクラをナルトの顔面に向かって突きつけた。
 しかし、手首を掴まれて制止させられる。

 バチバチと雷を纏った、月明かりの下で美しく光を帯びる手。
 その手を捻られて、身動き出来無くされるのだと思っていた。

 だが予想に反し、捕まれた手はナルトの鍛えられた胸部へと運ばれる。

 心臓の上に。
 驚きに眼を見開き、ナルトの胸板に触れる瞬間、慌ててチャクラを拡散させた。

 ひたり。

 掌が、暖かな肌に触れる。

 トク、トク、と規則的な音を刻む鼓動に、思わず肩の力が抜けていった。

 そんな自分の様子に何を思ったのかはわからないが、ナルトは笑みを浮かべた。
 ニッと、明るい笑みを。

 それこそ自分が小さな頃から見てきた、月下でもなお太陽のように光り輝く暖かな笑みを。


 ―――こんな状況で、浮かべやがる。




「もし本気で嫌なら、俺を殺せってばよ」




 ……ああ、頭が痛いのは、確実に酒のせいではない。





  to be continued...

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ナルト誕生日祝いなので、とにかくナルトを格好良くしようと思って書いてるんですが…
格好良いを通り越して、怖くなってやしないかと少しドキドキ。

2008.10.31
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