adolescence 3
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「あの、兄さん…」
「なんだ?」
隣に立っているイタチは、声を掛けると少しだけ首を傾げ、こちらに視線を向けてきた。
サスケはハァと溜め息を吐いて、顔を赤らめたままボソリと呟く。
「そろそろ手、離してほしいんだけど…」
アトラクションに並んでから、既に十五分が経過していた。
しかし未だに手を繋いだまま、離される様子が無い。
小さい子供だったらわかるのだ。
手を繋ぐ理由は兄弟で迷わないようにする為だし、周りからは仲良しだねと微笑ましく思われるだけだろう。
しかし、この年齢ではどう考えても可笑しい。
男女の恋人同士ならばともかく、男同士、しかも兄弟だろうとわかるくらいには似ている自分達が、人前で手を繋いでいるなんて。
周りからは絶対にキモく思われている。
前のカップルとか、後ろの女集団とか。
視線が自分達の手に注がれているのは気のせいではない筈だ。
しかも、イタチの容姿と醸し出されているオーラに老若男女誰かれかまわず引き寄せられてしまうので、余計に見られてしまっている。
「サスケは、俺と手を繋いでいるのは嫌なのか?」
「え?や…嫌って訳じゃ無ぇけど…」
むしろ嬉しいけど。
だって、凄く凄く好きなのだから。
ただ少しばかり、周りから変な眼を向けられるのが嫌なだけで。
イタチはサスケの言葉に何を思ったのか、先程よりも強く握ってきた。
暖かいぬくもりに、心がほわりと包まれる感覚に陥る。
「………」
イタチは、自分の事をどう思ってくれているのだろう。
彼女や友人達と一緒にいたのに、俺のところに来てくれたという事は、もしかして期待しても良いのだろうか?
彼女よりも、血を分けた弟の方が大事でいてくれるのだと。
手を繋いでいる状況で、果たして兄がどんな表情をしているのか気になって、もう一度顔を盗み見ようとした。
しかしまた列が進み、アトラクションの建物に入ってしまった。
室内は薄暗く、表情がわからなくなる。
ついでに周りからも見られなくなるから、気は楽になったけれども。
「兄さん」
「ん?」
「…彼女、ほっぽっといて良いのかよ」
ついうっかり聞いてしまったのも、顔が見えなかったせいだ。
でもこれだけは、ちゃんと知っておきたい。
自分の方が大事なのか、それとも…
「ああ、もう別れた」
……―――ぇ?え?はい?
今、なんて?
別れた、別れたって言ったか?
「な、何で」
「本気になられ過ぎたからだな。セックスしたいから付き合ってくれと言われ、それならばと了承したんだ。なのに、どんどん束縛されてきて。頻繁に会いたがれて、メール返さないだけで喚かれる。挙げ句に、私の事好きじゃないの?だ。初めは躰だけだと言っていた筈なのに、いつの間にか心まで求められるようになったのが、重かったから切った。俺は恋愛というものにあまり興味無いし、誰かに時間を割くのも煩わしいから」
絶句。
唖然。
言葉なんて出てきやしない。
折角彼女がいなくなったってわかって、すげぇ喜んだのに、何だよそれ。
何なんだよ、アンタのその考え方。
まさか、自分の兄がそんな人間だったなんて思わなかった。
だって心はいらないけれど、溜まるからセックスはするって意味だろ?
でもそれって、最低な人間になっちまうんじゃねぇの?
それとも、大人とはそう言うものなのだろうか。
小説の登場人物の中には肉体的快楽だけを求める大人も出てくるけれど、実は現実でも結構いたりするのか。
まだ中学生の自分には、わからなかった。
ただそれでも、理解した事がある。
兄さんにとって恋愛は必要無いけれど、セックスはそれなりに必要なのだ。
これはある意味で絶望的だが、ある意味、自分にもチャンスがあるという事にならないだろうか。
「兄さん。兄さんって、男の人と付き合うとかは出来るのか?」
「………どうしてそんな事を聞く?」
周りには聞こえないように小さく呟けば、イタチは怪訝な声を出してきた。
薄暗い中、見下げてくるイタチの眼が鋭くなったような…痛い視線。
握られた手も少し痛くて、思わず小さく顰める。
「ぃ」
「あ…すまない、サスケ」
「や、別に良いけど。やっぱり、男同士って変…だと、思う?」
もし変だなんて言われれば、完璧見込み無し。
もし大丈夫ならいける、チャンス到来。
後者であってほしいと願いながら、薄暗い中でじっと兄の顔を見上げる。
暗い場所に慣れた眼は、きちんとイタチを捕らえられた。
イタチは、眉を寄せて逆に聞いてきた。
「もしかしてお前、男の人を好きになったのか?」
「ぁ、………と。いや、どうだろう。単なる興味っつうか、その…」
兄さんの事が大好きです。
なんて、言える筈は無い。
兄には恋愛に興味が無いとわかったばかりなのに、口を滑らす程に愚かではなかった。
どうにか誤魔化せないだろうかと思うのだが、普通はわざわざそんな事を聞いたりしないよな、と何処かで冷静に頭が回ってしまっている。
というより、イタチの頭の回転の良さに辟易してしまう。
無言になってしまうと、イタチもやはり無言になった。
やばい、すげぇ気まずい。
やっぱり阿呆みたいな事、聞かない方が良かっただろうか。
つうか引かれたか、引かれたよな、ドン引きだよな。
あああやっぱり見込み無…
「俺は、男同士でも構わないと思う」
「へ?」
「ほら、順番だ」
「あ…」
あれこれと悩んでいたら、いつの間にかアトラクションの順番が回っていた。
手を離されて背中を押され、促されるように先に座席に座る。
そして自分の隣には、当然イタチが座って。
そのまま、二人乗りの椅子がレールの上を緩やかに動き始めた。
「つう事で、襲ってみようと思う」
ぽか――――ん。
同じテーブルを囲んでいる友人達が、皆一様に間抜け面を晒した。
ナルトとシカマルはポテトを持っていた手を止め、キバはバーガーをぼとりとトレイの上に落とす。
サイまで、ストローを咥えたままだ。
しかしサスケは、気にせず捲くし立てた。
「やっぱり肉体関係だけでも欲しいんだ。どうせ心は必要無いって言ってんだから、俺でも良いじゃねぇか。兄弟で血の繋がりがある分、精神面では赤の他人の女達よりも我慢出来るし、男同士だから妊娠もしねぇ」
「や、待て待て待て待て待て」
「んだよ」
えらい勢いでシカマルに止められ、サスケはムッと口を尖らせて彼を睨んだ。
しかし神妙な面持ちで、溜め息を吐かれる。
「昨日の今日で呼び出され、何を言うかと思えば…」
「あーあー、切羽詰ってんなぁお前」
シカマルやキバの、呆れた声色。
だがサスケは本気だった。
本気でなければ、わざわざ日曜日にまで皆を呼び出して相談したりはしない。
「五年だぞ、五年。これ以上我慢出来無い。俺は、兄さんの躰だけでも手に入れてやる」
「……まぁ、それでサスケが良いって言うなら、俺は止めないってばよ」
「そうだねぇ。僕からすれば、何でもっと早く行動しなかったんだって感じだし」
「や、今ならまだしも、五年前から襲うとか言ってたらヤバイだろ。小学生だったじゃねぇか」
「つうか、もしイタチさんに嫌われたらどうすんだ?襲って、憎まれたらどうすんだよ」
「そ、れは…」
全員の視線がいっせいに自分へと向けられ、少しばかりたじろいでしまう。
考えなかったわけでは無いのだ、もしそんな事をして、二度と口を聞いてもらえなくなったらと。
兄さんと遊園地を回って一緒に家に帰って、それから一晩中考えた。
だがそれでも、もう耐え切れないという気持ちの方が強かったのだ。
もし一度きりだったとしても、兄とセックスが出来るのならば、今度こそ諦めもつくかもしれない。
今度こそ吹っ切れて、普通に女と付き合う気になれるかもしれない。
でも……、本当に怖くないかと言われたら、否だ。
自分がイタチを嫌いになる事は無いと、断言出来てしまうから。
昨日の兄の恋愛感を聞いてビックリはしたし、それって最低なんじゃ…とも思いはしたけれど、嫌いになんてならなかった。
無言でいたサスケに、声を掛けてきたのはサイだった。
「襲うって事は、サスケが突っ込むの?」
「ぶほっ!」
「うわ、キバ汚ぇってばよ!」
キバが飲んでいたコーラを噴き出し、向かいに座っていたナルトが逃げるように立ち上がった。
何やってんだとシカマルの呟きが聞こえてくるも、キバは動転のあまりかコーラを顎に垂らしたまま、サイへと顔を向ける。
「つつつ突っ込むって、イタチさんにか!?サスケが!??」
「何、君。そんな事がわからない程に子供じゃないでしょ。狼狽えないでよ」
「ぅぐ。そーだけど…」
「俺が突っ込む」
「無理でしょ」
間髪入れず否定されて、サスケは思わず眉を寄せた。
それが思いっきりサイに伝わったようで、やれやれと頭を振られる。
「考えてもみなよ。男同士だよ?イタチさんが男同士でも構わないと言ったからって、経験があるかどうかは別でしょ。許容は出来るけど、自分が男に抱かれる事まで考える奴なんて普通はいないし。それなのにもしサスケが襲ったら、イタチさん、精神的にも肉体的にもつらいんじゃないの?それこそ嫌われる」
自分がイタチを受け入れるとは、正直全く考えていなかった。
つい最近までなんて、あわよくばキスくらい出来ればとしか思っていなかったくらいだし、男としては相手を抱くものだとばかり。
だがイタチに、自分ではない男をその身に受け入れるなんて経験があったとしたら、激しく嫌だ。
多分、女性相手だけ……だと思いたい。
ただそうなると、サイの言う通り、自分が受け入れた方が良いのだろうか。
それを肯定してきたのは、面倒くさがり屋のシカマルだった。
「だな。サスケはイタチさんがすげぇ好きだから良いかもしれないけれど、イタチさんにとってのお前は、普通に弟だし。ヤルならまだ、サスケがネコの方が無難だと思うぜ」
「それにサスケ、童貞でしょ。女の経験無いのに、いきなり男を抱くなんて出来るとは思えないけど」
「………そういうもんなのか?」
童貞という言葉を、わざわざ否定する気は無かった。
五年間イタチ一筋であり、当然の如く経験なんて皆無。
つうか、中学三年という歳で女との経験がある奴なんて、殆どいないだろう。
ここにいるメンバー全員、童貞だ。
「確か、男にも前立腺ってものがあるから一応は感じるみたいだけど…突っ込む場所が場所だしねぇ。相当にテクがないと無理なんじゃないかな」
「…何でお前、そんなに詳しいんだよ」
ほとほと呆れた様子のキバは、どうやら話に付いていけないようだ。
さっきからガシガシと、飲み終わったコーラの氷をストローで突いている。
ニコリと、サイが笑った。
「本の虫を舐めないでほしいね。頭の悪い君と違って、僕は博学なんだ」
「なっ…テメ」
「じゃあどうすんの?サスケがイタチ兄ちゃんの上に乗っかるってば?」
「ナ、ナルトまでそんな平然と」
ガーン、とわざわざ口に出すキバに、ナルトが肩を竦める。
いつかはこういう日が来ると思ってたから、という理解ある言葉と共に。
サイも、ふむと考える動作を取る。
「もし本当に襲うなら、そっちの方が良いんじゃないのかって話。サスケが前々からきちんとイタチさんを受け入れる準備をしておけば、二人とも苦痛はあまり無いと思うし。ただ、僕の知識もここまでなんだけどね。具体的にどうすれば良いかは知らない」
「ネットで調べれば良いじゃねぇか。ああ、俺んちにパソコンあるし、マジでヤル気なら今から来いよ。…マジで、ならな」
「もちろん、行く」
シカマルの提案に力強く頷いて、サスケは目の前のバーガーの包み紙を開いた。
話していて全く手を付けていなかったものを、四口程で胃袋に収める。
「俺も行くってばよ!」
「じゃあ、僕もそうしようか」
「俺は…」
「お前も来い。旅は道連れ世は情け、乗り掛かった船だろう」
「…へぇへぇ、わかったよ」
友人達がわいわいと話している間、サスケは冷めかけたコーヒーを飲みながら、ポテトを急いで口の中に運んだ。
to be continued...
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イタチもだけれど、サスケもかなり鈍いです。
そして友人達のせいでどんどんとヤバイ方向に…誰もストッパーにはなれない。
2008.11.21
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