*この話は友情ものであり、カップリング指定はございません。

*性格は、みんなエンディング後のものを想定して使っています。
 シキに関しては車椅子エンドを、アキラに関してはケイスケor源泉ルートあたりの性格で書いている……つもりです。










 ありふれた日常の中、けれどどこかで確かに、何か特別な事は起こる。




   こんな日々に  prologue

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 透き通るような青空が広がり、薄い雲がそのスカイブルーに溶け込んで、優しい色を映し出している。
 太陽はこの秋の季節に合ったゆるやかな日光を注ぎ、街の雰囲気を明るくしていた。
 今日一日を過ごすのには快適そうだ。

 その景色をベランダから見ていた男は、洗濯物を干し終わり、空になった洗濯籠を持つとマンションの中に入っていった。
 それを元置いてあった洗面所に戻し、リビングに置いてある時計を確認する。
 清潔感漂う、まるでそこに住んでいる者の性格をそのまま現すような、必要最低限のものしか置いていない場所……と思いきや、もう一人の住人のおかげで色んな小物が飾られている。

 時間、か。

 ふう、と息を吐き、男はそのもう一人の住人の部屋へと足を運ぶ。
 わざわざ部屋をノックして入るような間柄でもなく、ガチャリとドアを開けた。
 部屋の中は、まだ遮光カーテンが引かれていて、朝だというのにかなり暗い。
 ここの主はやはり寝ているようで、人が入ったというのに起きる気配は無かった。
 仕方無く、その主の躰をぽんぽんと叩く。


「リン、起きろ。朝だ」
「……んー」


 唸りながらもぞもぞと布団を引き寄せ拒む姿に、男は溜め息をつき、とにかくも部屋のカーテンを開けた。
 一気に部屋の中が明るくなり、窓を開けると涼しい風が流れ入ってくる。
 ベッドに視線を戻すと、明るくなったせいか、リンは布団を頭からかぶっていた。


「おい、もう九時半だぞ。今日も大学があるんだろう?俺に起こせと言ったのはお前だろうが」


 今度は、自分と同じくらいの大きさの躰を揺さぶり、覚醒を促してみる。
 するとようやくリンは意識が浮上してきたのか、もそもそと布団から顔を出した。


「あー…兄貴、おはよ……」
「ああ。まだ眠たそうだな」
「夜中まで、課題やってたから…う〜…兄貴、起こして……」
「甘ったれるな」


 そう言うものの、のろのろと腕が自分の方に伸ばされ、首に巻きついてくると、少し浮いた背中に手を沿え起こしてやる。
 上体を起こしたリンはシキを離すと、眠たそうな眼を擦りながらも、ようやくベッドから出て立ち上がった。


「だらしない格好だな」
「…寝てる時まで、神経使う訳にはいかないでしょ……」


 あふ、とリンが欠伸をする。
 しかし少し長めの金髪はぼさぼさ、眼はまだ半分閉じていて、下はジャージに上半身が裸とくれば、だらしなく見えるのは仕方が無い。


「兄貴も、俺と大して変わらないじゃん」


 一体どこを見ればそう言えるのか。
 シキの黒髪は少し跳ねてはいるものの、きちんと整っているし、裸足ではあるが黒いロングテーシャツにジーパンという、家の中にいるには十分整った服装をしている。
 シキがしかめ面をしたのがわかったのか、リンはニヤリと笑った。


「兄貴だって?寝てる時は髪の毛ぼさぼさだし、たまに起こしに行っても抱き枕は離さないし。俺なんかと違って全裸で寝てるし。寝てる時まで完璧なんて、ありえないでしょ」
「……いいから顔を洗え。朝食はもう出来ている」
「ふぁーい」


 気の抜けた返事をしながらも、リンは楽しそうに笑ってみせた。
 全く誰に似たのか、良い性格をしている。
 顔や背格好はかなり似ているらしいが、眼の色も髪の毛の色も全く違う兄弟だった。
 片親が違うので、そういうものなのだろうとも思うが、性格に関しては、まるでお互いに違う環境で育ったのではないかというくらい違っていた。

 ちなみに年齢は六歳差、現在リンは大学一年の十九歳だった。
 二十五歳のシキはモデルの仕事をしている。
 二・三年前まで女の子のように見えたリンは、今や兄であるシキよりも目線が微妙に高い。

 リンが洗面所に立っている間、シキは味噌汁を温め直した。
 茶碗にご飯を注ぎ、軽いおかずをテーブルに並べる。
 味噌汁と箸も置いた頃には、リンはきちんと着替えまで終わり、椅子に座っていた。


「ねぇ兄貴、今日は仕事何時から何時まで?」
「一時からだが、何時に終わるかは…早くても五時じゃないか?」
「じゃあ買い物は俺が行くよ。今日は三限で終わるから。ああ、そういえばさ……」


 少し遅い朝食をとりながら、他愛も無い会話をする。
 男の飯など、ものの五分で食べ終わるし、リンの通う大学はマンションから歩いて十五分という場所なので、朝食を食べた後はシキが入れるコーヒーを飲み、ゆっくりしてから出掛けるのがいつものリンの行動だった。



「それじゃあ、行ってきます」
「……気をつけろよ」


相変わらず子ども扱いだな、というリンの小声には、シキはあえて耳を貸さない。
弟である事には変わりないし、六歳も違うのだ。
結局リンも、シキのそんな反応には苦笑するだけで、それでも嬉しそうに笑顔を見せる。


「はいはい。兄貴も、仕事頑張って」
「頑張るまでもない」
「はは、そうだったね」


リンは笑いながらもシキに手を振り、玄関をくぐっていった。



そして今日も、いつもと変わらない一日が始まる……。





  to be continued...



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日記で書いていたパラレル連載小説を纏めました。
シキ&リン兄弟の視点です。

2005.12.05

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