お兄様と屑妹

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  スパでお兄様とにゃんにゃん〜貸しきりで水中プレイ編〜




 ルークが女の子になってしまってから一週間。
 ジェイドの怪しげな薬で女の子になってしまったものの、本来ならば一日程で元に戻るという話だったのだが。
 一体何が原因なのか、ルークはずっと男には戻らず、結果、そのままの状況で旅を続ける事となっていた。

 そして、この日の夜。




「うひゃぁ、綺麗ー!」
「ホントね。相変わらず綺麗な雪の降る場所だわ」
「そうですわねぇ。いつ来ても、ロマンチックな場所ですわぁ」


 久しぶりに寄ったケテルブルクで、きゃあきゃあと女性人達が街中を歩く。

 確かに夜の雪景色は美しかった。
 雪が降る土地らしく、まだ夕食前だというのに空は闇に包まれていて、しかし街頭の明かりを反射した真っ白な雪のお陰で、街も人もとても明るい。

 やはり良い所だと、ジェイドは己の故郷を眺め微笑んだ。
 買い物にでも行くのか、女性三人と荷物持ちとして彼女等に連れられているガイを遠くに見やり、さて自分はどうしようかと思いながら、まだすぐ近くにいる二人を見る。


「腹を隠せ腹を。風邪引くぞ屑が」
「むぅ……そんなきつく言わなくたって良いじゃん、お兄様のバカッ」
「煩い、言う事を聞け屑妹」
「うう〜〜!」


 先程から屑だの馬鹿だのと言い合っているのはもちろん、女の子になってしまったルークと、そしてアッシュである。
 冷ややかでばっさりと切り裂く言葉に、ルークはギンッとアッシュを睨み付ける。
 本人達は至って真剣に口喧嘩をしているのであろうが、傍目から見れば、仲の良い兄妹がにゃんにゃんしているだけだ。


 さて、本来ならば別行動をしている筈のアッシュが何故ここにいるかと言えば、ひとえにそれはジェイドが脅したからであった。
 ルークが男に戻らない、その原因がアッシュにあるという推測からだ。
 ぶっちゃけ、この先も女でなければならない躰になってしまった、そんな行為をしたという話である。

 本人も否定出来ずにいたので、まぁ八割方はそう見て間違いではないだろう。
 もう二割は、本当に自分の作った薬が一生という長い間、存在を変えてしまえるような、とてつもないものに既になり得ていたのかというものであるが。
 ……正直、まだその段階に行くには、不備な部分がかなりあった。

 まぁ何にしろ、ジェイドがあれこれと言わなくてもアッシュ自身ルークが心配だったのだろう、彼は大人しく……というのには語弊があるかもしれないが、とにかくルークと共に行動していた。



「良いから言う事を聞け、ルーク。上着を着ろ」
「何でだよ、この服の何処がいけないんだ!?俺の趣味がダサいとか言うのかよ!お兄様のばかばかー!」
「お前な……」


 言い合うオリジナルとレプリカはいつの間にやらお互いに兄だの妹だのと呼ぶようになっていた。
 ジェイドはそんな二人を暖かい眼で見つめる。

 アッシュはほんのりと頬を染めながらも、疲れたようにはぁと溜め息を吐き、それでもルークを見下ろす。
 ルークは先程からずっとアッシュをじっと睨み続けている。
 その眼には薄っすらと涙が張っていた。

 ルークは女性になって背がだいぶ低くなっていて、二人の身長は二十センチほどになっていた。
 見ている限り、頭一つ分違う状態だ。
 しかも短く切ったはずの髪が伸びて、髪は女性陣にやってもらっているのだろう、ツインテールがとても似合う。
 言葉遣いもいつの間にかちょっと柔らかくなって、格段と可愛くはなっていた。

 だがしかし、こちらまで被害を出されたくはない。
 踏まれたくないからって、ミュウが非難してきてるじゃないですか、どうにかしろって足ぺしぺし叩かれてるんですけど?

 やれやれ仕方ありませんねぇとミュウに肩を竦めてみせ、ジェイドは長い赤い髪を持つ二人へと、普段滅多に見せない微笑を浮かべた。


「ルーク、アッシュの言う通りですよ?お腹を冷やしてしまっては、貴女の躰に触ります。これから生まれてくるお子」


 さん、と言う前に、アッシュに服を引っ張られて中断を余儀無くされる。
 そのままずるずると引っ張られ、ルークから少し離れた場所で止まると、アッシュは顔を真っ赤にしてジェイドを思い切り睨んだ。


「おい貴様……言わねぇって約束しただろうが」
「おやぁ?そうでしたっけ?」
「このっ……」
「何言われても文句を返せないような事をしでかしたのは、貴方ですよ」


 罵声を発しようとしたアッシュは、冷静に返された為か、思わず言葉を呑んだ。
 苦虫を噛み潰したような、悔しそうな、けれど認めざるを得ない、そんな表情を浮かべる。

 そんなアッシュの反応を見て、ジェイドは苦笑した。


「まぁ、悪いとは言いません。元々が、彼の乖離を止められないだろうかと作った薬でしたし。ルークの躰のほんの一部分でも貴方と違う存在に出来れば、消える事も無くなるんではないか、とね」
「……この前話していた、コンタミネーション現象というやつか」
「ええ、むしろ感謝してますよ。薬では一日だけしか作用しないものでしたけど、貴方のお陰でルークは一生女性のままです。……一生、貴方とは違う存在です」


 子供を持つ親の心境ってやつです、とジェイドが言うと、アッシュはふん、と顔を背けた。
 どうしたんだ?何があったんだ?と頭にクエッションマークを浮かべているルークの傍へ歩いていくアッシュの背を見ながら、ジェイドはまたふわりと笑う。


 このままずっと生きていられるのなら、仲間として喜ばしき事。
 そして何よりも、オリジナルとレプリカである彼等がそんな関係でも幸せであるのなら、自分の犯した罪もまた少しは癒えるでしょうか……?


 誰に向けてでもなく心の中で呟いたジェイドは、また二人が言い合いを始めてしまう前にと、提案をする。


「ここにいては、寒いですし。とりあえずホテルに行きますか」
「……そうだな」


 アッシュは頷くとルークの手を握り、ルークはえへへ……と満更でもなく嬉しそうに微笑んだ。










「みゅぅぅ、ホテルですのー」
「相変わらず大きいよなぁ、ここ」


 ルークと、その頭に乗っているミュウはホテルを見上げて、間抜けにも口を開けている。
 その背中を押してアッシュが入るように促すと、ルークは見上げたまま歩き出した。
 先に入っていったジェイドは、受付で名前を書き、部屋を予約する。


「私とガイとミュウ、アニスにティアにナタリア。貴方達は一緒が良いですよね?」
「え?俺、お兄様と一緒?」


 横にいるアッシュを見上げ、ルークはやったぁと嬉しそうに笑った。
 そんな彼女を愛おしそうに見つめ抱き締めてしまっているアッシュには、何気にもう周りが見えていないのだろう。

 抱き締められた反動でルークの頭から落ちたミュウは、またジェイドの足を叩いた。


「ミュウもご主人様と一緒が良いですの〜」
「何言ってるんですか、ブウサギに押し潰されて死にますよ」
「みゅうぅぅぅ?」


 言っている意味がわかっていないのだろう、ミュウは頭を傾ける。
 そんな時、受付にいた女性が名簿に書かれた名前を見て、ジェイドに声をかけてきた。


「カーティス様。すみませんが、あちらの方がルーク・フォン・ファブレ様ですか?」
「はい、そうですけれど」


 もう何度か泊まりに来ていて顔馴染みとなった受付嬢であるゆえに、何か危ない事態が起こるという事は無いだろうと瞬時に判断し、ジェイドは頷いた。
 レプリカという存在に対する人間達の対応は現在あまり良くないが、そういう意味からの確認ではないだろうと。
 案の定、受付嬢は高級ホテルらしい、気品のある笑みを浮かべた。


「ピオニー陛下からお預かりものがございます」


 少々お待ち下さい、と頭を下げて受付嬢はカウンターの奥へと消える。

 そして戻ってきた時には、包装紙やらリボンやらで綺麗に飾られた箱を持っていた。
 ジェイドはそれを受け取ると、ありがとうございます、と礼を述べる。

 ……さてさて、陛下から贈り物とは、もしかして―――あれでしょうか。


 そう思いながら部屋の鍵も一緒に受け取ると、いちゃいちゃし始めたアッシュとルークに声を掛ける。
 ジェイドが歩き出すと離れた二人も後をついてきて、そんな兄妹を可愛いと思える自分はもう随分歳ですかねぇ、とこっそり溜め息をつきつつ。

 三人と一匹は宛がわれた部屋へと入るべく、エレベーターに乗ったのであった。















 アッシュは自分達の宛がわれた部屋に付けられているバスやトイレ、付属品を確認し、また寝室に戻るとカーテンを開けた。

 透明のガラスの先に見える街の灯火。
 流石高級と言われるだけはある、雪景色が綺麗な、なかなかに良い部屋だ。
 空から降る雪がゆっくりと目の前を通過していくけれど、そういうものを暖かな場所から見れるのは、随分と乙ではないか。

 しかし先程からベッドの上で渡された箱を眺めているルークへと視線を移すと、アッシュは無意識のうちに浮かべていた笑みを引っ込め、思わず溜め息をついていた。

 可愛らしいルークに問題があるのでは無いし、中身が気になる箱もまぁ良い。
 問題は、二人部屋の筈なのに何故ベッドがそんなにでかくて、挙句一つしか無いかという事だ。

 これはいわゆる夫婦部屋ではないか、どう見たらそんな部屋の鍵を渡されるんだ、兄妹には見えても恋人などとそんな……。


「お兄様、これ開けても良いかな?」
「ああ、良いぞ」


 ルークに声を掛けられたとたん、己の思考をさっさと中断し、アッシュは頷いた。
 いそいそとリボンを外し包装紙を破っているルークの隣に腰掛けると、蓋を開けた箱の中身を二人して見る。


「……何だ、それは」


 ルークが中のものを取り出すと、黒っぽい布のそれは、女性がつける長い靴下のようなものだった。
 ひょい、とまたルークが取り出すと、次は長い手袋が。
 とにかくどちらも長く、手や足を通す所にはフリルが付いていたりしている。

 ルークも何がなんだかわからないのだろう、首を横に傾げた。


「うーん、服?あ、カードが入ってる。ええと……『ルークへ――ジェイドから女になったって聞いたので、新しい水着を用意しておいた。前回のは流石に着れないだろう?ついでに彼氏の分も用意してやろうと思ったんだが、ジェイドが「それは前までルークが使っていたものを渡せば良いでしょう」と言ったので、そうしてくれ☆――ピオニーより』……だって」
「ぁんの、眼鏡が!」


 いきなりベッドから立ち上がったアッシュは、勢い良くドアを開けた。
 するとどういうタイミングか、丁度ジェイドがこちらへと歩いてきている。

 アッシュは怒りを全く隠そうともせず勢いのまま走り、ジェイドの胸倉を掴んだ。
 地を這う声が、廊下に響き渡る。


「おい貴様っ、わざわざあんないけ好かない国王にルークが女になったと報告するなどと、一体どういうつもりだ」
「ああ、あの箱の中身を見たのですね。先程スパの予約してきたので、貸し切りで使えますよ?」
「え、ホントかっ!?」


 と、嬉しそうな可愛らしい声を出したのは、アッシュを追いかけてきたルークだった。
 アッシュは舌打ち一つし、ジェイドの胸倉を掴んでいた手を下ろした。
 ジェイドは寄れた服を直しつつ、やれやれと苦笑いを浮かべる。


「いざという時、可哀想でしょう?皆でスパに行こうかという話になった時に、ルークだけ水着が無いのは」
「……それはそうだが」


 だがあの中身の一体何処が水着なのか理解出来無い、そもそもそんな露出するようなものを他人の眼に触れるような場所で着るなんて事を認めるつもりはない。
 そう、アッシュの中では言いたい事が山程あったのだが。


「ジェイドありがとう!!なな、お兄様!一緒にプール行こう!な!!」


 そんな妹の可愛らしい笑みに、アッシュは眉間に皺を寄せ溜め息を吐いたが、首を縦に振らないわけにはいかなかった。










 シュンと扉が開き、中に入るとそこには、透明の水がこれでもかという程に透き通った大きなプールが広がっていた。
 また一面の壁がガラスという、雪景色がこれでもかと堪能出来る、温水プールである。
 スパなのでもちろんいくつもの温泉も完備されているが、ルークの要望でプールの方で泳ぐ事になった。

 先に入っていったルークはぺたぺたと歩き、暗い夜に遠くまで見える街の光を愛おしそうに眺めていた。
 世界に対し、色々と思う事があるのだろう。

 しかしアッシュはそんなルークの後姿を見て、ツインテールをお団子にし、その上に黒い装飾のされた布で纏められている頭に、果たしてあんな頭で泳げるのかどうなのか……という疑問が浮かんでは消えていく。
 そんなアッシュもまた、以前男であった時のルークが身に付けていたものをそのまま着ているので、頭はタオルで覆われていたりするのだが。
 称号も、そのまま『タオラー』だ。

 ちなみに元々ルークが身に付けていたものだからと色々な面から最初かなり渋ったのだが、ルークが哀しそうに「俺のは着れないんだ……」と言うもんだから、もう自棄になって履いていた。

 ルークはガラスから手を離すと次はプールサイドに近づき、そこでくるっとアッシュへ振り返った。
 そして、伺うように顔を傾ける。


「……なぁ、お兄様。もうこれ脱いで良いよな?」


 これ、と言ってルークはひょいとバスローブの端を持ち上げた。
 すると今まで完全に隠れていたルークの綺麗な太腿が露わになり、アッシュは自ずとそこに眼を奪われる。
 微妙に、黒い水着の股の中心にある微かな窪み部分までがちらちらと見え隠れするものだから、男としては眼を逸らす方が勿体無いというものだろう。


「お兄様?」
「ああ……」


 もう一度声をかけられて、とりあえず返答したアッシュであったが、次の瞬間にはぐっと眉を寄せていた。
 バスローブを脱いだルークは、それはもう視的に厳しい水着姿になっていた。
 一体何処がどうすればあんな水着を水着だと言えるのか謎である。
 いや、一応は水着なのだろうが。

 女性の象徴とでも言える膨らんだ乳房は、鎖骨やら首元を隠している上布から、ほんの数センチの幅しかない布が二本下の方まで伸びているだけで……つまりは乳首しか隠していないのだ。
 なんというか……紐だ。
 後ろから見れば首に布が巻かれていて、そのままほぼ尻の割れ目の上まで全部外気に晒されている。
 かろうじて尻の方はフリルスカートになっていて辛うじてでも隠れるかと思いきや、フリルが透き通っている為、結局は黒い布の白い尻肌に食い込んでしまっている状況が見えてしまい意味が無い。

 既にもう何度も見ているルークの躰ではあるが、何も着けていない状況よりも、こう……込み上げてくるものがあった。
 女性らしい柔らかそうな乳房も、小振りの尻の滑らかさや白さも、まるで誘っているかのように揺れる。

 あのマルクトの国王は、一体何の魂胆があってこんな水着を贈ってくるのか。
 たとえ彼女の仲間である女三人が一緒に泳がないかとルークを誘ったところで、こんな水着ならば断らせるしかないだろう。
 もとより、己以外の者にこいつの艶めかしい姿を見るなんて許せる筈が無い。

 着替えている最中はともかく、部屋からここまで来るのにルークがバスローブを着ていたのも、アッシュが絶対に人前で脱ぐなと言ったからである。


「早くこっち来いよっ、お兄様!」
「……わかった」


 ずっと入り口に佇んだままだったアッシュが気になったのだろう、ルークは早く早くっ!と手を振る。
 仕方無いといった素振りでアッシュもプールサイドへと近づくと、それはもう嬉しそうに笑って、ルークはザバンとプールの中に飛び込んだ。
 水しぶきが飛び散り、アッシュは己の顔に腕を掲げ、眼を眇めた。
 ルークは一度下まで沈むと、水面にひょっこり顔を出しスイスイと泳いでいく。

 着ている本人はあまりあの水着に対して文句は無さそうだし、折角二人きりで貸し切っているのだ、楽しまないでどうする。
 どうせ邪魔する者も居ない。

 そう割り切ったアッシュも、タオルが取れないように手で押さえるとプールの中に入り、ルークの後を追っていった。





  to be continued...



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タオラーなアッシュは格好良いと思います、ええとても。

2006.06.24
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