まだ好きとは言えないけれど  
後篇

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 ゆっくり溶かされ腰砕けになる頃には、指一本を簡単に飲み込んでいた。
 広げられた括約筋からじわじわと背筋が震えるような快感が込み上がってくるし、腸壁を指で嬲られると、勝手に穴が収縮してしまう。


「あっ…いい、気持ち、良いです……あ、あん」
「可愛いな。ほんと、お前って綺麗でいやらしくて、すげぇ可愛い」


 嬉しそうな声と、尾骨や腰に落ちてくる唇。
 前立腺を優しくさすられても最初は少し違和感があっただけだったが、しだいに快楽を拾うようになっていく。

 指が二本に増やされて、掻き回されるたび、ぐちゅぐちゅと卑猥な音が聞こえてきた。
 くぱりと括約筋を広げられると、強烈な快楽が走り抜けていき、嬌声と共に背中が撓る。


「ほら、わかるか?オメェの中、凄く指を締め付けてくる。それに、熱い」
「ぁ……や…言わないで下さ…んっ、あ」


 確かに先程よりも広げられた場所は、自分でもわかるくらいに指を締め付けていた。
 胎内も、自らが望んで咥え込んでいるみたいに、やわやわ蠢く。

 気持ち良くて涙が止まらず、閉じられない口から涎も零れ、クッションを濡らしていく。
 ペニスも蜜を零し続けているから、きっとシーツもぐしゃぐしゃに汚してしまっているだろう。
 けれど名探偵はもっと快楽を引き出そうと、ペニスを刺激してくる。

 感じるようになった前立腺も擦られ、全身が張りつめた弦のように引き攣り続けた。
 イってしまったような気がしたが、熱が篭っていてよくわからない。
 ただ汗がしとどと溢れて、躰がドクドク鳴っている。


「そろそろ、入れても良いか?」


 突如掛けられた声は、切羽詰ったように掠れていて艶やかだった。
 返事をする前に指が引き抜かれ、窄まった括約筋に、ぶるりと震える。


「ぁ……」


 そうして宛がわれた、熱。
 体勢が体勢なので見えるわけではないが、触れてくるものは硬くて熱い。

 彼のペニスがちゃんと勃起している事に、安堵が広がった。
 男である自分を本当に望んでくれているのかと、疑っていたわけではない。
 だが自分ばかりが愛撫を受け入れ、彼が気持ち良くなるような事は何もしてやれていなかったのだ。

 だから、触れて見ていただけでも興奮してくれていた事が、凄く嬉しかった。


「名探偵……。欲しいです。私は、貴方が欲しい」
「ん……キッド。俺も、お前が欲しい」


 彼からの言葉にほぅと吐息を漏らしたら、ゆっくりとペニスが入ってきた。
 括約筋を大きく広げられ、少しずつ、胎内を割りながらぬぷぬぷと埋まってくる。

 指とは比べものにならないほどに太くて、満たされていくのは気持ち良かったけれど、怖くもあった。
 太く大きな質量が、どこまで入ってくるのかというくらい奥まで埋め込まれるのだ。
 腹が、とてつもなく熱い。


「ん、ぁ…う、んい…、…あ、あう」
「はっ……全部、入ったぜ」
「あ……、……っ」


 臍の下まで抉られているような感覚に、涙が溢れ出た。
 痙攣し、歯がガチガチと鳴る。

 背中に名探偵が覆い被さってきて抱き締められても、何の反応も返せない。


「は、ぅん…う、うぅ……」
「……おいキッド。力、抜け」


 唇が首筋やうなじに降り注がれ、ちゅ、ちゅ、とあやすように音を立ててキスされる。
 だが躰の中が可笑しくなっていそうなくらいにいっぱいで、このままでは苦しいとわかっているのに力を抜けなかった。
 嗚咽が漏れて、いくつもの雫が頬を伝っていく。

 初めてなのだ。
 抱かれるなど、今日が初めてだった。

 気持ち良いはずなのに、受け入れる事に全く慣れていない躰が、脳が、壊れるかもしれないと恐怖を訴えてくる。


「キッド」


 抱き締められたまま、腹に手を置かれた。
 ゆっくりと撫でられて、ジャケットやシャツを肩甲骨まで下ろされ、キスが落とされる。

 まるでぬるま湯のような、柔らかな抱擁。
 名探偵に抱き締められているのだと思ったら、少しだけ躰から力が抜けた。
 そのまま片腕ずつ丁寧に上着から脱がされて、篭っていた熱が少し引く。

 すると、背中からトクトクと彼の心音が伝わってきている事に気付た。
 シャツの前を寛げたのだろう、布越しではなく、肌と肌が触れ合っている。
 包まれて、すぐそこで熱い息遣いまで感じられて、こんなにも近くで心臓の音が重なっている。

 啜り泣きながら、名探偵と繋がっている箇所に意識を持っていった。
 いっぱいに広げられていた穴はだいぶペニスの太さに馴染んだようで、やわやわと収縮しだしている。
 ゆっくり吐息を出せば、奥に入ったものの熱さや形をはっきりと感じられる気がした。

 名探偵のペニスが、自分の中で脈打っているのだ。
 彼を受け入れられた事がまるで夢のようで、涙は流れたままだというのに笑みが浮かんだ。


「ん…名探偵」
「もう、大丈夫だな…?」
「はい。待って下さって、ん、…ありがとう、ございます」
「バーロ、当たり前だろ。ちゃんと、大事にしてぇんだ」
「……はい」


 ああ、なんという幸福だろう。
 なんという心地良さか。

 心が暖かくなって、躰が蕩けそうになって。
 背中を覆う彼へと少し顔を向けたら、零れ落ちる涙を掬われるから、また泣いてしまう。

 抱き締められたまま、くんっと、奥を少し突かれた。
 それからゆっくりと、ペニスが胎内から出ていく。
 狭まったところにまたずるずると、割り広げながら入ってくる。


「ふぁ、ぁ、ぁー…、あんぅ…」
「は…オメェの中、すげぇ、蠢いている。ん、…熱くて、気持ち良い……」
「私も、ふぁあ…いい、イイです…ぁ、あっ」


 自分でも、彼をきゅうきゅう締め付けているのがわかるほどに感じていた。
 躰全体が歓喜に震えている。

 最初はゆっくりだった抽出も、次第に早く荒々しくなった。
 胎内が蕩けて、自分の胎内でじゅぼじゅぼと腸液と名探偵の先走りが混ぜられ、艶かしい音が鳴る。
 ずくんと奥まで突かれ、ずるずると出て行ったかと思うと、また勢い良く入ってきて。

 中をいっぱいに広げられて前立腺を擦られると、堪らなく感じた。
 湧き上がってくる快楽の波に、脳が可笑しくなりそうだ。

 熱い。
 熱くて、凄く気持ち良い。


「ん…ぁ、あ、はぁ、あ、あ」
「くぅ、ん…は、ぐ……キッド…」


 奥の奥まで押し込まれて、突かれて、脳天にまで突き抜けていく快楽。
 感じる場所を何度も擦られ、どんどんと思考が朦朧となっていく。
 壊れたように全身が震え、生理的な涙が飛び散る。

 クワン、クワンと全身を駆け巡っている快楽の波が激しくなり、全身が引き攣った。
 揺さ振られるまま、喘ぎが漏れてしまうのを止められない。


「はひっ、や、も…駄目です、イっちゃ、あ、あんっ」
「っ…は、良いぜ…っ、イけよ」
「ぁ、あぁっ!あひ、ヒ、……あ、あううぅっ!」


 感じすぎて蠕動していた腸壁をなおも抉られ、その衝撃に耐え切れず、絶頂を迎えた。
 頭から足先までが痙攣し、胎内に埋まっているペニスをきつく締め付けてしまう。
 すると彼もまた艶めかしい呻きを零しながら、最奥に熱い精液を飛び散らせてきた。

 ああ、あったかい。
 名探偵の精液が躰の奥に流され、内臓を満たしている。

 そうして自分の躰の一部となる。


「あ…ぁ、はぅ……、ん…」
「っ………は、キッド…」


 疲れたのか、名探偵が背中に体重を掛けてくる。
 汗ばんでいるけれど、触れ合っている彼の体温は少し低く、心地良い。

 彼の重みやまだ胎内に埋まったままの熱を感じながら、ふわりと笑みを浮かべた。












 胎内に精液が溜まったまま少し漏れるのも、下半身に精液がこびり付いているのも気にせず、キッドは散らばっていた服を身に付けた。
 腰も少し鈍いが、飛べないほどでは無い。
 媚薬も抜けきり、むしろ心地良い気だるさが心身ともに癒してくれているようだ。

 名探偵は乱れた服を調えもせず、ベッドに腰掛け、暫くは黙ってこちらを見ていた。
 特に腰や下肢辺りに視線を感じるので、心配されているのだろう。
 呆れたように、小さく溜め息をつかれる。


「シャワーくらい、浴びていけば良いじゃねぇか」
「ありがとうございます。ですが、折角貴方に抱いていただいた躰をすぐに洗ってしまうなんて、勿体無いですから」
「……だったらすぐに帰んなよ」
「名探偵。わかっていらっしゃるのに、意地悪を言わないで下さい」


 ずっと部屋の明かりを付けなかったのも、彼からは絶対にモノクルを外さなかったのも。
 背中から抱いて下さったのでさえ、全ては彼が気遣い、顔を見ないようにしてくれたからではないか。

 自分は怪盗だ。
 そして彼は探偵である。

 躰を重ねようとも、この事実は変わらない。
 事後の甘い戯れに浸るには、まだ少しばかり遠い存在だ。

 けれどこうも別れを惜しまれると、ここに留まってしまいたくなる。
 青く美しい双眸でじっと見つめられると、躰を結い止められてしまいそうになる。
 まるで麻薬だ。

 モノクルを付けてシルクハットも被ると、決して彼の眼は見ないようにしながら、ベッドに散らばった道具を一つ一つ懐にしまった。
 こちらの頑なさに諦めたのか、先程とは変わりのんびりした口調で話し掛けられる。


「なぁ。今日オメェと会った時から、ずっと疑問だったんだが」
「はい、なんでしょう」
「なんで敬語で喋ってんだ?」
「え?……や………それは、その」


 彼の指摘はもっともだ。
 これまで相対した時は、常にぞんざいな言葉であったのだから。
 とにかく聞かれるとは思っていなかったし、出来れば理由は言いたくなかった。

 だが見逃していただけないだろうかと視線をやるも、むしろ腰に腕を回され、彼へと引き寄せられてしまう。
 慌てて肩に手をつき膝立ちになったが、下からニヤリと質の悪い笑みを向けられて、グッと息が詰まった。


「言わなきゃ、またヤんぞ」
「ゃ、んっ」


 ゆっくりとした手つきで尻を撫でられ、ぞくぞくっと背筋に快楽が走っていった。
 恨みがましく見返してみても、どこ吹く風。
 本当に名探偵は意地悪である。

 それでもあまり逆らえないのは、彼の眼に捕らわれてしまっているからか。


「その、ですね。……以前までの名探偵は、小さかったじゃないですか。ですが私にとっては、あの姿が対等だったんです。そのせいか、今の貴方は目上のように感じてしまいまして」


 名探偵は今、自らに課した所業を成し遂げ、本来の姿を取り戻している。
 だが自分はまだ。
 まだ何も成し遂げられておらず、キッドのまま。


「この衣装を必要としない日が来ない限り、もはや貴方と対等になれないのです。せめて先程の勝負に勝てていれば違ったのかもしれませんが、やはり負けてしまいましたし」


 今の自分は、彼よりも劣っているのだ。
 命を懸けてでも成し遂げたという事実が、彼の意思をより強固にしているから。

 だが名探偵は、少し不機嫌な顔をする。


「オメェの言い分は、わからなくもねぇけどな。でも俺は、何度もこの手から鮮やかに擦り抜け、全く掴めなかったオメェが、よもや一度手に入れられただけで劣ってるなんざこれっぽっちも思わねぇ」
「ええ。あくまでも、私の心の問題です」


 浮かべた笑みに何を感じたのか、彼の開きかけた唇はそれ以上言葉を紡がず、代わりに頬へと触れてきた。
 優しくしっとりとした掌で、包まれるように撫でられる。
 うなじへと辿り、首裏を覆われ、顔を引き寄せられて。

 そうして、触れ合うだけのキスをする。

 今はまだ彼に負けているが、必ず、すぐにでも追い付いてみせる。
 名探偵の隣に立っても引けを取らないほどの、成長を遂げて。

 唇を離すと、キッドはクスクスと小さく笑った。


「大丈夫です。次の犯行時にはきっと、目当てのものが見つかりますから」
「なんだ、目星は付いてんのか」
「いいえ。ただ、とてつもない強運の持ち主である名探偵に抱かれたんですよ。中までいっぱい満たされましたし、キスマークもたくさん貰ったのでお守りもバッチリです。絶対に当たります」


 自信はあるのだが、つい最近まで小さくなっていたという非現実じみた体験をしていながら何故か現実主義な名探偵は、とてつもなく呆れた顔をした。


「あのなぁ。オメェ、んな根拠も無い事を」
「おや、名探偵はご自身の力を信じていないのですか。そうですね、もし次で見つかった場合には、これからずっと私が貴方に抱かれても良いとすら思っていても?」


 モノクルが月光に反射するように計算し、飄々とした笑みでもって彼を見下ろす。
 すると、名探偵は何度かぱちぱちと瞬きした後。


「よし、絶対だ」


 と真顔で強く頷いたので、思わず素で噴き出してしまった。





  ...end.



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去年の9月に書いたのかな…?
この頃、とにかく18禁を書きたくてうずうずしてたんじゃなかったかなと。

2013.03.13
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