勢いが大事  
後篇

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 歯が当たるほどに深く唇を合わせられ、舌が咥内に入ってきた。
 互いの舌が触れ合った途端、ぞくりと全身に悪寒が駆け巡る。

 逃れようにも両手首を掴まれ布団に結い止められているし、しかも上に乗られているのだ。
 酒のせいで力の入らなくなってしまっている躰では、全く身動きが取れない。


「んっ……んく、ふ」


 ぴちゃりと舌が絡み合い、艶めかしい感触に背筋が震えた。
 反射的に眼を瞑ってしまい、視界を遮ってしまった為に余計に感じてしまう。

 舌先を突かれそのまま強く押されて、表面が合わさって。
 逃げようと舌を引っ込めたら、べろりと裏側を舐められた。
 絡み合うたび、くちゅり、くちゅりと唾液が混ざる。


「んぅ…ん、…ふぁっ、ん」
「…………ん、…」


 薄暗い部屋の中に、艶かしい音が異様に響いて聞こえてきた。

 息苦しくて逃げようとしても、追いかけられて執拗に貪られてしまう。
 歯列をなぞり唇をゆるく噛まれ、そして舌裏を辿り、また深く味わわれる。


「…うぁん…、んぐ……っ」


 咥内に溜まった二人分の唾液を、ごくりと飲み込み、けれど飲みきれなかった分が口の端から伝い落ちていった。


「ふ……、……うっ、あ、はぁ…」
「は、……」


 アカギは一頻りカイジの口腔を堪能すると、名残惜しそうに唇を離していった。
 ようやく開放されて、足りなくなった酸素を取り込むように胸で呼吸を繰り返す。

 ぶっちゃけキス自体、今まで生きてきて殆どした事が無かった…情けない話だが。
 なのにいきなり深い口付けをされ、自分の躰から勝手に快楽を引き出されて。

 生理的に浮かんだ涙で視界がぶれて焦点は合わず、意識も朦朧として定まらない。

 本当に俺は、アカギとキスをしてしまったのか?
 ………なんで?
 どうしてこうなった?


「カイジさん」
「ひっ…」


 耳元で自分の名前を囁かれた途端、カイジは喉から引き攣った音を出していた。
 本能から脅えるカイジに、アカギは容赦無い言葉を放つ。


「怖いんですか?ふふ。アンタが俺に恐怖を感じるなんてね。……安心してよ。自制は出来そうにないけれど、理性は保ってるから。…まだ、ね」


 脅えているカイジは、声も発せずにただただ濡れている双眸を見開いた。
 目線は確かにアカギの眼を追っているのだが、やはり溢れる涙のせいでブレてしまっている。
 しかしアカギは構う事なく、カイジのジーパンの前をくつろげた。


「大人しくしていて下さいね?そうしたら、気持ち良くしてあげるから」


 上着もたくし上げられ、服から覗く肌に唇を這わせ、紅い痕跡が残されていく。


「あ……あっ?」


 震えながらアカギの動向を見ていただけだったカイジは、ねっとりと乳首を舐められ時、甘い声を上げていた。


「これだけで感じてるなんて。カイジさん、可愛い…」
「や、何…あぁ、ん……っ」


 揶揄されるも、嬌声を止められない。
 舐められている乳首はぷくりと膨れ上がり、気持ち良さに躰が震える。
 それにまたクツリと笑われる。

 もう片方の乳首も指で弄られ、既にわけがわからなくなっていた。


「…いいぜ、もっと感じなよ」


 執拗に動く舌の淫靡な感触と、自分ではない者に触れられ施される快楽。
 ぴちゃりとわざとらしく立てられる音に耳を塞ぎたくなって、しかし耐え切れなくなって眼を逸らした途端、くつろげられていたジーパンの中に手を入れられた。
 下腹部の陰毛を触られ、あろう事かペニスを掴まれる。


「い、嫌だっ!止めろアカギ!!」


 カイジはハッと我に返り、叫んだ。
 上に乗っかっているアカギを落とそうと、必死になって躰を捩る。

 しかししっかりした肉体をしているアカギに敵うはずもなく、しかも酒に浮かされている上に快楽を追い上げられた力の入らない躰では、びくともしなかった。
 微かな抵抗など無視され、ペニスを下着の中から出されてしまう。


「へぇ、もう勃ってるじゃないですか」
「やだ見んな!……ぅひ!?」


 指で撫でられ嬲られ、喉が引き攣った。
 気持ち良くて、どうしたって先走りが漏れていく。

 アカギは楽しそうに口元に笑みを浮かべ、その様子を見ていた。


「ぁ……はっう、んっ…ひあ、ぁ」


 ぐちゅぐちゅと掌でペニスを擦られれば、熱い吐息が漏れる。
 尿道に指を入れられるようなほどグリッと先端を抉られれば、突き抜けていく快感に悲鳴が上がる。


「あっ! ひっん…い、ゃ……うぐ…ん」
「ほらカイジさん。もっと乱れて…楽しませてよ」
「ぁ…ぅ、煩ぇっ! こんなもん見て、何の得にな、ぁっ、ぅあっ」


 どれだけ反論しても、ペニスを嬲られてしまえば勝手に躰は震えて、馬鹿にされたように笑われてしまう。
 嫌だと思うのに、アカギの指先から与えられる快楽にずくずくと躰全体に蝕まれ、為す術が無かった。
 ただ受け入れ、喘ぐしか出来無い。

 正直、そんな場所を弄られ見られているこっちは、もう逃げ出したいほどに恥ずかしかった。
 しかも快楽に抗えず精液がどんどんと溢れ出てくるモノに、視線が痛いほど突き刺さっているのだ。
 耐えようと思っても、流石にきつかった。

 それに息が掛かりそうなくらいに、アカギの顔がペニスに近づいていて…。


「って、嘘っ…だろ!? や…、あっああ!」


 近過ぎだろとは思ったが、まさか咥えられるなんて考えてもみなかった。
 口に含まれ先端を舐められた途端、あまりの事態に勝手に涙が流れる。

 混乱なんてもんじゃない、もう頭の中はぐちゃぐちゃだ。

 既にトロトロと精液を流していたくらいに、ペニスは勃起していたのだ。
 腰はずくずくに溶けそうだったし、背筋には電撃みたいな筋がいくつも突き抜けていくし。

 なのに、あまりにも快楽に浸り過ぎていてヤバイかもしれないと思っていた矢先に、これ。


「や、嫌だアカギ! こんなのっ…ぁ、あ」
「良いから黙って感じていて」
「んなっ! あんっ…ん!」


 咥えたまま喋られ、また大きく腰が跳ねた。
 足でシーツを掻くが滑って、踏ん張る事も出来無い。

 生暖かい場所に包まれ、先端を舌でぐりぐりと抉られ何度も吸われて。
 そこから大きな波が押し寄せてくる。


「ひぁ、あっ! も、イクっ…イク! い! ぁ、……あああッ」


 なけなしの抵抗にとアカギの髪を掴んでももう遅く、深く含まれて強く吸われ、カイジは背を弓なりに退け反らし達した。
 腰が痙攣し、アカギの口の中に射精してしまう。

 ごくりと喉の鳴る音が聞こえ、あんなものを飲まれたのかと思うと居た堪れなかった。


「っあ…ぁん……、ぁ、あ」


 しかも射精しても暫くは、尿道の中を空っぽにされるのではというくらいに吸われていた。
 はふ、はふと熱い吐息を吐き出し、篭った熱をどうにか逃がそうとしても難しく、弄られているペニスがまた擡げ始める。


「ふぁ…も、やめ……」


 躰に力が入らず、為すがままに咥淫を受け入れるしか出来無くて、滅茶苦茶情けなかった。


「…っ……んで、こんな事っ…すんだよ!」


 自分だけ乱されて、喘がされて。
 なのにアカギは全く乱れず、相変わらずその瞳には凶暴な光を湛えている。

 こんな事を人にやっておいて、何故そんなに怒っているのか。


「…も…本当に、わけっ、わかんねぇ…っ」


 躰を震わせながらぐすっと鼻を啜り、涙に濡れた眼を隠そうと両手で覆った。
 さっきからずっと混乱しっぱなしだった。
 自分の思考の想像範囲を遙かに超えている事ばかりが起こっている。

 カイジがぐずぐず泣いていると、ようやくアカギがペニスから口を離し、顔を上げてきた。

 のだが。

 ずるりと、膝下まで一気にジーパンを下げられた。
 下着も一緒にだ。

 それから足からまで抜かれて、抵抗する間も無く、気付いた時には下半身をマッパにされていた。


「ぇ。…な、に。何……して」
「カイジさん、とりあえず、抱きますから」
「……ぇ? な、…抱くって…」


 抱くって……まさか。
 まさかアカギは、男である自分とセックスすると言っているのか?

 そりゃ男同士でセックスするという人がいる事くらいは知っているし、自分だってアカギといつかはそんな関係になってみたいとも思ってはいた。
 だがしかし、どうして今、彼から誘われるのか。

 しかもこの状況はあれか?
 もしかしなくても俺が女役、つまり突っ込まれる方だったりして…。
 え、つうか乳首を舐められたりペニスを咥えてきたのも、寝込みにキスしてしまった仕返しじゃなくて、俺を抱く為の愛撫だったのか?


「ぃ………いいいいやいやいやいや、無理、無理っ!んなの無理だから!」
「大丈夫、傷付けないようにヤりますから」
「ヤるとか言うんじゃねぇ!」


 怒鳴って、殴ろうとして。
 しかしそれよりも先に、アカギがカイジの両足を掴んだ。
 そして無理やり躰を反転させられる。

 うつ伏せにさせられ、顔面を布団の上にぶつけるようにして倒れ込んでしまった。

 やべぇと思った次の瞬間には、尻の肉を掴まれ穴が見えるのではというくらいに左右に広げられ、そこにヌルリとした感触が通っていく。


「あ?…や…やだぁ…っ!!そんな…とこ、舐めんな…ぁ!」


 慌てて逃げようと腰を振るも、アカギの腕に太腿を抱き寄せられケツを上げさせられ、その手が先程からずっと緩く勃起していたペニスをまたしても触ってきて、躰に力が入らなかった。

 ぴちゃりと音を立てながら、舌で秘部を犯されていく。
 襞をゆっくりと舐められ唾液を押し込められ、ヒクヒクと入り口が蠢いてしまう。

 自分で見る事などない場所を見られただけでなく、舐められるという行為までされ、ありえないほど恥ずかしいし屈辱を掻き立てられる。
 なのに躰は意思に反し快楽に震え、涙が止まらない。


「は、はぅ…ん、ん…やだ、も…んんっ、ん!」


 秘所を解すように丹念に舐める音と、喘ぎ声が重なる。
 器用に動く舌先が、ぴくぴくと動く襞を舐め上げていく。
 そして窄まった穴に、舌の先端が微かに入ってくる。

 恥ずかしさに、顔が燃え上がりそうだった。
 ケツを突き出して汚い場所を見られ、あまつさえ舐められているのだ。

 こんなの、尋常じゃない。


「アカギ、やだ…それっ、も…アカギ、お願、やめっ…」


 どうしても止めてほしくて、何度も名を呼んで懇願する。
 声が涙に濡れてしまい、まともな音になっていなかったけれども。

 つぽん…と、入り口を弄っていた舌が抜かれた瞬間、今度は奥深くに入ってくるものがあった。
 解かされた場所にズブズブと捻じ込まれていくのは、……指か。


「痛い?」
「んぅっ…んっ…」


 朦朧としながらも、問い掛けには何度も首を横に振っていた。
 指ならまだどうにか心が許容するらしく、ぼんやりとアカギの方に振り向き、カイジは呟く。


「ぁ……気持ち、いい…」


 するとアカギは、嬉しそうに口元に弧を浮かべた。

 その顔を見た瞬間、カイジはゴクリと喉を鳴らした。
 顔が火照るように熱くなってしまい、思わずまたシーツに顔を伏せる。

 そんなにも甘い笑みを見たのは、初めてだった。


「カイジさん」
「はぁ、アカギ…あ、んっん」


 耳元で囁かれたかと思うと、中に入れられていた指が動かされた。
 きつく閉まった秘所の壁を探るように、小刻みに動かしながら溶かされていく。
 腸壁を押され掻き回されて、そのたびにくちゅくちゅと卑猥な音が鳴り響く。

 中を弄りながらも、アカギはカイジの背中のあちこちにキスを降らせていた。

 そうして指がある一点を掠めた時。


「ふぁん!!…あ、ああぁ…っ」


 一気に、艶を帯びた喘ぎへと変わる。
 アカギが背後で笑みを漏らしたのが聞こえ、柔らかくなった秘所にもう一本指を増やされた。
 そして前立腺を強く刺激される。


「やっ、だ!そこ、や…あう、あ……ぁ、あっ!」
「嫌だ…?気持ち良いんでしょ?」


 ぐりぐりと刺激され、喘ぎ声を漏らし続けた。
 射精しそうなほど強い快感を与えられ、けれどいきそうになるとアカギは刺激を弱くする。
 それは、そんな場所を弄られるなんて経験のないカイジにとっては拷問のようだった。

 どんどんと穴を広げられ、奥の感じる部分を執拗に押されて、背中が何度も撓る。
 どれだけの愛撫を施されているのか、快楽に浮かされ朦朧としている頭では、もうあまり状況の把握が出来無い。

 けれども気持ち良さだけはよくわかって、喘ぎも涙も止まらなかった。


「アカギ、ぁ…アカギ、んっ、んは…ぁ」


 ガクガクと躰が戦慄く。
 躰が熱くてどろどろに溶けていて、自分が消えそうになって怖くなる。
 これほどの快楽を、今まで感じた事が無い。

 ようやくアカギが指を抜いた頃には、カイジはひっぅ、ひっ、と喉を詰まらせながら涙を流していた。


「…入れる、から……」


 切羽詰った声が、聞こえてくる。
 朦朧としたまま頷けば、秘部に宛がわれたモノ。
 それはもの凄く熱く猛っていて。


「ぁ…あっ、んぁああ!」


 一気に奥の奥までずぶりと突かれて、カイジは躰を弓形に逸らし、とうとう射精した。
 なのにずっと掻き回されぐずぐずに解かされていた胎内は、どうしようもないくらいに敏感になっていて、埋め込まれた熱と中をいっぱいにされた質量にすぐにまたペニスが擡げてしまう。

 全身は壊れそうなほどに疼き、汗を吹き出しずっと痙攣していた。
 びくん、びくん、と腰が跳ね、行き過ぎた快楽に涙がぼろぼろ零れていく。
 開いた口が塞がらず、涎が顎を伝いシーツの上に滲む。


「ひっ、ぅああ、ぁ、あんっ!」
「ッ…ぅ、カイジさ……はっ」


 入り口をいっぱいに広げられ、腸壁を擦られ奥を突かれ。
 快楽に彩られながら囁かれた自分の名に、カイジは呼応するように吐息を漏らす。
 視界に彼を映したくて、けれども泣き腫らした目ではぼやけ過ぎて、見えなくなってしまっていた。

 けれども背中に感じた彼の暖かさに、心はひどく満たされる。


「あぁ、あっ…んあ…は」
「っ…そろそろ、理性が持ちそうにない」


 艶やかな声が聞こえてくると、アカギは今までの理性をかなぐり捨てたように犯してきた。
 腰を持ち上げられ、激しい抽出を繰り返される。
 そして思うがままに、カイジの躰を貪り尽くそうとする。


「や、ぅあ、ああ!あっ」
「カイジさん…、…ん、」


 アカギに揺さぶられる度、途切れる喘ぎ声が漏れる。
 それでも、カイジの秘所はアカギのものを貪欲に食らいつくようにして締め付けていた。
 その締め付けに、アカギは何度か息を詰まらせる。


「すごく、はっ……気持ち良い…」
「んあ…い、いやっ…はぁ、ああん……アカギっ…もっ」
「ああ、いいよ。…一緒に」


 散々愛撫を施された場所を激しく執拗に突き上げられ、限界まで追い上げられていた。
 カイジの懇願を聞き入れるように、より一層激しい抽出が襲ってくる。


「あ、は…いっ…い、く…あっ…ああ…ぁ!」
「くっ…!」


 カイジが悲鳴を上げて射精すると、アカギもまたカイジの奥に突き立て、中へと精を吐き出した。
 その熱さを躰の奥に感じ、カイジはぶるぶると躰を震わせた。










「…ア、カギ?」


 余韻に浸っていると、アカギはカイジの上半身に引っ掛かっていた上着を脱がせ始めた。
 もう抵抗する気力なんて皆無で、なすがままに全裸になる。

 そして次には自らの服も脱ぎ始めたアカギに、どうしたのかと疑問に思う。
 上等な上着をそこらに放り投げ、シャツもズボンも下着も全部脱いで、同じように一糸纏わぬ姿となる。

 晒された、美しく均等の取れた肉体。
 右肩にある、大きな傷。
 男なのに妙に色気があるのはどうしてなのだろう。

 調和されたような格好良さに見惚れてしまい眼が離せないでいると、アカギはカイジの上に乗ってきた。

 包まれるような体勢で素肌が触れ合い、心地良い重さと暖かさに酔いしれてしまった。
 じっと見つめていると、端整な顔が近づいてきて唇にキスを落とされる。
 ちゅっと軽く吸われ、それから切断された事のある左指の付け根を、撫でてくる。


「倍プッシュ…良いよね?カイジさん」


 その笑顔が、あまりにも綺麗で、カイジは頷いていた。

 好きだとは伝えていなかったけれど、この男の事だ……もしかしたらずっと前から、気付いていたのかもしれない。
 もしかしたら自分よりも先に、この心にあった気持ちを察していてくれたのかもしれない。


「カイジさん。俺はアンタを初めて見た時から、アンタの狂気に触れたかった。この指に。この躰に。この……心に。ねぇカイジさん?……俺の事、好きでしょう?」


 そして愛しげに笑みを浮かべるアカギがやっぱり、滅茶苦茶好きだと思った。





  ...end.



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好きだという事をカイジが必死に隠していても、アカギからすればバレバレな気がします。
アカギはそんなカイジを可愛いなぁとか思ってると良いな。

2010.01.16
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