悪戯 前篇
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まるで西洋の城のような建物の中。
高い天井からは煌びやかで豪華なシャンデリアがいくつもぶら下がり、床は赤い絨毯が広がっている。
当然、流れるジャズは有名な演奏家達による生演奏。
森田は壁に寄り掛かり極力目立たないように身を潜め、談笑する紳士淑女の様子を遠くから眺めていた。
オッサンじいさん野郎共はともかく、女性達の華やかにドレスアップした姿は綺麗だし、お年を召されている方々でも優雅で美しく、眼の保養になる。
それでも一番目に付いてしまうのが自分の相棒である平井銀二なのは、少々体調が悪いからだろうか。
今すぐにでも家に帰りたいが、残念ながら彼が動くまでは自分も動けない。
ふぅと吐息を零し、僅かにネクタイを緩め、少しでも熱を逃がそうと試みる。
それにしても、随分と敷地の高いパーティーだ。
そこらへんに大富豪達がいるではないか。
以前に比べるとこういう社交場に慣れたといっても、まだまだ自分は溶け込めていないようでならない。
特に今回はお偉いさんのバースディパーティーの招待状が銀二宛に来たのであって、自分はオマケのように連れてこられただけである。
一応銀二と共に挨拶周りはしたし、ここにいる約千人程度の、四分の一は顔と名前が一致するくらいには馴染んできたけれども。
「…………、…はぁ」
ああ、やはり躰が熱い。
手に持っているグラスの中身が減っているわけではないが、気を抜けばその場に座り込んでしまいそうになる。
震える足に耐えながら、救いを求めて遠くで知り合いと世間話をしている銀二を見るも、こちらの体調に気付いているだろうにあえて無視されている。
どういう目論見なのかいまいちわからないが、彼の気まぐれに付き合わされるのもなかなか大変だ。
だんだん喉が渇いて、手に持っていたワインを一口飲んだ。
しかし味さえもわからない状況に陥っているのだと、飲んでから気付く。
水の方が良いか。
そう思って近くのテーブルを見やると、その付近にいた女性と眼が合ってしまい、ぎくりと心臓が跳ねた。
自分と同じくらいの年代の女性で、政治家の令嬢だったはず。
社交辞令のごとく笑みを向けてしまったのがいけなかったのだろうか、彼女はこちらへとやってくる。
「あの、森田さんでしたよね。顔色が優れないようですけれど、大丈夫ですか?」
「先程はどうも。俺は大丈夫ですよ。少々睡眠不足が祟ってしまったようで……お気遣いありがとうございます」
「お連れ様は、まだお話中ですわよね?もし宜しければ、私の借りている客室にご案内いたしましょうか。少しでも休んでいかれた方が良いと思います」
「いえ。そんなにご心配ならなくても、本当に大丈夫ですから」
「ですが…」
笑顔を浮かべたまま、まさか自分にそんな誘いが来るとは思わなかったと、内心滅茶苦茶に動揺していた。
いや、たんなる善意……なわけないよなぁ。
このような場で男一人を連れ込もうなど、そういう誘いでしかない。
正直お断りしたいのだが、相当に言葉を選ばなければ女性に対して失礼になってしまう。
なのに熱で浮かされているせいか思考が定まらず、上手い言葉が浮かんでこない。
ああぁ、なんでこんな付け入れられてしまうような隙を作ってしまったんだ。
チクショウ、これも全て銀さんのせいだ…!!
そう内心で罵倒した途端。
「っ…!?」
下腹部からの衝撃に、森田はがくりとその場に崩れてしまった。
女性が驚いて少し遠のき、続いて慌てて声を掛けてきた。
と同時に、差し出された手。
「森田、大丈夫か」
「銀さん……?」
のろのろと顔を上げれば、先程まで離れていた銀二が、自分のところに来ていた。
元凶は明らかに彼でありながらも、森田はほぅと安堵し、その手を取る。
どうにか立ち上がると、腰に手を回されて支えられた。
銀二は女性となにやら話しているが、こめかみがドクドクと煩いくらいに鳴っていて、よくは聞こえない。
「じゃあ森田、行くぞ」
しばらくして銀二が歩き出したので、それに合わせて自分も足を動かした。
だが向かったのは出口ではなく、エレベーターの方。
どうしたのかと疑問に思って顔を上げると、視線に気付いた銀二がニヤリと笑う。
「招待状に一枚につき、客室一室が付けられているんだ。そうじゃねぇ限り、こんな状態にしたお前を連れては来ねぇさ」
「あぁ、なるほど…」
初めからそのつもりで来ていたのかと呆れつつ、項垂れてしまう。
元々銀二が、招待状を送ってきた相手の事をあまり快く思っていないのは知っていた。
つまり参加するのはかなり面倒くさいから、せめて楽しみを作って鬱憤を晴らそうと、自分をこんな状態にしたのだろう。
「………はぁ。…まぁ、良いですけどね。銀さんのメンタルをサポートするのも、俺の役目だと思っておきます」
「ククク。そうやって許してくれるお前が、俺は気に入っているぜ」
愉しそうに笑われると、悔しいが許すしかないではないか。
せめて部屋までは頑張ってもらおうと、かなり躰の力を抜いて銀二に寄り掛かった。
当然かもしれないがしっかり歩けとは言われず、くつりと喉を鳴らして笑ってきただけであった。
部屋に入った瞬間、森田は壁に寄り掛かり、そのままずるずると床に崩れた。
「…ぅ、く……んぁ、」
抑えていた声が漏れ、ぶわりと汗も吹き出て、荒い吐息が漏れる。
カタカタと断絶的に躰が揺れ、湧き上がってくるものをどうにか抑え込もうと自分の躰を強く抱き締めるも、どうにもならない。
我慢の限界だった。
今までずっと、人の眼があるからと必死に自分を叱咤し押さえていたが、隔離されたと自覚した途端この有様。
燻っている熱がぐるぐると躰の中を掻き回し、けれどそれを開放する事が出来ず、苦痛にすら感じてしまう。
それなのに快楽には際限が無いのだろうか、次から次へとズクズクした疼きが生まれてきて、ずっと苛まれ続けている。
むしろここまでよく持ったと、自分を褒めたくなった。
ぱちりと部屋の照明が付けられ、部屋のドアを確認していた銀二がこちらへとやってきた。
「何だ、そこにいたのか。一瞬何処に行ったのかと思ったぞ」
「はは…ベッドまで行く前に、脚が」
「ほら」
乾いた笑いを出すと、銀二にひょいと抱き上げられた。
素直に身を任せれば、部屋にあったキングサイズのベッドに降ろされ寝かされる。
そして彼もベッドに腰を下ろし、こちらへと手を伸ばしてきた。
上着をたくし上げられ、ベルトも外され、ズボンの前を寛げられる。
森田はそれをぼんやりと見やる。
「ぁ……」
下着を少し下げられると、湿っている陰毛の先に現れたペニスは、既に勃起していた。
とろとろと先走りが流れていて、ペニスへと伝い落ちている。
よくわからなかったけれども、きっと下着はどろどろに濡れているのだろう。
そして、濡れていたのにそれが気持ち悪いという感覚すら失わせていた問題のものは、相変わらず自分の膨張するペニスの根元を縛っていた。
ペニスバンド。
それが、自分の熱を塞き止めているのだ。
家を出る前から、パーティーの間もずっと。
「すっかり熟しているな。食い時か?」
「っ……銀さん、オッサンくさい、ですよ」
「オッサンだからな」
見られて揶揄されるのが恥ずかしいから言い返しただけなのに、銀二はクツクツと愉しげに笑うだけだ。
パーティーに行く前に人の躰を弄ったのは銀二なのだから、今更と言えば今更なのだが、やはりかなり悔しい。
出掛ける間際になってペニスを嬲られ、喘がされて。
日頃から彼に慣らされ続けている躰が抵抗なんて出来るはずも無く、しかも一回も射精させてもらえずに煽られるだけ煽られ、熱を塞き止められた状況で行く事を無理矢理承諾させられた。
見た目はきちんとパーティー用スーツまで着て完全防備なのにも拘らず、ふらふらのまま家を出たのだ。
そんな思考がままならない状況の中、本当によく耐え続けられたと思う。
銀二は濡れたペニスを見下ろしたまま、ふと口の端を吊り上げた。
「凄く、震えているな…」
わざわざ状況を説明してこられ、羞恥に顔が熱くなる。
彼は殊更笑みを深くし、ペニスの先端を指で緩く掴んできた。
ぐりっと、尿道の穴を抉るようにして人差し指を立てられる。
「ぃ!…ああっ、っぁ、あ…っ」
突き抜けるような強い快感に、びくんと腰が撓った。
精液を吐き出したくて、けれど根元が塞き止められているから、細い革のベルトがぎちぎちと食い込んだだけ。
もう我慢しきれなくて自分で取ろうと手を伸ばすも、銀二に止められてしまう。
「や、なんで…銀さんっ…」
「先に服を脱いじまえ。そしたら取って、イかせてやる」
「ぅ…うう…」
唸りながらも、森田は震える手でどうにかネクタイを外し、ジャケットとワイシャツのボタンも外していった。
ズボンやボクサーパンツは、銀二の手によって脱がされる。
息も絶え絶えにどうにか全裸になった……と思いきや、今度は躰をうつ伏せにさせられた。
「ぁっ……」
腰を引かれ、何も身に纏っていない尻を、思いっきり銀二の眼に晒す格好を取らされる。
瞬間、胎内がぶわっと熱を感じて、収縮した。
ずっと中に埋め込まれて小刻みに動いていたものをきゅううと締め付け、余計に感じてしまう。
「あ、っ…んぁ、ああんっ」
「凄いな。こっちにまで先走りが流れたのか、それとも腸液が零れ出てきているのかはわからねぇが、びしょびしょになっちまっている」
「や、銀さん…見ないで、下さ…ぁ、あっ」
「入り口付近も、出ている紐じゃ全然足りなさそうにヒクヒクしているが?」
「ぅ…ううっ……言わないで、下さい…ぁ、あん」
尻穴から伸びている紐をクンッと引っ張られ、びくんと腰が跳ねてしまう。
胎内のものは、会場で女性と喋っている時に突如震え始めたまま、今も小さく振動していた。
紐の先には小さなプラスチックの玉が付いているだけの、遠隔操作のローター。
当然ながら、リモコンは銀二が持っている。
こんな状態で挨拶回りをさせられて、あの会場の人達に気付かれたらどうするつもりだったのか。
お前なら堪えられるだろ?だなんて言われて、堪えるしかない状況を、銀二は上機嫌で見ていただけなのだ。
そう考えると、滅茶苦茶酷い。
酷すぎる!
「ふぁ……は、早く…抜いて、あ、ぁうう」
「もう少し待っていろよ。タオル持ってこねぇと」
「ぇっ…や、そんな」
慌てて彼の方を向くも、銀二は自分を放ってベッドから離れていってしまった。
いや確かに、タオル持ってきてペニスに宛てておかないと、ベッドが汚れるのはわかる。
ここは自宅ではないから、気を付けないといけないという事は理解している。
しかしこうも焦らされるとわざとしか思えない。
「ううっ……ぅ、も…なんで、」
森田は燻る快楽に耐え切れず、ぼろりと涙を零した。
to be continued...
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2011.08.04
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