どれだけ共にいても、満たされない、何かがある。




   tears

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++





 天気が良かった。
 もうすぐ春だからだろう、まだ風は少し冷たくひんやりしているものの、太陽の日差しが暖かく空気もカラッとしていて過ごしやすい。
 そのおかげか、干していた白いシーツや布団はふわりとした感触を返し、清潔感を漂わせていた。


「よし、終わった」


 そのシーツをこぢんまりとしているが陽はよく入る、明るい部屋の中にあるベッドに綺麗に敷き、アキラはシキへと振り返った。
 シキは車椅子に座り俯き、ぼんやりとした虚ろな眼で、ただ床をその双眸に映している。

 そんなシキに微笑み、そっと背から脇と両膝裏に腕を回して車椅子から持ち上げた。
 ゆっくりとベッドに降ろし、横たわらせる。


 この部屋に移り住んでから、一週間になろうとしていた。
 いつもシキの為に環境の良さそうな場所を探し、住めそうな空き家に勝手に入り勝手に住んでいるのだが、それでも放置されていて埃を被っていたので、きちんと住めるように綺麗に掃除をした。
 シーツや布団も何度か干して、ようやく全部が綺麗になったのだ。
 これならシキも気持ち良く眠れるだろう。


 ぼんやりと開いている眼を隠すように、その上に軽く手を置く。
 シキが眠いと感じた時は、こうすると必ず眼を閉じるのだ。
 だが、まだ眠くはないのか眼を閉じる時の睫の感触がしない。
 手をどかすと、やはりまだ午後になったばかりだからだろう、シキは赤い虚ろな眼を開けていた。

 今日はもうやりたい事も無いし、周りから殺気を感じるわけでもない、平和な日だ。
 このままシキの顔を眺めているのも悪くはない。


「そうだシキ、一緒に風呂にでも入らないか?」


 横たわったシキの頭元に座り、前髪を梳き、露わになったおでこにキスを落とす。
 別に昨日の夜に入らなかったというわけではないのだが、折角部屋が全部綺麗になったのだし、自分も最後にさっぱりしたい気分だった。

 そうと決まれば、とアキラはすぐさま風呂場へ行き、風呂にお湯を張り始めた。












「気持ち良いな……」


 躰休まる湯につかり、アキラはふぅと溜め息を漏らした。
 湯からふかふかと漂う湯気が、風呂場の壁を少し湿気で濡らしている。
 ぴちゃん、と弾く水音が聞こえ、それがシキにも届いているのだろうかとちょっと顔を覗いてみた。

 やはりまだ眠くないのだろう、双眸は閉じられる事は無く、時折瞬きをしている。
 先に顔を洗ってやった為に白い顔に濡れた黒髪が張り付き、それがやけにシキを艶めかしくみせていた。


「躰、洗ってやるから」


 シャンプーや石鹸、ブラシは、湯の中からでも届くような位置に置いてある。
 湯船から出してシキの躰を洗うとなると結構たいへんだったりするので、いつも中に入ったまま全部してしまうのだ。

 シキが湯に沈んだりしないように注意しながら、シャンプーを取り、ポンプを押して手に少量出すと、それをシキの頭に持っていく。
 開いている眼にシャンプーが入らないようにゆっくり、かし、かし、と頭をマッサージするように柔らかな髪を洗う。
 ある程度シキの頭を洗い終わると、そのまま先に自分の頭も洗ってしまい、洗面器に湯を注いで、これもやはりシキの顔にはかからないように丁寧に、二人のシャンプーの泡を湯船の中に落とした。

 その作業が終わると、次は石鹸を丸々一つ、湯の中に入れた。
 そのうち石鹸が溶け出し、泡立つようにちゃぷちゃぷとお湯を掻き混ぜる。
 先に自分の躰を洗ってしまおうと、躰を洗う為のブラシを手に取り、シキを抱き締めたまま器用に洗っていった。
 遠い足の方も、初めからそれ程湯船が大きくない為に曲げていたので、手の届く範囲にある。
 自分を全部洗ってしまいブラシの必要性が無くなると、それを元の場所に置き、そして次はとシキの躰を、ゆっくりゆっくり、垢を落とすように優しく手の平で撫でていった。


「シキ、気持ち良いか?」


 自分の鎖骨辺りにシキの頭があり、そのすぐ近くにあるシキの耳元で囁きながら、アキラはいつものようにシキを洗った。
 殆ど活動していないシキの躰は、ブラシで洗ったりすると必要以上に刺激してしまったり、細胞を剥ぎ落としてしまうのだ。

 腕や胸、腹。
 背中から尻、太腿、足の爪先まで、丹念に撫でていく。
 それから。


「……ぁ…………」


 虚ろな筈のシキから、微かな、吐息のような声が聞こえてきた。
 シキのペニスを掴み弄っているのだから当たり前といえば当たり前かもしれないが、それでもこうやって声が聞ける事は、アキラにとって喜びだった。

 シキはまだ生きている、と……そう確認出来るのだから。


「…………ん……」
「シキの声、色っぽい」


 シキが感じるように、全体を上下に擦り、時折袋の方まで揉む。
 徐々に勃ち上がってくるペニスに、アキラは笑みを浮かべた。
 こうやってちゃんと気持ち良い事に感じてくれているシキの反応が、愛おしい。


「……ぅ…………ん」


 泡立つお湯の中で、ぬるっとした感触が手に伝わってくる。
 もうすぐだろうと、ペニスの先端を掴み、ぬめりを出す尿道の中に指が入るよう、引っかき押す。
 ほんの少しだが細い中に指が入ると、シキはひくりと腰を跳ねらせ、射精した。


「ぁ……あ……」


 先程よりも息使いが荒く、顔を覗き込むと、普段は彫刻のように白い顔がほんのり赤く染まっていた。


「ごめん、のぼせちゃったんだな。もうあがろうか」


 耳元で囁き、シキを抱きかかえた。
 湯船から出て、一度その場にシキを座らせる。
 上体が倒れたりしないように支えながら、シャワーを手に取り、シキや自分の躰に付いた泡を完璧に落としていった。


「よし、綺麗になった。わかるか?今のシキ、凄く綺麗だ」


 もちろんシキは常に綺麗であるし、この状態は美しく儚い。
 それでも、躰を洗ってスッキリしている……そんな気分をシキにも感じていてほしいのだ。
 いや、感じていてくれているのでは、と思う。


 風呂場から脱衣所に出て、用意しておいた大きなバスタオルでシキの濡れた躰を包んだ。
 つい先日洗濯したタオルは柔らかく、ふわりとしている。
 シキの頭や躰を拭き終わると、そのタオルでざっと自分の躰も拭き、そしてシキに服を着せようとして……アキラはその動きを止めた。


「…………シキ」


 名前を呼び、そんな自分のもの欲しそうな声に、思わず苦笑してしまった。


 駄目だな……―――飢えが生じている。


 今、どれだけ共にいても満たされない何かを、満たしたくなっていた。
 もっとシキを感じたい、感じていたい、と。


「シキ、アンタは……いつ、また俺を抱いてくれるんだろうか。…………いつ、俺を見てくれる?」


 こんな問いを、もう何度したかも覚えてはいない。
 常に問いかけているし、その答えを貰った事などもちろん無い。
 それに対して心が痛くなるという事は、やはり自分は寂しいのだろうか。


 この状態でも、ずっと幸せだと思っているはずなのに。



「ごめんな、シキ。俺……弱くて。まだまだ、全然アンタには敵わないんだろうな」


 ちゃんと笑ったはずなのに、少し目頭が熱くなった。
 ずくり、と疼いた臍に付いているピアスをそっと撫でる。
 やばいな、と思った時というのは認識してしまうのと同義で、躰が疼き、シキの中に入れたいと望んでいた。

 それに、シキの胎内に入れて快楽を与えてやれば、もっとシキの声が聞こえる。
 意味のなす言葉として発せられなくても、シキの声が聞けるのなら、それだけで良い。




 アキラは、裸のままシキを抱き上げ、先程のベッドに運んだ。
 裸体を晒すシキが、何の抵抗も無くベッドにふんわりと沈む。
 レースのカーテンを閉めても尚、窓から差し込む陽の光を浴びて、まだ少し濡れている漆黒の髪がきらきらと輝く。
 ほんのりと赤く色付いているほっそりとした躰も、磁器のようでとても美しく綺麗だった。

 アキラもベッドに乗り、ゆっくりとシキの躰に自分の裸体を押し付けた。
 薄く開いたシキの唇に軽くつばむようなキスをし、そのまま舌を使い、顎から首を辿り、胸の方まで舐めていく。
 途中、鎖骨辺りを強く吸い付き、白い肌に赤い鬱血を残した。

 ピンク色に色付くシキの乳首を何度か甘噛みし吸うと、快楽を主張するようにぷくりと膨らむ。
 もう片方の乳首は指で刺激し、同じように立たせた。


「ん……シキ…………」


 空いている方の手で、既に一度達したシキのペニスを掴み、またゆるゆると刺激を施していく。
 躰を舐められて気持ち良かったのか、少し先端を弄るだけで、すぐに勃ち上がり、精液を零し始めた。
 排泄物は風呂に入る前にオムツを捨てる時に確認したし、風呂に入る直前にも出させたので、まだ今は精液以外に出すものは無いだろう。

 くちゅり、と粘着質な音を鳴らし、とろとろと精液が流れ出てくる。
 アキラはシキの乳首から口を離すと、また躰を舐めながら顔を下部へと移動させていく。
 筋肉の削ぎ落とされた細い腹、その真ん中にある臍。
 自分のものをシキに触って欲しくて、それが望まれないからシキの臍に、まるで自分と同じ所有の証があるように想像して、何度もシキの臍の窪みを舐めた。
 そのたびに、ずきずきと自分の臍が痛みを施し疼く。


「……ぁ…………」
「……ん」


 シキの声に反応し、アキラは一度顔を上げ、シキの下肢を確認した。
 とろとろと流れていた精液は弄っていた指を十分に濡らし、シキの細い足を持ち上げ横に広げて確認してみると、その間の下の穴の方まで精液が流れている。
 その和えかなピンク色をしている艶かしい場所に、引かれるようにアキラは顔をうずめた。
 まだ頑ななに閉じている入り口を溶かすように唾液を馴染ませていく。


「あ……ん……」


 鼻から抜けるようなシキの微かな嬌声は、聞くたびに何かがじんわりと心に沁みて広がっていく。
 寂しさとか、哀しさが消えていく。

 初めからそんなものは無かった、と思えればいいのだけれど。
 ずっとこのままでも幸福だと思い込んでいるけれど。


 それでもやはり、心のどこかでは泣いているのかもしれない。


 けれどそれを認めてしまったら……いや、認めたくはなかった。
 今のままで、幸せなのだ、自分達は。
 それ以上を望む必要など、どこにある?


 シキの足を自分の肩に置いて見えるようにしてから、濡れて解れてきたアナルに指を一本、宛てがう。
 少し強く押すと、ぬるり……と簡単にシキの胎内へと入っていった。
 暖かな中を少しずつ刺激しながら、奥へと埋めていく。


「ぁ、ん……あ、あ……」


 普段全く動かないシキが身動ぎし、しっとりと濡れている開いた唇から声を漏らす。
 辿り着いた前立腺を強く押すと、シキはまたびくりと躰を撓らせた。
 初めから抵抗なんてものは無く、もう一本指を入れても難なく入り口を広げ中に埋められる。
 掻き混ぜるとぐちゅぐちゅと音が鳴り、前立腺を押すたびシキは微かに躰を震わせた。
 快楽にか、シキの頬が少し赤くなっている。


「シキ、もう……良いか?」


 指を咥え込み少し広がった入り口を見たり、柔らかく生々しい感触のする濡れた胎内を掻き回していると、早く自分のものを入れたくなった。
 もうかなり前から下肢は昂ぶり勃ち上がり、シキと同じように精液を零している。

 アナルから指を抜くと、もの足りなそうにひくひくと収縮した。
 躰に負担がかからないように、シキの股を大きく広げさせ、腰を支える。
 明るさに反射して光っているそこに、アキラは自分のペニスを宛がった。


「……あ、あ…………ん」
「っ……シキ……く、っ」


 腰を押し進め、ずぷずぷとシキの胎内に自分のペニスを埋めていく。
 シキの中は熱くきつくも、柔らかい壁が蠢き収縮し、気持ちが良かった。

 全てを入れ終わり、熱い息を吐く。
 だが、ふと顔を上げると、アキラは驚愕に深緑の双眸を見開いた。
 慌ててシキの顔へと自分の顔を近づけ、あやすように何度もキスをする。


「ごめん、シキ……痛かったか?ごめんな」


 シキはぽろぽろと涙を流していた。
 呼吸がとても荒く、心なしか、痛さに眉も寄せられているような気がする。

 瞼や眦に何度もキスをし、頭や濡れた頬を優しい手つきで撫でた。
 ……何度も何度も。
 泣き止んでくれるようにと。



 あやし続けていると、少しずつだがシキの呼吸が落ち着いてきた。
 涙はまだ零れたままだが、表情も穏やかになっている。


「……シキ、動くから」


 アキラは優しく囁き、もう一度シキの眦にキスをした。
 そしてゆっくりと腰を動かしていく。

 シキの胎内は、引き抜こうとするとまるで出されるのが嫌だというように絞られ、絞られた状況の中に入れようとすると、逆に押し返されるような感じがした。
 だがまた中に入れて留まると、取り込まれていくように蠢く。
 断絶的にシキの尻の穴の入り口がひく、ひくと反応し、そこでまた刺激を施される。


「あ、あ…あ……ぁ…………」
「っは……ん、シキ……あ」
「……ああ、あ……ぁふ……」


 前立腺を擦るように何度も抽出を繰り返すと、気持ち良さそうにシキが濡れた声を漏らす。
 ぐちゅ、ぐちゅ、と泡立つ音が聞こえ、それがまたシキの喘ぎ声と混じって艶かしく聞こえた。
 ぼんやりとした紅い双眸に涙が浮かび零れ、躰を動かしている為にか、ほんのりと色付いた肌理細やかな肌から汗が浮き出てきている。
 時折身動ぎし、無意識のまま腰を揺らすシキの全てが綺麗で、そして妖艶だった。


「は、あっ……シキ、シキ……ん」


 ぽたり、とシキの腹の上に自分の汗が落ちた。
 力の殆ど入っていないシキの躰を抱くのは、結構な体力を使う。
 それにもうシキの胎内に嬲られ、そろそろイきそうだった。

 自ずと熱い息を何度も吐き出し、揺さぶりを早くする。
 シキのペニスも既にどろどろになっていて、アキラは先にシキの射精を促すようにそれを掴み、掌で擦った。


「ん……ああ、ぁ……ぁ……」
「っん、ん!」


 一際躰を撓らせ、シキがびゅくと精液を飛ばす。
 その瞬間、シキの胎内の奥深くまで突き入れたアキラは、シキのイった締め付けに促されるように中へと射精した。



「―――っは、はぁ……はぁ」

 詰めていた息を吐き出し、ようやく躰の力を抜く。
 シキを傷つけないようにと慎重に事を進めていた為、少しばかり無駄な力が入ってしまっていたようだ。

 呼吸が落ち着かせながら、アキラはシキの様子を伺うと、シキは涙は相変わらず止まっていなかった。
 涙腺が緩んだまま、静かに流れ続けている。
 躰がびっくりしてしまっていて止められないのかもしれないと思い、とりあえずシキの胎内から自分のペニスを引き抜いた。


「シキ、大丈夫か?」


 話しかけ、涙が止まるように何度か優しく頭を撫でる。
 いつの間にか、開いた口から涎が垂れていたのを、指でぬぐってやる。
 シキの出した精液は腹の上に飛び散り、ぶり出した汗と混じっているし、アナルからは自分の放った精液がとろとろと漏れてきている状況だ。


「とにかく、一度拭いた方が良いよな……」


 汗で張り付いた髪をどかし、少し離れる時いつもシキのおでこにキスをするように、今もまたキスを落とした。
 すぐに戻ってくるから安心して待っていてくれ、と願いを込めてのキスだった。












 躰をお湯で濡らしたタオルで綺麗に拭き、後始末も全部して、またアキラはシキの裸体の上へと躰をゆっくり乗せた。
 シキの顔を見ると、ようやく落ち着いたのか、まだ少し濡れた膜は張っているものの涙は止まっていた。
 赤かった顔や肌も、またいつも通りの磁器のようなものへと戻っている。

 互いの下肢が絡むように摺り寄せ、臍ピアスの感触がシキの躰に伝わるように押し付けた。
 そして、虚ろな眼をしたシキの顔を間近で覗き込みながら、アキラは笑みを浮かべる。


「わかるか?これ、アンタが付けてくれたものなんだぞ。この時から俺は、アンタに囚われ続けているんだ。ずっと……アンタから離れられないんだ」


 囚われ逃げられなくなり、そして今も尚こうして、シキの傍にいる。
 シキが何を望んでいるのか、どんな未来を望んでいたのかはわからないけれど、それでも自分はシキと共にある事を望んだ。
 それがシキの思惑通りの展開であるのなら、それはそれで良いと思える。


 幸せ……そう、幸せなのだ、今のままでも。


 くすり、と笑い、アキラは涙で濡れたシキの眼の上に軽く手を置いた。
 少し待ち、シキの睫の動く感触がしてから手をどかす。

 流石に疲れて眠くなったのか、シキは眼を瞑っていた。



 そして。






 一筋の涙が、零れ落ちる。





  ...end.

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

生々しい表現ばかりですみません。シキが何気にオムツだし。
そして私的に20禁かな。廃人なシキを抱いてるわけで、精神的に…。

2006.02.20

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


←Back