寄り添えばいい、それで君と生きていける。




   position

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 シャワーのコルクを回し、湯を止める。
 そのままシキは脱衣所に出て、用意しておいたタオルでぞんざいに濡れた髪を拭いた。
 躰も拭き終わるとタオルを腰に巻き、クロスを首にかけ、脱いだ服と刀を手に持って部屋へと戻る。

 ほとんど全裸で出てきたシキに、ベッドに座り本を読んでいたナノは、顔を上げた。
 ナノは既に風呂から上がっていて、薄い青色をした、白いストライプ模様の入ったパジャマも着ている。
 シキはナノの座っているベッドの、隣のベッドの下に脱いだ服や刀を落とすと、そのままさっさと横になってしまった。
 羽毛布を肩までかけ、すっぽりと躰を覆うと腰に回していたタオルを床に放り投げ、ナノに背を向ける。


「もう、寝るのか?」


 少しヒビの入ったコンクリートの壁に掛かっている、古びた時計に眼をやると、もうすぐ十時になろうとしているところだった。
 まだ寝るには早いような気もするのだが。
 でも寝るのならば、電気を消した方が良いのではないだろうかと、シキの様子を窺ってみる。


「……ああ」
「そうか」


 短く答えただけのシキに、ナノもまた短く頷いただけだった。








 ナノはトシマで、昔出会い、己のナイフを渡した少年と再会した。
 多分あの日からずっと、捜していたのだろうと漠然と思う。

 だが再会は、全てを失った瞬間でもあった。
 ……もう十分だ。
 彼とその連れを追っ手から逃し、これから彼が生きていけるのなら。
 黒は、決して黒以外の色に染まる事はないのだと、生きる必要がなくなったのだと、あの背中を見送り、そう思った。

 もう、楽になりたい。
 全てを諦め、喪失と絶望が押し寄せてくる。

 支援部隊のヘリが、けたたましい音を鳴らしながら近づいてくる。
 またこの躰を兵器として使われようとも、もう、きっと何も感じない……いや、初めから感じてなどいなかったのだ。
 これからもずっと人間を殺し続けるだけならばいっそ、この命が死んでしまえばいいと、肩から流れる血が全て消えてしまえば良いと。
 雨に打たれ、夜の街には明るすぎるライトを見ながら、佇んでいた。


「……?」


 だから、怪我をしていない方の腕をいきなり強い力で引っ張られた時には、何が起きたのかわからなかった。
 かなり強い力で引っ張られ、前のりになり、強制的に走らされる。
 早いペースでその場から逃げるように駆け抜け、ヘリのライトの届かない場所へと行かされる。
 それでもまだ、腕は強く掴まれていた。

 豪雨の中を、漆黒の風が駆け抜けるようだった。
 すぐ目の前を行く、漆黒。
 その黒を見て、唖然となったのを、今でもはっきりと覚えている。


 黒とは、こんなにも美しい色だったのか、と。


 塗れた髪は艶やかに水を飛ばしながら靡き、長いコートが一面を黒に染めようと舞いあがる。
 鮮やかな漆黒を纏う姿と、ちらりとこちらを確認する為か振り向いた時に見えた、赤。
灼熱のように赤い双眸。


「お前は……」


 あの男だった。
 ずっとラインの原液を渡していた…………自分が利用してきた男、シキだった。
 シキはこちらを確認しただけで、すぐにまた前を向いた。

 そのままヘリの追跡も届かない程遠くへと走った。
 何の迷いも無く、目の前の男は自分の腕を放さぬまま走り抜けていく。

 一つの建物の中へと入った。
 そこにあった地下空洞を見て、このトシマからの抜け道だという事がわかった。
 あの少年に指し示したとはまた全然別の抜け道だった。
 そしてようやくここで、シキとはっきりと向かい合った。


「先に降りろ」


 シキが短く言い放つ。
 その眼には、今まで見てきた筈の憎悪も敵意も、無かった。
 一体彼の中で何が起こったのだろうかと、疑問に思い、その顔を見返す。


「早くしろ」
「なぜ、連れて来た……お前は俺を、憎んでいたのでは、なかったのか」
「貴様のせいだろうが。貴様がそんな腑抜けた顔をするからだ。そんな惨めで悲しみに打ちひしがれる貴様を、俺は追っていたんじゃない」


 無表情のまま淡々と言い放ち、いいから早くしろと促され、ナノは地下空洞へと降りた。
 すぐにシキも降りてきて、暗い道を先へと歩いていく。
 今度は腕を引っ張られる事は無かったが、ナノはシキの後を追った。

 しばらく歩いただろうか、上の方から爆音が鳴り響き、西と東の内戦の始まりを告げた。
 先を歩いていたシキは少し立ち止まり、だがまたすぐに歩き始める。
 その後をまたついていくと、シキはまるで自分に言い聞かせるように呟いた。


「……何度も追って。なのに貴様は、俺が追い求めてきたものと違ってしまっていた。俺の追い続けたお前は、何も映さない、何も存在しない純粋な無だったはずだ。なのにいつの間にか、貴様は無でなくなっていた」
「俺が…………無……?」


 自分は黒だと思っていた。
 黒以外には有り得ない、それ以外には染まる事も、これから違う色に染められていく事も無いのだと思っていた。
 ……だが同時に、確かに黒ではないのかもしれないとも思った。
 黒があんな美しい色であるならば、それが自分で有り得る筈はないと。
 シキは、淡々と言葉を続けていく。


「だが俺は、貴様に勝つと決めている。貴様を倒してあの時の無様な恐怖を、そして敗北を取り除く。それがどんな貴様であろうと、な。その為には、あんな所で貴様に死なれては困る。だから連れて来た。それだけだ」
「…………今の俺が、無でないならば、一体、何色をしている……」


 この問いかけにシキはどう答えるだろか。
 後ろ姿のまま、声だけが返ってきた。


「あるか無いか。存在しているか存在していないか。俺にとっては、貴様が何色をしているなどという些細な事はどうでもいい」
「…………」


 そういうものだろうかとどこかで心が落胆しかけた、その時、赤い瞳がこちらを見た。
 シキは考えるように空洞のごつごつした壁を見つめ、そしてまたこちらを振り返る。


「だが、そうだな。無でない今の貴様は透明といったところだ。存在はしているが、色が付いていない」


 そう言って、ふとシキは笑った。
 きっと無意識だろう……それでも自分に笑いかけてくれるという行為をされたのは、本当に、久しぶりの事だった。








 そんな経緯で二人で共にトシマから脱出して、早一年が経とうとしていた。
 ナノはニコルの血とニコルプルミエという兵器を欲する連中から逃れる為に、各地を渡っている。
 シキもまた、イル・レとしての彼を追ってくる輩から逃れていた。

 逃げてはどこか良いねぐらはないかと探し、崩壊しかけていた、けれど人が住んでいて機能している街の中を歩く。
 その中で、以前はどうやらホテルだった所らしい場所を見つけ、今日はそこの一室で寝る事にしたのだ。


 確かに久しぶりのベッドだから、早く寝て躰を休めてしまいたいのかもしれない。
 毛布にくるまっているシキを見て、ナノは読んでいた本を閉じて、立ち上がった。
 ぱち、ぱち、と部屋に吊るされた明かりの紐を二度引っ張ると、視界は薄暗い茶色に染まる。

 またベッドの方へと戻り、脇まで来ると、自分の着ていたパジャマのボタンを外した。
 全部外して脱ぎ、人のいなくなったベッドに投げる。
 ぱさり、と落ちたその音にシキの躰がびくりと動き、一瞬にして空気が張り詰めたものへと変わった。

 どうしようかと迷ったが、結局ズボンや下着まで全部脱ぐ。
 そして先程まで自分の座っていたベッドではない、隣のシキの寝ているベッドの毛布を捲る。


「っ……」


 シキが息を詰まらし、ぎゅっとその躰を抱しめる力を強めた。
 ほんの微かな光を浴びて、自分よりも少し高い背を丸めて縮こまった彼の白い裸体が、はっきりと浮かび上がる。
 ナノはその躰を見て笑みを浮かべると、ベッドの空いている所に横になり、自分達に羽毛布をかけた。

 触れる度にひくり、ひくり、としなやかな裸体を小さく動かすのを楽しみながら、腕を細い腰へと回し背を向けて丸くなっている躰を後ろから抱しめ、微かな隙間もない程にくっ付いた。
 自分の胸にシキの背中が当たり、ペニスがシキの尻の間へと少し挟まったせいか、シキはそれ以上を拒むようにきゅっと尻に力を入れた。
 ちょうど顔の部分にシキのまだ乾ききっていない湿った黒い髪がくる。
 ふわりと漂ってきた、ここのバスルームに置かれていたシャンプーの香りとシキの匂いに誘われて、綺麗な髪へとキスを落とし、そのままうずめた。


「……ぅっ」


 腰に回している手とは別の、開いている方の手でシキのさらりとした肌を撫でると、小さな呻きが聞こえた。
 ちゃりと十字架を掠め、胸から、細くも筋肉の付いた腹、臍、下腹部、陰毛。
 そしてまだ立ち上がっていないペニスを掴み、少しだけ擦る。


「ッちょ……まてっ……」


 振り返ったシキの顔は、薄暗くてよくはわからなかったが、ほんのりと赤く染まっているようだった。
 潤んでいるのか、茶色い光を反射させ、眼が艶やかに光る。


「どうした……?」
「き、さま、まさかヤる気じゃ……っん!」


 シキが抗議を上げる前に掴んでいたペニスをぎゅと握ると、ひときわ大きく躰を撓らせた。
 慌てて離れようと、腰に回していた手を掴みどかそうとするシキの躰を、余計に強く抱しめ、耳元で宥め言い聞かせるように囁いた。


「……ああ、やりたい。お前の中に入れて……掻き回して、泣かせて。……感じたい。お前を、感じていたい」



 自分の色だと思っていたものが本当は全く違ったのだと知ったあの時から、全てを受け入れられるようなった。
 様々な色を持つ様々な人間達は、よく見てみると意外にもそれぞれに綺麗な部分があって。
 黒にも、色々な黒がある……美しかったり、濁っていたり、闇のように深かったり。
 けれどやはり、自分はどうもその色ではないらしく。

 そう気づかせてくれた人間もまた、意外にも多様な感情を持っていた。
 憎悪と恐怖……歓喜、哀愁。
 そんな感情に見合った表情や表現もまた一人一人違っている。

 だからこそ人というものは、何かの色に染まっていくのではないと知った。
 美しい黒は黒いままに、変わる事はない。
 ただその色と寄り添える色が、どこかに存在しているのだ。


 ……自分は、寄り添う事が出来るだろうか?
 美しい漆黒を纏い、自分に対し透明だと言って笑んだお前の傍に。
 微かな隙間だけで良い。
 その場所で、お前のその色を感じていたい。



 シキはもぞもぞと動くが、やがて諦めたように、はぁ、と溜め息をついた。
 シーツに顔を押しつけ、ぼそりとくぐもった声で呟く。


「……今日、だけだからな」
「シキ……それ、前も言った……」
「っ!……う、煩い!する気がないなら離れろ!」


 かーっと音が聞こえるのではないかと言う程に顔が紅潮したのを、ごまかすかのように怒鳴るシキに、ナノは笑みを浮かべた。


「……いや、そう言うなら……遠慮はしない」
「なっ、貴様!ぅあっ」


 ペニスの先端を抉るように引っ掻くと、シキの躰がビクリと震えた。
 背後から掴んでいたペニスをゆるゆるとしごきながら、うなじ辺りにキスマークが残るほど吸い付く。
 徐々に立ち上がってくる昂ぶりを弄りながら、背中にも跡が残るように吸い付き、キスを落としていった。


「っ、う……んん」


 声を漏らさないように口に手を当て、ぎゅっと眼を瞑り堪えている姿は、余計に熱い欲望をかき立てる。
 濡れて精液の零れてきた昂ぶりの、くちゅくちゅと鳴る音を聞きながら、ナノは躰を起した。
 邪魔になった毛布をどかし、シキのペニスを掴んだまま、腰を高く浮くほどに引き寄せる。
 自ずとシーツに膝を付き、シキは尻を高く上げた格好になり、いつも突き入れている穴が淡い光の下に晒された。
 ほんのりと他の場所よりも色付いたそこが、空気に触れてひくひくと動く。


「み、見るな……う……く」


 腰から手は離さずにまじまじとそこを観察していると、視線に気付いたのか、何もしていない事に焦れたのか、シキが呻いた。
 顔を伏せ、シーツを手繰り寄せている為に表情はわからないが、肩やら腰やらが震えている。

 そんなシキの姿を見て、自分の欲望が滾ってくるのを感じた。
 だが今すぐ入れてしまえば、傷つけるだけだろう。


 以前まだトシマに行く前。
 初めて出会った、珍しい赤い双眸の男を、ただ屈辱と恐怖を植えつける為に、犯した覚えがある。
 そうすれば、必ずこの男は自分を殺しに来る・・・多くの憎悪でもって、追ってくる。
 そして案の定、追ってきた彼と戦い、その度にぼろぼろになるまで犯した。
 躰からは戦った時の血が流れ、穴からは血と精液をこびり付かせ、意識を失っている彼を何度も見下ろしてきた。
 その時の自分は、本当に何の感情も浮かんでいなかった……と思う。



 ペニスを掴んでいた濡れた手で、もっと見えるように尻を掴み横へと押し開いた。
 陰部に顔を寄せ、受け入れやすくさせる為に、色付く秘部を舐める。
 パサリと湿った黒い髪を靡かせながら、シキはナノの方へと振り向いた。
 驚愕に赤い眼を見開き、何か言おうと口を開くものの、ぴちゃりと窄まったそこに舌で探りながら入れると、シキの口から漏れたのは艶やかな喘ぎ声だった。
 シキは顔を真っ赤にしながらも、慌てて口を閉ざし、またシーツへと顔を伏せてしまう。


「……っ…ん!……あ、は」


 ぴちゃぴちゃと湿った音が薄暗い部屋に響き、断絶的にシキの微かな喘ぎが聞こえる。
 しなやかでスラりとした白い体躯は、細かく震え、感じているのがわかる。
 襞に何度か唾液を流して滑りやすくし入り口が少し緩んでくると、ナノは試しに指を一本、胎内へと入れた。
 もう何度も何度も受け入れていた入り口は指一本などすんなりと受け入れたが、それでも慎重に、探るように動かしながらゆっくりと奥へ埋めていく。


「中……柔らかい」
「う、ぁ……い、ちいち、言うな……っあ!う、」


 悪態をつくも、やはり震えながら喘ぎを漏らすシキが、普段の彼とかけ離れていて可愛く見えた。
 指を全部埋め込み、熱く蠢く胎内を掻き回しシキが良く感じる所をぐりぐりと押さえると、びくん、と大きく背中を撓らした。


「く、は……あ、あ」


 中はもうとっくに、唾液だけではない、腸液が漏れてどろどろに濡れている。
 指を二本に増やしても、ズプと水音を立てながら受け入れた。
 そろそろ声を抑えるのもつらくなってきたのか、先程よりも大きく艶やかな声が部屋に広がる。
 もう大丈夫だろうと判断し指を抜くと、自分の昂ぶっているペニスをひくひくと収縮する穴に宛がった。


「ひ、あっ!!」
「っ……ん」


 シキが咽から引きつった悲鳴を上げた。
 まだ少ししか中に入っていないというのに、物凄い締め付けてくる。
 ナノはシキの背中に覆いかぶさり、あやすようにキスを降らした。


 今、シキの脳裏に過ぎっているのは、あの時の屈辱。
 打ち負かされ、犯され、抵抗も出来ずにただ泣き叫ぶしかなかった時の記憶。
 自分がそうしたとはいえ、今更ながら随分と酷い事をしていたのだと気付いたのは、こうしてシキと共にいるようになってからだった。

 初めて一緒にいたいからセックスしたいと言った時、シキは初めはしぶしぶながら頷いたにも関わらず、いざ抱こうとしたら物凄い躰が震えていた。
 恐怖にガタガタと震え、引きつった呻きを漏らし、赤い眼からは涙が流れ、屈辱に耐えるように握り締められた手からは、爪が食い込み血が流れた。
 何かに縋り逃げようとするその姿に、見る方がつらくなった。
 罪悪感、というものを初めて知った瞬間だった。


「シキ…………シキ……」
「ぁ、ぁっ、……ぁ」


 耳元で名前を呼び、首筋に顔をうずめると、シキは少しだけ安心したのか躰から力が抜けていった。
 少しずつ埋めていくと、シキがそれに合わせて小さく声を上げ、中をやわやわと蠢かせる。
 己にはかなりの抑制力を必要とされるし、シキにも負担がかかるせいか、肌理細やかな肌から汗が出てきていた。
 全てを入れても、しばらくはそのままシキの様子を見ていた。
 はぁ、はぁ、とシキがつらそうに息を吐く。


「もう……平気、か……?」
「っ……ああ…気にするな、……早く、動け」


 顔を上げて、自分の方を見たシキの眼は、涙で濡れていた。
 そっと目元に唇を落とし、そのまま唇にもキスをする。


「……すまない」


 いつもだが、やはり今日も謝りたくなった。
 大事に思うからこそ、そんな行為をしてしまった過去は無しにする事などしたくないし、出来る訳もない。
 シキは、はぁ、と一度熱い息を吐き出し、それからこちらを見返してきた。


「――――」


 ほんの少し空気が震える程の小さな声で言ったのは、自分の名前だった。
 ナノ、という名でない、本当の名前。
 シキはすぐに顔を背けてしまったが、その名を噛み締めるように眼を閉じた。

 シキの要望通り抽出を開始させると、ぐちゅぐちゅ、と中から音が鳴り響く。
 上がった声は艶やかで快楽を帯びたもので、もう大丈夫だと笑みが零れた。
 ず、と抜くとシキの中は絞り込むように収縮し、その状態の中にまたズプと割り広げるように自分のペニスを埋め込む。
 熱く柔らかくて、それでいて締め付けてくるシキの胎内は、とても気持ちが良い。


「う、は……あ、あ……んんっん」


 鼻にかかった、すすり泣くシキの嬌声に、昂ぶりはより熱くなっていく。
 こちらが動く度に、ひくん、ひくん、と躰を撓らせ、中を締め付けてくる。
 シキのペニスに触れると、自分と同じように熱く立ち上がり、精液を零していた。


「シキ……熱い…………」
「ぅあ、触る、なっ!……んあっ」


 ぱさぱさと髪を鳴らしながら首を振るが、また先程のように扱いてやると、シキはやはり耐え切れずに喘いだ。
 もうシキは限界に来ているのだろう、熱い壁でもってぎゅうぎゅうと自分のペニスを締め付けている。
 自分もそろそろだろうと、抽出を早くしていき、奥へ、奥へと何度も突き入れていった。


「くは、ふ……ああ、あ」
「は、シキ。ん…………」
「あ、あ、っう―――あっ!」


 シキが背中を仰け反らせ、細い嬌声を出した。
 ペニスを扱いていた手に、大量の精液が零れ始める。
 それと同時に、自分もまたズルリと寸前まで抜いて、ぐちゅりとペニスを奥まで突き刺し、シキの胎内へと射精した。


「あ、ぁ……あ、あっ……」


 自分の放った精液やペニスを奥に受け入れたシキは、射精してもしばらくの間、痙攣を繰り返した。
 ナノは射精感が過ぎると力を抜き、けれど中に入れたペニスはそのままに、腰を上げたままのシキの背中に乗りかかった。
 胸の辺りに腕を回し、ぎゅっと抱しめ、開放感に浸る。
 そしてシキの痙攣が治まるのを待つ。

 シキは熱い息を何度も吐き、時折すすり泣く声を飲み込んだ。
 浅かった呼吸が、徐々に落ち着きを取り戻していく。
 だんだん熱くなってきた空気が冷めて来た時、シキは自分の方へと振り返った。


「……もう、抜け……っん…」
「…………もう少し、こうして、いたい……」


 シキは濡れた双眸でもって睨んできたが、すぐに眉を顰めると、俯いてしまった。
 今回行為を誘ってきたのはシキなのだから、あまり文句は言えないのだろう。
 だが、ふと思い立って、ナノはシキへと声をかけた。


「シキ……」
「……なんだ」
「したい時は、別に、裸でベッドに入らなくても……したいって言えば、良いと思うんだが……」
「………………煩い」


 ぼそりと呟いたシキに、ナノは苦笑し躰を離した。
 ペニスを抜くと同時に、ごぽ、と音が鳴り、精液がシキの太腿に流れていく。
 シキが顔を真っ赤にして、羞恥に唇を噛み締めた。


「ぅ……くそっ……」
「シャワー、また浴びるか……?」


 薄暗い部屋の中でも淡い光を浴びて色っぽく輝くシキの秘部を眺めながら、ナノはまた笑みを零した。




 そういえば、一番シキの顔が赤く染まったのは、あの時だった。
 もしかしたら太陽の下で見たから、はっきりと見えただけだという理由だけかもしれないが。

 どうして一緒に行くのかと、なんとなく聞いただけだった。
 シキの答えは、たまたま行く当てもなく、たまたま二人とも逃げる為に各地を歩くのが得策だった。
 だから一緒にいるのだと言っていたが、それがどうやら照れているだけだという事は、その時の真っ赤な顔を見ればすぐにわかる事だった。


 その時の事を思い出してしまい、ナノはくつくつと笑った。
 シキが振り返る。


「……なんだ、いきなり笑い出して」
「いや、別に……何でもない」
「……ふん」


 シキの背中をそっとさすると、シキは面白くなさそうに一瞥した。
 付いていた膝を伸ばしてベッドの上に寝転がり、どかしていた毛布を手繰り寄せる。


「シャワー、浴びないのか……?」
「そんなもの起きてからで良い」
「そうか」


 ナノは頷くと、シキの隣へと寝転がった。
 そしてまたシキの腰に腕を回し引き寄せたが、シキは何も言わなかった。




 行く宛てなど初めからどこにも無く。
 ただ共にいる為に。

 そんな、のんびりとした逃亡生活を送っている。





  ...end.

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ナノは自分の事、黒だって言うけれど、シキ様ルートでシキ様はナノの事を純粋な無だって言うんですよね。
もし本当にまだ無だとしたら、きっとこの二人すっごく仲良くなれるんじゃないかと…。
元々人物を見ただけでも、ナノが黒って微妙な気がしてましたし。
アキラと出会った後の、トシマ後のナノは透明だと思います。
透き通った心を持っています。
とても綺麗で、どんな色にも染まらないけど、その代わりガラスのように全てを映してくれる。
全てを受け入れて、そして優しく包んでくれるような人であればいいです。

2005.11.11
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