鼓動

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 たとえば今、この鼓動が止まったとして。
 触れ合う肌は、それをすぐに感じてくれるのだろうか。


 たとえば、とくん、といつもより大きな鼓動を打って。
 とくん、とくん、と少しずつ早くなって。
 ドクドクと、とてつもなく心臓が早く脈打つ。

 そんな時、自分の鼓動が聞こえる程に触れ合っているこの人は。


 何かを、思ってくれているのだろうか…?










「好きだ」
「………なんだよ、突然」


 文字通り唐突に投げかけられた言葉に、サスケは訝しげに眼を眇めた。

 白いベッドに沈んでいる自分を包むように覆い被り、柔らかい手付きで髪を梳いていただけのイタチ。
 二人してずっと無言だったから、脈絡も無いいきなりの言葉に、怪訝な表情を返す。

 イタチは、微かに笑うだけ。


「言いたくなっただけだ。気にするな」


 そしてすぐにまた髪を梳いてくる大きな手に、サスケはあっそと素っ気無く答えた。

 何が楽しくて、こんなふうにセックスして、こんなふうに事後のまどろみに浸っているのだろう。
 しかも相手はイタチだ、紛れもなく自分の兄だ。
 自分よりも年上なせいかムカつくくらいに落ち着いていて、静かな笑みを浮かべられるとかなり腹立たしい。

 それでもまぁ、求められれば断る理由も無かったので、いつも抱かれている。
 別にどうでも良かったので、触ってくる手を文句も言わずに受けている。
 腹立たしいが、イタチがそうしたいらしいならまぁ仕方無いと思うくらいには、この兄を嫌ってはいない。

 触れ合うぬくもりも、重なり合う鼓動も、突き入れられる熱も。
 まぁそれなりには、嫌っていない。


「サスケ、…好きだ」


 また囁かれた。
 しかも今度は耳元で言うもんだから、吐息が掛かってふるりと躰が震えてしまう。
 すぐにまた、囁かれる。


「好きだ」
「……兄さんってさ。その言葉、よく言うよな」
「お前にだけだがな」


 ふーん…と、どうでも良さそうに答えてやった。
 それでもやはり、囁いてくる。

 ちょっとばかり鬱陶しかったので、眉根を寄せつつ睨んでやった。
 漆黒の双眸に自分の姿が映ると、次には唇にキスをされる。

 触れ合って、離れて、また触れ合う。


「ん、ん……ふ」
「……サスケ」
「…何」
「また、お前の中に入りたい」


 緩く唇はくっ付いたまま、恥ずかしげもなく誘ってくる甘い声に、やはり眉根を寄せてしまう。
 自分は別に、イタチの恋人でも何でもないのだ。
 たんに熱い躰を持て余すと任務に支障をきたすから、セックスをするだけなのだが、何を勘違いしているのか。

 思わず小さく呆れた溜め息。

 その途端。


「っあ、あ……ぅっ」


 ずぬり、と熱い昂ぶりが躰の中へと押し寄せてきた。
 既に一度セックスして胎内に精液を出されていたせいか、殆ど抵抗無く、奥まで埋め込まれていく。
 腸壁をゆっくりと割り広げられていく、その感覚がわかる。
 痛みは無い。

 それでもついイタチの背に腕を回してしまったのは、許可無くいきなり入ってきたせいだ。
 顔が熱くなってきたのも、ぶるりと躰が震えてしまうのも、またどんどんと鼓動が早くなるのも。


 全部、兄さんのせいだ。















 髪を梳いてやると、サスケは気持ち良さそうに眼を細める。
 緩やかな空気に浸りながら暫くそうしていると、弟の落ち着いていた体温が、また少しずつ高くなっていくのが伝わってくる。
 そして、とくん…と少しだけ大きな鼓動を打つ。

 それを合図に、イタチはサスケに囁く。


「好きだ」


 するとサスケは、眉を寄せてほんのりと頬を赤く染めて、照れる。
 返される言葉は悪態だけれども、伝わってくる鼓動は先程よりも大きくなる。

 今度は耳元で囁いた。
 サスケはそれが凄く気持ち良いようで、先程よりも笑みを深くする。

 しかし、本人は笑っている自覚は全く無いのだろう。
 必死に何でもない装いをして、自分の心を誤魔化すように気の無い言葉を告げてくる。

 そこが、凄く可愛い。

 それに言葉にしなくとも、表情と肌と鼓動でわかる。
 特に一番素直なのは、鼓動だ。
 とくん、とくん、波打つたびに、好きだと伝えてくるのだ。

 そしてそのたびに、自分は好きだと返事を返す。
 次第に鼓動は早くなり、ここまでくるとサスケの体温はかなり上昇する。

 もの欲しそうに見つめてくる眼はしっとりと濡れていて、快楽を求め始めていた。
 だから、キスをする。

 何度か唇を触れ合わせれば、とろりと溶けた表情。
 でも、サスケはまた熱に浮かされたいのだと自分からは言わない。
 だからイタチから、言葉にする。

 この頃にはもう、伝わってくる鼓動はドクドクと高鳴っていて、既に泣きそうになって綺麗な黒い双眸には涙の膜が張る。

 ただ、この時サスケは少し哀しい顔をする。
 自分達は兄弟だからという常識を頭に浮かべ、セックスという行為に、そしてイタチの想いに後ろ向きになってしまうのだ。
 しかもそんなふうに感じるのは、イタチが余裕のある大人だからと思っている。
 いつか、自分から離れていってしまうのではないかと危惧している。

 言葉で伝えられないから。
 そのせいで、いつか。

 哀しい表情のまま、サスケは小さく息を吐いた。
 イタチはそんな危惧を塗り替えるように、サスケの胎内へとペニスを埋めていく。


「っあ、あ……ぅっ」


 既に一度入れていたからそれほど苦無く埋まっていくものの、緩やかな締め付けと熱さに、耳に心地良いサスケの喘ぎを聞きながらイタチも熱い吐息を出す。
 奥まで押し込めると、サスケはぎゅっと抱き付いてきた。
 快楽に躰を震わせ、はくはくと荒い呼吸を繰り返す。

 緩く動かせば、サスケの胎内は合わせたように蠢き、埋めたペニスを嬲ってくる。
 ぎゅっと眼を瞑り、眦からぽろりと落ちる一筋の涙に、そっと唇を寄せた。
 兄さん、と小さく呟いてくる。

 愛しいと思う。

 愛しくて、どうしようもなくて、この身が震える。

 自分よりも一回り細い躰を、優しく抱き締めた。
 そしてこの心にあるありったけの想いを込めて、甘く囁いてやる。


「サスケ。俺が求めているのは、お前だけだ」


 返されたのは、とくん、と鳴る鼓動と―――綺麗な微笑み。





  ...end.

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サスケがえらいツンデレですが、実は嬉しそうに微笑んでいると良い。

2008.12.15
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