業火

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「っ…」


 完全に避け切れなかった太刀筋は、暗部の仮面を裂いていた。
 真っ二つになり、土の上へと鈍い音を立てて落ちる。
 自分の失態に、サスケは小さく舌打ちした。

 しかし自分の素顔を見た敵達は、忍でありながら心乱し、うろたえる。


「き、貴様は、…まさか」
「うちはイタチか!?」
「いやまさか、うちはイタチは火影から離れていない筈だぞ」
「だが、眼が赤っ」


 い、とまでは言わせなかった。

 ビチャリ。

 生暖かい血が飛び散り、一瞬にして一つの肉の塊が出来る。
 手に持っていた脇差を振って、その隣にいた者もまた、同じように地面に倒れた。


「っ…き、様!」
「ふん。敵の前で隙を見せる方が悪い」


 カカカッと飛んできたクナイを全て弾き飛ばし、前方にいる敵へとサスケは脇差を薙いだ。
 ぶつかり合う金属音。
 自分の背中がガラ空きになった途端に周りの連中がいっせいに攻撃を仕掛け、だがサスケは瞬時に宙に飛んで、それを全てかわした。

 敵は約二十。
 しかも全て上忍レベルの忍である。
 自分の命が散るかどうか、瀬戸際な状況。

 だがムカつく事に、相手は自分をイタチと勘違いしている。
 この世界の忍ならば誰もが知っている、うちはイタチだと。

 人の事を未だにガキ扱いしてくる、わからず屋の兄と勘違いしているのだ。

 コイツ等を全て殺して木の葉への襲撃を防げれば、きっとあのイタチも認めてくれるはず。
 自分はもう、一人前の忍なのだと。


「死ねっ」
「お前がな」


 写輪眼をギラリと敵に向けたまま木に飛び移り、追ってきた忍へと印を組んだ。
 口元に指を運び、息を吹く。

 大きな炎の塊に直撃を受けた奴は、叫びながら地面へと落下した。
 それを見送る暇もなく、次から次へと襲いかかって来る攻撃を避け、隙を見つけて攻撃を仕掛ける。

 肉を斬る感触が手に伝わってきた。
 顔に血しぶきが飛んできて、全身もドロドロになっていた。

 幾度も剣を振るい、術を放ち、命を奪っていく。

 いつの間にか、辺りの森は火に包まれている。
 先ほどの火遁の術が葉に飛び散り、燃えていったのだろう。
 火の粉や煙が視界を遮り、熱さが徐々に躰の機能を低下させていく。

 聞こえてくる死の叫び。

 命を震わせる、戦慄。


「グッ、」


 サスケは呻きを上げた。
 長時間の戦闘のせいで疲労が蓄積され、避け切れなかった。

 背中に刺さったクナイから、どろりと自分の血が流れるのがわかる。
 しかも毒が塗られていたのか、少し視界が歪んだ。

 ヤバイな、と思いながら、それでも前方の敵へと刀を突いた。
 胴を貫通し、血を吐く。
 その血が、自分の顔に飛び散る。


「これで、半分…っ」


 絶命した男の肉体をそのまま回転させ、背後から襲ってきたカマイタチを防いだ。
 しかし躰の全てを守りきれず、腕や足に幾多もの切傷が出来ていく。
 そして次には、違う術が飛んでくる。

 サスケは死体から抜き切れなかった刀から、已む無く手を離した。
 木の枝から地面へと降りる。

 それと同時に、地面に着地し、自分を囲む敵。
 まだ十も残っている。

 けれども、サスケはぼろぼろだった。
 毒が躰を周り、立っているのがやっとである。
 吐く息は乱れ、視界もぼやけてきた。
 腕が、上がらない。

 そして、いっせいに襲い掛かってくる刃。


「っ……」


 死を覚悟した。
 自分から一人で突っ込んだ挙句の結果に、ざまぁねぇな、と微かに笑みを浮かべながら。

 兄さんと仲違いしたまま、死ぬのだ。
 せめて謝りたかったけれど、それももう不可能である。


「…にいさ」


 自分の胴へと迫る刀を、サスケはぼやける視界の中で捉えた。



 ―――突き刺さる。



 と。


 思っていた。




「……?」


 けれども、目の前に迫っていた刀が、消えた。
 それを持っていた腕と共に。

 両腕を失った忍が悲鳴を上げる。
 背後にいた敵からも呻きが聞こえ、血を噴き出して死に絶える。

 一体何が、と儘ならない状態で辺りを探ろうとして、けれども躰がよろけたその瞬間。



「サスケ」



 自分の躰を支えてくれたのは、暗部の仮面を付けた忍だった。

 重い頭を男へと引き寄せられて、視界には男の胸板があって。
 炎の燃える中でも香ってきた柔らかな匂いに、サスケは呆然としたまま呟いた。


「兄、さん……?」
「生きてくれていて良かった。すぐに、手当てしてやるからな」


 そう言いながら暗部の仮面を取った男は、紛れも無く、天才うちはイタチであった。
 写輪眼を発動させた赤い双眸が、周りの敵へと向けられる。

 彼が本当のうちはイタチだと気付いたのか、脅えを伝えてくる敵の忍達。
 放つチャクラの強大さに、身内であるサスケでさえも慄いてしまう。


 兄さんが、怒っている。


「大事な弟を傷付けた罪は、その命で償ってもらう」


 抑揚の無い、静かな声。
 不敵に微かな笑みを浮かべる兄は、自分を支えたまま、片手で印を組む。


 そしてサスケが一つ瞬きをした、その時には。



 残っていた敵は全て、巨大な炎の渦に飲み込まれていた。





  ...end.

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暗部なイタサス。
戦闘シーンが書きたかっただけなので、その他の設定はあまり考えていません。

2009.02.19
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