事実は小説より奇なり  
サンプル

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 最後の一ページを読み終え、ふぅと息を吐く。
 ハッピーエンドの、良い作品だった。

 本を閉じ、表紙を改めて確認する。
 うん、キッドと名探偵が見つめ合っちまってる絵だ。
 いやぁ、物語の中の名探偵は、優しくて良いね!

 今読んでいたのは、同人誌というやつである。
 しかも腐女子と言われる方々が手掛けているので、内容はキッドと名探偵が恋愛したり、セックスするものだ。

 どうしてこんな本が存在するのか。
 それは名探偵が元の姿に戻ってからというものの、執拗に俺を追いかけてくるようになったからだろう。

 そしてメディアにもよく取り上げられるようになった。
 探偵VS怪盗だなんて煽り文句付けられて、ビルの上で対峙している映像を流された日には、視聴率ぐんとアップ、ネットでも大盛り上がりだ。

 人が亡くなるような重い事件でもないので、エンターテイメントとして気軽に楽しめる。
 怪盗と探偵なんて、昔から物語の題材にもなっているしな。

 だからこそ怪盗好きと探偵好きによって、どちらがより優れているか毎日のように議論されている傍ら、このような本が生まれたのだろう。

 ちなみに俺達の同人誌を見つけたのは、たまたまだ。
 俺と名探偵のどちらが人気なのか調べていたら、どっちが受けだ攻めだという論争ページに辿り着いて。
 受け攻めってなんぞやと調べたら、ホモの話だった。

 で、まさかと思いつつも俺と名探偵の作品もあるのか調べてみたら、本当にあったと。

 もちろん驚いたけど、ストーリーの中で俺がホモにされようが変態にされようがアホにされようが、フィクションだと割り切れるので嫌ではない。

 むしろ、本の世界は良い。
 だって名探偵が優しいし、可愛かったりちょろかったりもするのだ。
 まぁ非道すぎるものも稀にあるが、そういうのはなるべく避けている。
 ともかく現実よりもおおらかだ。

 現実なんて、いつも全力で追い掛けられているせいで、毎回毎回宝石を確認するだけなのに死にそうになるからな。
 容赦無いぜ!
 もうちょっと、せめて生命の危機が無いくらいには優しくしてほしい……。

 そんなわけで、女性達が描く物語の世界に夢中になっているのだが。
 勘違いされたら困るから言い訳しておくけど、アイツがこんくらいチョロかったら良いなぁという願望を満たす為であって、アイツを抱きたいとか抱かれたいとかは、これっぽっちも思ってないからな!

 そりゃあピチピチの高校生なので、性にも興味深々だけど。
 同人誌でケツにチンコ突っ込まれて気持ち良さそうに喘いでいるのを見て、本当に気持ち良いか気になり、自分のアナルを触わるようになっちまったけど。
 ついでに何かを入れてみたくてアナルプラグ買って、それを入れながら同人誌読んでるけど。

 でも普段俺らが読むような普通のエロ本やAVでチンコ弄って射精するのと同じであって、決して名探偵が好きというわけではない。

 ちなみに俺が抱かれる作品と名探偵が抱かれる作品の、両方がある。
 どちらも同じくらいの量だと思われるけれど、詳しくはわからない。
 現実に存在している人間を題材にしているので、彼女達は、漫画や小説の二次創作を扱う人達以上に隠れて活動しているのだ。

 それでも探せば、こうして通販で買えるのはありがたい。
 母さん名義で注文しているので、年齢も誤魔化せるしな。
 あ、良い子は真似しちゃダメだぜ☆







 あーくそ。
 今夜も散々な目に合った。

 宝石を手に取った瞬間、サッカーボール蹴ってくるのは、まぁ許そう。
 でも近くの柱を壊す威力にするのは、ホント止めて。
 当たったら死んじまうから!
 頬をかすって冷や汗ダラダラ出たし、倒れてくる柱避けたら、その先に麻酔銃撃ってくるし。
 容赦無さすぎで泣けるぜ。

 それに中森警部も相変わらずしつこいし。
 宝石を確認するだけなんだから、なるべく楽してぇんだけどなぁ。
 予告状を出すのは、パンドラを狙う連中をおびき寄せる為であって、警察と張り合う為ではないのだ。

 せめてもう少し、名探偵が優しくなれば。


「ふふっ、私を怒らせましたね名探偵。どうやらあの方法を実行するしかないようです」


 格好付けながらも満身創痍で家に帰った、次の日。
 名探偵が不在の放課後を狙い、彼の部屋に侵入した。
 アイツは高校生に戻ってからというものの、殺人事件が起こるたびに警察に呼ばれるのか、帰りが遅いようだ。
 だから鍵さえ開けちまえば、やりたい放題である。

 さっそく名探偵の部屋のデスクに、同人誌を二冊置いた。
 名探偵が攻めてる薄い漫画と、キッドが攻めてる薄い漫画の二冊。
 どちらもエロだ。

 俺が抱かれる方は、名探偵に後ろから突っ込まれてボロボロ泣いて喘ぎまくっているけど、名探偵のセリフや手つきが優しいんだよな。
 逆の本はとにかく、キッドがイケメンで最高です!

 あ、もちろん作者のお姉さん方に迷惑が掛からないよう、キッドカードも付けておく。


『私からの差し入れです。あくまでも私から貴方への嫌がらせであって、作者の女性達は私達に好意を持ち、隠れて作品を作られております。ですので奥付けのアドレスに、工藤新一本人から何かしらのメッセージなど送らないように。絶対に、ですよ』


 これで完全に、俺のイタズラだと判断出来るだろう。

 さてはて、どんな反応をしてくれるか。
 ちょっとでも優しくなってくれりゃあ良いが。
 まぁ理想なのは、俺に抱かれたり抱いたりを想像されるのに嫌気がさして、キッドの現場に来なくなる事だけど!

 気になったので、次の日の放課後も名探偵の部屋に勝手にお邪魔した。
 本の中身、チラッとでも見たかな。腹が立ったからって捨ててねぇだろうな?

 そのまま捨てられているだけなら拾えば良いが、破かれてたらどうしようもない。

 しかし確認したら、本は二冊ともデスクの上に置かれていた。
 位置も変わっているので、これの存在は認識したようだ。
 読んだかはわかんねぇけど。

 一応今日も二冊持ってきていたので、昨日と同様デスクに置いておく。
 今回はどちらも、絵柄が可愛い系である。
 そしてやはりエッチぃ。


『昨日の本はいかがでしたか? 貴方も私も気持ち良さそうでしたでしょう? 特に貴方が優しく描かれているので、好きなんですよね。今日のはどちらとも可愛らしい内容で、オススメです。』


 というキッドカードも添えておく。
 これなら興味を惹かれて、中身も読むんじゃねぇかな。

 そして次の日。
 またもや彼の部屋に侵入した。
 今日は二冊とも、五十ページ近い小説だ。
 世間でのキッドは正体不明なので、同人誌では様々な設定がある。

 俺が抱かれる方のは、正体は隠しているけど実は名探偵と同じ学校に通うクラスメイトという設定だ。
 内容はコメディで、エッチ描写も軽め。

 抱く方のは、俺が二十代後半の大人で、ものすごく格好良く表現されている。
 俺本人とあまりにも掛け離れていて完全に別人にしか感じないが、ストーリーはとてもよく練られていて面白かった。
 そして名探偵がウブで可愛かったから、ぜひとも読んでほしい。

 そう思ったんだけど。
 今日はなんと、名探偵のデスクに置き手紙があって。


『俺がオメーを抱くのだけ置いていけ。あと抱かれるのはいらねぇから、二冊とも持って帰れ。』


 と書かれており、紙の下には名探偵が抱かれる本のみ置かれていた。
 うーん、気に入らなかったか。

 ちなみに俺が抱かれる本は、なんとベッドヘッドに置かれていた。
 寝ながら読んだんだろうか。
 もしかしてオカズに使った、とか?
 絵柄や話の流れは違えど、ぶっちゃけどちらもキッドが名探偵に突っ込まれて、あんあん喘いでいる漫画なんだけど。

 名探偵が、キッドをオカズに?
 うーん、いつも俺を殺そうとしているんじゃねぇかってくらい容赦無いアイツがねぇ。
 俺を監獄にぶちこむ事しか考えていないイメージだから違和感ありまくりだが、まぁ俺も一人エッチに使っているので、納得はしておこう。

 読んだ事で意識が変わったのかもしれないしな。
 このまま俺に優しくなってくれたら万々歳だ。

 とりあえず彼の要望通り、俺が抱かれるのだけ置いて、逆のは持ち帰った。
 まさかメッセージがあると思わなかったので、キッドカードも置けずじまいだ。
 明日また、カードを置きにこよう。


『私が貴方を抱くのはお気に召さなかったようで、残念です。ですが私が抱かれる本にも、素敵な物語はたくさんありますからね。私についても様々な設定があって、面白いでしょう?』


 次の日からは俺が抱かれるのだけ持ってきた。
 代わりに漫画と小説で二冊だ。

 漫画はシリアスで、キスまでしかしていないけれど、キッドの名探偵に対する愛情がすごく伝わってくる作品である。
 小説は百ページ以上のもので、読むだけでもだいぶ時間が掛かるだろう。
 しかも基本はほのぼのコメディ、時々笑いあり、緊迫した戦闘シーンあり、エッチも三回ありという大ボリュームのものである。

 物足りないとすれば、もう少しキッドじゃない俺を格好良く表現してほしいというところ。
 キッドじゃなくなった途端、ヘタレにはならねぇから。
 まぁ名前からして違うので、結局は別人なんだけど。





  以下オフ本にて。



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2017.10.08発行
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