これも戦略です  
サンプル

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   1.


 裏世界。
 それは一般人が普通に生活しているだけでは、絶対に踏み入れる事の無い世界である。

 横領や脱税、その他さまざまな理由で金や暴力が絡む、政治やヤクザの世界。
 大金を賭けて勝負し、時として人の命さえも賭けるギャンブル世界。
 人体実験や殺人を繰り返す裏組織。暗殺を仕事とする者達。

 そして何千万、何億もする宝を盗む怪盗もまた、裏世界の一つと言えよう。
 俺は二ヶ月前に目的を遂げたので、そのまま足を洗ったけれど。


「なるほど。つまりソイツに変装して、向こうが提示してくるギャンブルで勝てば良いわけね」
「はい、そうなります。すみません、快斗ぼっちゃま」


 寺井ちゃんが、すまなそうに頭を下げてくる。

 彼の友人の孫がギャンブルで大敗し、五千万の借金を背負った。
 しかも今度負ければ、殺して臓器を売ると脅されているくらいに、ヤバい状況に陥っていると。

 自分からギャンブルに手を出した男なら自業自得だと見放してやりたい話だが、しかし実際は裏世界の人間に嵌められたらしい。
 今しがた聞いたばかりで自分で確認していないから、事実かはわからない。

 しかし実際にいるのだ。
 自分にはどうしようも出来ない不幸に見舞われ、命を奪われる人間は。
 俺のように圧倒的不利な状況を回避し、自分に有利な状況へと覆せるのは、限られているとも理解している。


「寺井ちゃんが持ってきた相談を無下には出来ねぇからな。良いぜ、引き受けるよ」
「ありがとうございます、ぼっちゃま!」


 そんなわけで孫の容姿や性格を調べたが、見た目ふっくらしていて性格もおおらかで、つまり隙だらけでカモにしやすい人物だった。
 しかも彼が赤子の頃に、寺井ちゃんが抱っこした事もあるとか。

 そりゃあ俺に助けを求めるわけだ。




 約束の日。
 時刻は深夜0時。
 俺は変装し、都会の喧騒から少し離れた場所に建つビルに赴いた。
 もちろん恐怖でオドオドした演技をしながら。

 グラサンを掛けた黒服達からの低い声に肩を揺らし、逃げないように両側を守る男達に震えながら、エレベーターに乗る。
 目的の階は、地下十階。

 エレベーターから降りた瞬間、世界が変わったと感じられた。
 ここは金持ち達が暇潰しに集まる場所であり、先を進めば自分は確実に金で命を弄ばれ、たとえ死んでも嘲笑を引き起こすだけの余興にしかならない。
 そんな緊張と愉悦に満ちた空気だ。

 裏世界においては金を持たない事こそが悪であり、優劣も所持する金額によって決まる。
 今の俺は所持金0なので、ここにおいては最悪だ。

 それがどうしようもなく愉快にさせるのは、俺自身のみの力で全てを覆せるとわかっているからだ。
 だってそうだろう?
 どんな勝負であれ、この黒羽快斗様が負けるわけがないのだから。

 黒服達に囲まれて歩かされ、震える足を必死に動かしているよう装う。
 静まり返っている廊下。
 しばらくして男達が止まったのは、仰々しい扉の前だった。

 これから扉の向こうで行われるギャンブルがどんなものなのか、対戦相手はどんな人間なのか。
 それらに関しての情報は何も得られていない。

 だがどんな勝負であれ、扉の先に待つのは、生か死かだ。
 勝った瞬間の喜び、負けた瞬間の命が消えるという絶望。
 それらから得る感情の大きな起伏が、裏世界を生きるギャンブラー達を魅了するのかもしれない。

 理解は出来る。
 俺も裏世界を駆け抜けた人間だから。
 警察から追われるだけではなく、銃口を向けられたり爆発に巻き込まれたりと、命が危ぶまれた事が何度もある。
 生死を分けるほどの窮地に陥った瞬間の緊迫感は、確かに生きていると感じていたかもしれない。

 それでも魅了はされなかった。
 俺がもっとも生きていると感じるのは、マジックが成功して、見てくれた人達が驚いたり喜んでくれる瞬間だから。

 だというのに、今は血が沸騰するようだ。

 何故か?
 扉の向こうに、アイツがいる。
 あの強烈な輝きを持つ男の気配が、わかるから。

 ギギギィと重い音を立てて、扉が開かれる。
 その瞬間から、視線は一人の男に釘付けになる。

 豪華なシャンデリアのぶら下がった広い空間、その隅にあるソファに座っている青年。
 他にも数名はこの空間にいるにも関わらず、彼だけに目を奪われる。

 髪は金髪。
 しかも顔も違う。
 それでも俺にはわかる。
 アイツが――工藤新一だと。

 本人は隠しているつもりなのかもしれないし、確かに周囲の人間は気付いていない。
 だが俺はわかってしまう。
 不本意ながら、な。


「さて、これで四人集まったな」


 室内にいる一人の男が、時計を見ながら声を発した。
 中年のオッサンだ。
 この催しの責任者か、もしくはコイツが金にものを言わせて人を殺そうとしている本人か。
 どちらにしろ、それなりの地位の者がこの場を仕切っていても可笑しくはない。


「君達には、そこに用意してある席に座り、麻雀をやってもらう。一位になった者の命は保証しよう。借金もチャラだ。しかし他の三人には、ここで死んでもらう」
「そ、そんなっ!」


 声を上げたのは、名探偵の近くにいた男。
 俺はまだ扉近くにいるし、とりあえず狼狽えておく。


「なるほど? つまり生きたければ、他の三人を殺せという事か。もし自分が生き残っても、三人の人間を殺したという業を背負えと」


 うわ名探偵、正体隠す気あるのかよ。
 めっちゃ喧嘩売ってるじゃねぇか。
 周囲の気配がザワッとしたし、主催者は嘲笑いながら名探偵を睨むし。

 もう一人の対戦者らしき人物は、壁に寄りかかって腕を組んでいる。
 茶髪で眼鏡を掛けているし、記憶にある男だ。
 つまり名探偵の仲間だな。
 潜入捜査中なんだろう。
 そうなると彼の傍にいる男も、仲間かもしれない。

 どちらにしろ名探偵がここにいるのだから、FBIか警察が動いているのは事実。
 今は犯罪についての証拠集めと、集まっている者達を一人も逃がさないよう包囲している最中ってところか。

 改めて部屋を見渡した。
 自分が入ってきた側以外の壁は、黒いガラスで覆われている。
 向こう側に、金を持った観客達がいるのか。
 かなりの人数の気配がしているし。
 そして誰が生き残るのか、賭けをしていると。
 あと少しで全員捕まると思うと滑稽だな。

 中央には麻雀卓。
 なるほど四人必要なギャンブルだ。

 黒服に背中を押され、無理矢理椅子に座らされる。
 卓は昔ながらの手動。
 イカサマし放題か。

 良いな、実に良い。
 俺はマジシャンだ。
 マジシャンらしく、トリックや頭脳を駆使して、名探偵に勝負を挑んでやろうじゃないか。

 その名探偵は、俺の対面に座った。
 そして卓を挟んだ向こうから、俺を見つめてくる。
 全てを見透かされそうなほど透き通った眼球は、相変わらず清廉潔白で、それでいてとてつもなく強く鋭い。

 ここはすでに名探偵の戦略の支配圏内。
 だが俺は全力で勝ちにいく。
 なぁゾクゾクするだろう?
 互いの命を賭けるほどの、戦いが出来るなんて。

 ニヤリと笑ってみせると、彼もまた笑みを浮かべた。


「――オメーには、絶対に負けねぇよ」


 ああ。
 とても楽しい夜になる。




中略




「……ん、ぅん……?」


 頬を撫でられる感触がした。
 額に掛かる髪を梳かれ、頭を撫でられ、そしてまた頬へ。
 瞼を開けると、名探偵と目が合った。
 まだ慣れていない高校生の姿。
 だが彼の双眸は、小さい時と変わらず美しい。

 まだ眠いままぼんやり見つめていると、彼は微笑み、顔を近づけてきた。
 再び瞼を閉じれば、ふわりと唇が触れる。
 柔らかく、しっとりした感触。

 触れるだけのキスを受け止めていると、ちゅっと軽く吸われてから離れた。
 そして瞼や眦、頬へも落とされていく。
 ちゅ、ちゅ、といくつも降ってくる、優しい口付け。


「……キッド、キッド」


 名前を呼ばれる。
 何度も何度も、確かめるように紡がれる。
 甘い声から、愛おしいと伝わってくる。

 鼻先がくっつき、再び唇を塞がれた。
 今度は深く合わせられる。
 ちろりと舌先を舐められ、艶めかしい感触と味に小さく震えた。
 絡められ、触れ合うところから痺れるような快感が広がっていく。


「ん……んん、ぅ、ん……ぁ、ふ……んむ」


 絡められ嬲られるたび、くちくち唾液の混ざる音が鳴った。
 溜まっていくので飲んだら、小さく笑われる。
 とにかく気持ち良くて、ヒクヒク震えてしまう。

 下唇を柔くはまれ、ちゅっと音を立てて離れた。
 いつの間にか顎に伝っていた唾液を舐められ、彼の唇はそのまま首筋へと辿っていく。

 首筋に顔を埋められキスされながら、しっとりした掌で腹を撫でられ、そのまま下着の中に入ってきた。
 そして直にチンコを触ってくる。
 ふにふにと緩く揉まれる。


「キッドのペニス、ぴんって勃ってる。朝勃ち可愛いな」
「あ、ん……ん、……んぁ……」
「感じてる声も可愛い。寝ぼけながら、蕩けている顔も。キッドすげぇ可愛い」


 そんなに可愛い可愛い連呼されると、気恥ずかしいんだけど。
 でも惚れた相手が可愛く見えるのは俺も同じなので、素直に受け取っておく。


「そろそろ起きてくれねぇと、このまま最後までヤっちまいそう。ローションねぇから舐めまくって良い?」
「別に……いや、とりあえず起きる」


 舐めても構わないと言いそうになったが、ローションを使うとしたらケツ穴だよな? と思い至った結果、彼の肩を押してベッドから躰を起こした。
 おい舌打ちすんな。


「おはよう名探偵」
「おう、おはようキッド。……オメーとこうして朝の挨拶を交わすなんて、感慨深いな」
「なんやかんや夜を一緒に過ごす事はあったけど、一緒のベッドで寝た事は無かったしなぁ。そうだ、もうキッドじゃねぇから、黒羽か快斗って呼べよ」
「じゃあ快斗で。しばらくはキッドって呼んじまうだろうけど、そのうち慣れていくだろ。ああ折角だから、俺の事も名前で呼んでくれ」
「名探偵のままでも良い気するけど。まぁOK、新一な。うーん、俺も慣れるまで時間掛かりそうだ」


 なんて言葉を交わしながら、階段を下りる。

 トイレに行って、歯を磨き顔を洗って。
 眠った時間が遅かったからかもう昼過ぎなので、昼飯を食べた。
 ちなみに7分茹でるだけのパスタに、市販のパスタソースを掛けただけの簡単な飯である。

 冷蔵庫にもっと食材が入っていれば手の込んだもんを作ったんだけど、冷凍食品以外無かった。
 名探偵は料理苦手だもんな。
 基本外食なんだろう。

 ただどれだけ簡単な料理でも、俺がキッチンに立つだけで感動するし、嬉しそうに食ってくれた。

 さて、飯を食って一息ついたわけだが。
 ソファに座ったとたん横から腕が伸びてきて、背後から抱き締められた。
 逃げるつもりは無いんだけど?

 そのままうなじに唇を押し付けられ、脇腹から服の中に手を入れられて、くすぐったさに身悶えてしまう。
 しかも未だパジャマのままなので簡単にズボンの中に手が入ってきて、再び直にチンコを揉まれた。


「ふぁ……ん、……ぁん……」


 ふにふに、ふにふに。
 優しく丁寧に揉まれるのが気持ち良くて、あっという間に勃起してしまう。


「快斗のペニス、俺のより小さい。可愛いな。いっぱい舐めてぇ。それにここも。俺のでトロトロにしたい」


 下腹部を掌で覆われ、はふと吐息が漏れる。


「キッド。ここを、俺のでいっぱいにして良い?」


 今のは確実にわざとキッド呼びしやがった。
 けれどそのせいで、撫でられている下腹部がヒクリと疼いてしまう。
 揉まれているチンコからも蜜が零れる。


「ここに俺のが入って、ゆっくり掻き混ぜて……いっぱい気持ち良くなれると想像したら、きゅうってならないか? 俺のペニスが欲しくならない?」





  以下オフ本にて。



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2018.12.29発行
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