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心の声が聞こえる
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1.
正直に言おう、世の中には不思議なものがたくさんあるのだと。
常人ならばありえないと思うだろうが、しかし何故か俺はそういうものと縁がある。
まず近くに魔女がいて、箒で空を飛んだり雷を落としたりする。
ライバルの名探偵は、薬の作用でガキになっていた。
今はもう元の姿に戻っているけれど。
ついでに彼が使っている阿笠博士の発明品も、どれもこれもありえねぇだろ! と突っ込みたくなるような性能のものばかりだ。
それを使いこなす名探偵も、やっぱり常人の括りじゃねぇな。
ちなみに俺自身も、それなりに常人を逸脱している存在だと、ちゃんと認識している。
だって俺だし。
むしろそうでなきゃ、キッドなんて出来ねぇよ。
あ、少し話が逸れちまったな。
つまり何が言いたかったかというと、そんだけ不思議なもので溢れているんだから、IQ400ある俺が不思議なものを作っちまっても可笑しくないよな、という話だ。
そんなわけで、作ったのはこれだ! イヤホンだ!
もちろん、ただのイヤホンではない。
俺の姿を見ている状態で俺に対して何かしらの強い想いを向けると、その声が聞こえてくるという代物だ。
試しに右耳に付けて、学校に行ってみた。
残念ながらほとんど聞こえなかったがな。
『黒羽君が好き』とか『凄く格好良い!』とか考えてる女子が一人くらいいるかもと思ったが、いなかったぜ……。
もちろん失敗作ではないので、聞こえてきた声もちゃんとあった。
紅子の『今日こそ虜にしてあげるわ!』というのと、白馬の『今夜はキッドの犯行日だね……今夜こそ僕が捕まえてみせる!』という内容だ。
コイツら普段の言動と内情に大差ねぇな。
授業中に唐突にマジックした時は、さすがに大勢の声が聞こえてきた。
『黒羽すげぇ!』とか『さすがは黒羽だぜ!』という声と、青子の『また快斗は!』という怒った声。
ついでに本人からも言われた。
やっぱ大抵は、口からの声と内情って同じなんだな。
そんなわけで夜になり、キッドの犯行時間になった。
日常ではあまり役に立たない発明品だが、犯行時にはとても役立つ代物だ。
何故なら俺が姿を見せた途端、警備の緊張感が高まり、宝石を奪われてなるものかという声がいくつも聞こえてくるから。
特に中森警部の声は、筒抜けだ。
俺への罵声と一緒に、宝石がどこに置かれているのかとか警備がどう配置されているのかという情報が、いくつも流れてくる。
まぁ罵声が多すぎて頭が痛ぇけど。
そんなわけで、あっという間に宝石を奪った。
さすがは俺。
今日もなんなく宝石をゲットだぜ!
「くそ、キッドめぇ! 追え、追うんだ!」
悪いな中森警部。
ついでに白馬と、それから。
『あー、今日もエロい躰してんなぁ。あの細い腰掴んでケツにチンコ突っ込んで、何度も突いて喘がせてぇ』
……はぁ!?
え、ちょっ、今のなんだよ!
い、いや、今はとにかく逃げねぇと。
いつも通り煙幕を張ってからダミーをいくつか飛ばし、警官の間を掻い潜って俺自身もハンググライダーを広げた。
ダミーとは違う方へ飛べば、追っ手を振り切れる。
と思いきや、当然のように追い掛けてくる影が一つ。
いつもながら卑怯だろ、あのスケボー。
名探偵、工藤新一。
一ヶ月前に元の姿に戻った彼は、江戸川コナンだった時よりも執拗に、俺を追い掛けてくるようになった。
暇人かよ。
まぁでも最近のアイツは警察と別行動が多いし、前にビルの屋上で二人きりで対峙した時も、少し会話して宝石を返したら名探偵の方から去っていった。
何がしてぇんだろうな、と。
今まではわからなかったが。
とりあえず人気の無いビルの屋上に下り、盗んだ宝石を月に翳す。
しかし変化は無い。
これもハズレか。
さて、名探偵は来るだろうか。
数分ほどその場に佇んで待っていると、ガチャリと屋上のドアが開いた。
屋上って普通は鍵が掛かっているはずなんだが、どうやって開けているんだか。
最近名探偵の行動が犯罪者じみてきて……いや、コナンの頃から犯罪予備軍だったな。
麻酔銃ぶっ放しまくっていたし、人の家に不法侵入とかもしていた。
まぁ完全に犯罪者である俺に、指摘されたくないか。
「こんばんは名探偵。相変わらずの執念ですね」
「そりゃオメーが怪盗キッドだからな」
近づいてきた彼に声を掛けると、彼はニヤリと楽しげな笑みを向けてくる。
今までは、余裕かました格好付け野郎と思うだけだったんだが。
『あー今すぐ無理矢理犯して、泣かしてぇ。どんな泣き顔晒してくれんのかな。きっと可愛いんだろうなぁ』
やっぱりオメーかよ! と。
声に出して突っ込まなかった自分を褒めてほしい。
まさかコイツが、男である俺を犯したいと考えるような変態だったなんてなぁ。
すげぇ驚いたぜ。
ポーカーフェイスをどうにか保ち、持っていた宝石を名探偵に投げる。
彼は難なくキャッチすると、先程俺がしたようにそれを月に翳した。
宝石に意識が行っているようで、卑猥な声は聞こえてこない。
彼は数秒ほどで手を下ろし、再び俺へと目を向けてくる。
「キッド、オメーは何を探している?」
「俺が答えると思ってんのか?」
「答えてほしいとは思ってる。あといい加減俺に捕まれ」
『んでもってドロドロにして、もう許してって泣いて懇願してくるくらいに抱きまくりてぇ』
おい、いろいろ駄々漏れだぞ。
そんな事を考えている変態に、捕まるわけねぇだろ!
「じゃあな名探偵。それ、警察に返しておいてくれよ」
返事を聞く前に屋上から飛び降り、再びハンググライダーを広げ、空を飛ぶ。
このイヤホンは、しばらく使うのを止めようと心に誓った。
あれから数回キッドとなり、名探偵とも遭遇した。
しかも心に誓ったはずなのに、キッドになるたびに開発したイヤホンを耳に付けている。
だって、せっかくの発明品だしさ。
宝石確保が楽になるのは確かだから、使わねぇと勿体無くて。
それとちょっと、気になったっていうか……なんで名探偵は、俺を犯したいなんて考えているんだろうな?
元々男もイケる奴だったのか、それとも俺だからか。
もし俺だからという理由だとしても、その根拠となる感情はわからない。
キッドだから屈服させたいのかもしれないし、も、もしかしたら、好きだから、なんて理由かもしれないわけで。
やばい、ドキドキしてきた。
などと浮ついた事を考えていたせいだろうか、それともたまたまだろうか。
空を飛んでいたら突如ブワッと強風が吹いてきて、ハンググライダーが煽られてしまった。
「う、うわぁぁああっ!」
落ちる、落ちる!
夜中だから、落下しても姿を見られる事は無いだろうけれど、確実に痛い!
なんとか体勢を整えようとしたけれど、それよりも地面へ到達する方が早かった。
ギュッと目を瞑り、衝撃に耐えようと躰を強ばらせ。
しかし地面に激突する事はなかった。
「……はぁ、危ねぇ。おいキッド、大丈夫か?」
「はぇ? め、名探偵……?」
なんと追ってきていたらしい名探偵に、キャッチされていた。
ついでにお姫様抱っこである。
何この状況。
『大丈夫そうだな。良かった、無事で』
あ、今の俺、絶対顔赤い。
熱が上がってきた。
なんでコイツ、ここぞという時にこんな格好良い事しちまうわけ?
普段俺に対して卑猥な事ばっか考えてるくせに!
彼は俺を抱えたままスケボーを走らせ、近くの路地裏で下ろしてくれた。
これまた意外だ。
そのまま家までお持ち帰りされるかと思ったのに。
「……まさか、名探偵に助けられるとは思わなかったぜ。まぁ、一応礼は言っておく」
「一応って……素直じゃねぇな」
『そんな一面があるなんて、可愛いな』
おい、可愛いってなんだ可愛いって!
オメーと俺の素顔、そっくりなんだぞ!?
俺が可愛かったら、オメーまで可愛くなっちまうんだぞ!
いや、中身の話だってのはわかってるけど。
ああもう、声に出して反論出来ないのがつらい。
……でも、助けてもらったのは事実だからな。
「このまま借りを作るのはイヤだから、何かしてほしい事ねぇか。もちろん俺に出来る範囲でだけど」
抱かせてくれって言われそうだなぁと思いつつも提案すると、名探偵はパチパチ目を瞬かせたあと、視線をあちこちに彷徨わせた。
迷いというのは自分に向ける感情の方が大きいからか、俺に関する事柄を考えていたとしても、心の声は聞こえてこない。
「え……と。じゃあ今度、一緒にどこか遊びに行こうぜ。一度普段のオメーと会ってみてぇから。あ、もちろん捕まえる為じゃねぇぞ。名前も名乗らなくて良いからな。信じて、もらえねぇかもしれねぇけど」
な、なんだと。
抱かせてくれ、じゃないなんて!
だんだん声が小さくなっていく名探偵の様子に、いたく感動してしまった。
普段は、事件の為とはいえ犯罪紛いな行動をよく取っているし、俺を犯したいなんて考えてるのに、ちゃんと常識も持っていたんだな。
あと意外とウブで、うっかりトキメいてしまった。
『本当はオメーとデートしてぇなんて、言えねぇよ』
そうだよな、それはなかなか言えないよなぁ。
……でででデート!?
これデートの誘いなのか!
う、うわどうしよう。
またもや顔が熱くなってきた。
「あああの、その、えっと……でしたら明後日の土曜日は、どうでしょうか……」
「あ、ああ良いぜ、土曜日な」
『――しかもなんか照れてるし。すげぇ可愛い』
彼の発した言葉と微妙に繋がっていない心の声だったが、たぶん『しかも』の前は、俺が了承してくれて嬉しいみたいな事を思ったのだろう。
オメーだって、照れていて可愛くなってるぞ!
以下オフ本にて。
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2016.08.12発行
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