チョコレートのように甘く  
サンプル

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 明日はバレンタインデー。
 女性達が好きな男にチョコレートを渡す日になっているが、それは日本のみ。
 海外では男から好きな相手に薔薇やプレゼントを贈る。
 というのを、最近になって学んだ。

 ということで、俺も好きな相手に薔薇を渡すことにした。
 え、誰が好きかって?
 それはもちろん……愛しの名探偵、江戸川コナン!

 ちっちゃくされても必死に足掻いて、頑張っているところとか。
 俺を見てニヤリと不敵に笑う表情とか。
 敵意剥き出しで追い掛けてこられるとゾクゾクするし、なのに抜けている部分もあって。

 ホント可愛いよなぁ。
 そんな一生懸命な姿を見ていたら、うっかり惚れてしまっても仕方無いだろう。

 ちなみに怪盗キッドとして、名探偵の服を無理矢理剥がして、嫌がる様子を観察しながら、ちっちゃいおちんちんを舐めたいくらい好きです。


「「キッド離せ……っ」とか「ふざけんなキッド!」とか。涙目で睨みながらも、気持ち良さそうに喘がれたら、それだけで鼻血出そうだぜ」


 もちろん名探偵のセリフは、彼の声色で言っている。
 変態な自覚はあるけど、いつも俺をギリギリまで追い詰めてくる名探偵が悪い。妄想の中でくらい、弱い姿を晒してくれても良いじゃん!

 あ、実際にそんなことをやろうとは思ってないからな?
 あくまでも妄想だ。
 親父から受け継いだ怪盗紳士を穢すなんて、絶対しないから。
 そもそも現実の名探偵は、確実に返り討ちしてくるし。

 ただ中身は青春真っ盛りな男子高校生なんで、ちょっとエッチな妄想するくらい許してほしい。

 はぁ、まさかこの俺が男を、しかもあんな生意気な子供を好きになるなんて、キッドになる前は想像もしていなかったな。
 まぁ中身は高校生だけど。
 むしろそうでなければ、惚れなかったけど。

 彼を好きだと認識してから、それなりにアプローチはしている。
 目が合った時は投げキッスしたり、追われながらも「好きです名探偵!」と告白したり。

 だからプレゼントだって、呆れながらも受け取ってくれるはず。
 キッドっぽく青薔薇の花束を予約したので、明日の午後には買いにいく予定だ。





 翌日、バレンタインデー。
 時刻は夜八時。
 キッドとなり、名探偵を呼び出した場所へ飛んでいく。
 ちゃんと来てくれているだろうか。

 手紙は数日前、小学校の彼の下駄箱に入れた。
 かなり難しめの暗号にしたから、アイツの性格上、合っているかどうか答え合わせに来ると思う。

 誰からの手紙かわからないと困ると思ってキッドマークは描いておいたけど、私用とも明記しておいたから、警察を呼んでくるなんて無粋はしないはず。

 ドキドキしつつ、目的地へ到着。
 うーん、まだ来ていないみたいだ。
 時刻ちょうどなんだけど。
 もしかして暗号が難しすぎて解けなかった?
 それともキッドからだからと、無視されたかもしれない。

 もし無視されたなら、悲しいなぁ。
 俺なりにアプローチを頑張ってきたし、時々は良い雰囲気になり、二人で月を見ながら話した時もあったんだけど。

 寒い中、ビルの屋上から、眼下に広がる綺麗な夜景を眺める。
 とりあえず一時間は待とう。

 けれどすぐに、走ってくる足音が聞こえてきた。
 一つだけだ。
 ああ、名探偵が来てくれた。

 嬉しくて笑顔が零れそうになり、それでも怪盗キッドらしく優雅に背後を振り向く。
 しかしそこにいたのは、名探偵ではなかった。
 いや、名探偵なんだけど。


「あの、どういうことでしょう?」


 思わず敬語になってしまった。
 だって、江戸川コナンじゃないんだもん!
 工藤新一なんだもん!

 俺と同じ身長になってしまった彼は、走ってきたらしく汗を掻いていた。
 それを拭い、はぁと息を吐いたあと、改めて俺を見返してくる。


「悪いなキッド、遅くなって。タクシーを使ったんだけど、渋滞に捕まっちまったから、途中で降りて走ってきた」
「それはご苦労様です。……ではなくて」
「ああ、この姿な。最近になってようやく解毒剤が出来て、こうして元に戻れたんだよ。驚いたか?」


 驚いた。
 確かに驚いたけれど、それよりも。


「うわーん! 私の可愛い名探偵を返してください!」
「あ? 俺がその名探偵だろうが」

 悲しくて叫んだら、彼は地を這うような声で反論してきた。
 しかも射殺さんばかりに睨んでくる。
 ううぅ、わかってるけどさぁ。

 でも俺は小さくて生意気な名探偵が好きなのであって、元に戻ったら可愛さなんて皆無じゃん!
 単なるイケメン野郎じゃん!
 俺にソックリで!


「それで、俺に渡したいものがあるんだろ? 今日はバレンタインデーだもんな。今日いきなり高校行ったにもかかわらず、何人からもチョコ貰ったし。つうかその薔薇の花束がプレゼントか。良いな、青薔薇っていうのも。ほら、受け取ってやるから早く寄越せ」


 尊大な態度で手を出してくる名探偵。

 俺がバレンタインプレゼントとして用意したと疑っていないのは、今までのアプローチが実を結んだようで嬉しい。
 それに俺から渡すのが当然と思っている生意気さは、変わっていない。
 でも、それでも。


「……貴方には渡しません。私が好きだったのは、江戸川コナンである名探偵だったんですから」


 もう過去形である。
 喪失感がすごい。
 ショックで涙まで出そう。
 ううぅ、俺の可愛い名探偵がぁ。


「まったく面倒な奴だな。まぁ良いけど」


 涙目になっていたら、名探偵は呆れたように溜め息を吐いた。
 彼からすればかなり理不尽なことを言っている自覚はあるので、反論はしない。

 でも悲しくて花束を抱えて俯いていたら、そっと抱き締められた。
 ……ふぇ?

 しかも背中を撫でられ、ぽんぽんと優しくあやしてくる。

 え、え。
 コイツ誰?
 なんでこんなに優しいの?
 中身は変わっていないはずなのに。

 混乱してしまうものの、名探偵の腕の中はあったかくて、優しくて、ぽろりと涙が零れてしまった。
 ぽろぽろと、いくつも零れていく涙。

 わかっている。
 彼にとって、工藤新一に戻ることは悲願だったと。
 いつか必ず戻るのだろうと、俺だってちゃんと理解していた。
 でも俺が出会ったのは江戸川コナンで、工藤新一には一度も会ったことが無い。

 だからか、いざその瞬間が訪れた今、どうしても喪失感を感じてしまうんだ。
 もう二度と、ちっちゃい名探偵には会えないのだと。

 切なく感じてしまうのは、今が寒い時期だからかもしれない。
 やけにセンチメンタルになってしまうのも、2月という一番寒い時期だからだろう。
 だって冬は、落ち込みやすいと言われているし。

 はぁと息を吐き出し、ぐずりと鼻を啜る。
 すると何故かシルクハットを取られて、ちゅっと、モノクルをしていない方の眦にキスされた。

 驚いて、はぇ、と変な声が出てしまう。
 ……え、え?


「キッド、すげぇ可愛い」


 思わず見返したら、名探偵はふわりと柔らかく微笑んだ。
 何このイケメン。
 名探偵って、元に戻るとこんなにキザで格好良いの?
 俺の素なんて、ちょっとアホっぽいという自覚があるくらいなのに。

 驚いたまま見つめていたら、花束まで取られた。
 しかもパサリと足元に落とされる。

 ちょ、それ滅茶苦茶高かったのに!
 でも抗議する前に、鼻先をくっ付けられて、唇にキスされた。
 ちゅっと、軽く。
 少し離れて、またちゅっと触れてくる。

 え、えええっ。
 ファーストキスを奪われちまった。
 いつか小さな名探偵と出来れば良いなぁと、考えていたのに。
 しかも想像では、俺からやっていたのに。

 でも気持ち良いし、嬉しい、かも。


「ん、めいたんて……んむっ」


 でも大人しく受け入れていたせいか、何度か柔らかく触れられたあと、深く唇を塞がれてしまった。
 隙間が無くなるほど合わさり、咥内に舌が入ってきて、れろりと舌先を舐められる。
 ゾクゾクと背筋が震える。

 こ、こんなキスは想像していなかったんだけど!?
 展開早すぎないか名探偵!





  以下オフ本にて。



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2020.02.23発行
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