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   change!!  
サンプル

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   1.


 世の中には、子供になっちまう薬を作れる人間がいる。
 魔法を使える人間もいる。
 だったら俺にだって、魔法みたいな薬を作る事は可能なんじゃねぇの?

 そんな訳で、一時的に女の子になれる薬が作れないか挑戦してみたところ、一週間でそれを成し遂げられた。
 一粒飲めば6時間ほど女体になれる錠剤だ。

 ん? なんで女になりたいかって? 
 そりゃあもちろん、男のロマンだぜ!

 まぁその理由は半分で、実はキッドで女性に変装する際、躰が男のままだと高確率で名探偵にバレるようになっちまったからだ。
 アイツ、工藤新一に戻ってからというものの、すげぇ鋭くなったんだよなぁ。

 じっと見られるだけで、一歩動けば狩られるんじゃないかと感じるほどの強烈な慧眼。
 江戸川コナンとして過ごした時間や経験が、あれほどまでに彼を強くしているのかもしれない。
 だって高校生の纏う雰囲気をしていないのだ。まるで修羅のごとくである。

 ともかく、これで名探偵に変装を見破られる事は無いだろう。
 さっそく狙っていた宝石への予告状を出し、ちゃんと数日かけて下準備もして、キッド犯行当日。

 薬を飲むと、数分後には心臓がドクンッと大きく脈打ち、躰が軋む。
 痛みは無いけれど、ぞくぞくと全身に快楽が走った。
 なんでこんな変化の仕方なのかは、不明だ。


「ぁ……ぅ、んん……っああん!」


 大きく背中が撓り、視界が真っ白に染まる。
 この瞬間に一気に躰が変化するので、くたりと突っ伏してハァハァ荒い息を吐いている俺は、すでに女の子である。
 うう、癖になりそうな気持ち良さだ。

 ちなみに薬を完成させる為に、最終実験や試作品は自分で飲んでいるので、すでに何回か女の子になっている。
 でもエッチな場所は弄ってないからな。

 もちろん、好奇心はあった。
 だから全裸で鏡の前に立って、低くなった身長とか、女の子らしい綺麗な躰には感心したんだ。
 チンコだった部分がどうなったかも、自ら足を抱えて確認した。
 AVやエロ本で、こういう格好させるのあるよなぁとも思った。

 だがやはり、俺の躰なのだ。
 どれだけ躰が女の子であろうと、俺自身は男である。
 だから女の子の躰を触っているつもりなのに感覚が自分に来られると、興奮よりも戸惑いの方がデカい。

 ともかく今日も無事に女の子になれたので、すぐにキッドの衣装を仕込んで、予告先へ出掛けた。

 今回のターゲットは、政治家の屋敷にあるビッグジュエルだ。
 事前に調査した結果、それほど悪人ではなく政治家としては善良だし、宝石は代々受け継がれてきたもの。
 なので盗んだらさっさと月に翳して、パンドラでなかったらすぐに返すつもりだ。

 目的の屋敷付近に到着する。
 そこで一瞬にしてメイド服に着替え、メイド達が使う裏口へと近づいた。


「こんばんは、お疲れ様です」


 見張りをしていた警察官二人に頭を下げると、彼らもまた頭を下げてきた。
 身長165センチほどの見るからに女の子な俺に彼らは警戒心を持たず、一応確認にと頬を軽く引っ張られただけである。

 もちろん、軽く化粧をしているだけで変装マスクは付けていないからな。
 難なく侵入成功だぜ。
 しかも屋敷内を普通に歩いていても、警官達に少しも怪しまれない。
 女ってだけで随分楽になるんだよなぁ。

 犯行時刻まで、あと十分。
 ちょくちょくメイドの仕事をしつつ、宝石のある部屋付近を確認する。
 当然ながら警備は厳重だ。
 中森警部に関しては、ずっと声が聞こえていたので確認するまでもない。

 名探偵がいなかったら女の子になった意味が無いので、そっちも確認しておこう。
 ……うん、いるな。

 相変わらず、強烈な存在感だ。
 アイツの成した事を知っているので素直にすごいと認めているが、ライバルとしては、ちょっと悔しいものがある。

 影からじっと見すぎてしまっていたからか、ふと名探偵がこちらに顔を向けてきた。
 バッチリ目が合って、思わず顔を逸らしてしまう。

 い、いやいやいや、なんで逸らしちまったんだよ俺!
 やましい事をしているって言ってるようなもんじゃねぇか。
 あああ、やっぱ名探偵こっちくるよぉ。

 逃げるか?
 いや、逃げたらむしろ怪しまれる。
 絶対に追われて、犯行どころじゃなくなっちまう。

 仕方なく俯いていると、視界に彼の服が映った。


「お嬢さん、ここにいるのは危険ですよ」
「す、すみません。キッド様が好きなので、ほんの少しでも姿を見てみたいと思ったんですけど」


 とりあえず、適当に言い訳してみた。
 すると、頬を掌でそっと包まれ顔を上げさせられる。
 ビックリしたけど、キッドかどうか確認する為の行動だろう。

 そうわかっても、顔が熱くなっちまったけどな!
 さすがにこれは恥ずかしいぞ。
 名探偵の掌の感触や体温を、こんなまざまざと感じなければならないなんて。
 キッドだからこそ、余計に恥ずかしい。

 ドキドキしていると、名探偵は微笑した。


「貴方のような可愛らしい方に好かれるなんて、キッドが羨ましいです。でも危険ですから、離れていてください」


 コクコク頷くと、名探偵は元の場所に戻った。
 ったく、心臓に悪いぜ。
 そういやアイツ、そこらに辺にいる女性に対しては、俺以上にタラシなんだっけ。

 予告まであと1分。
 はぁと息を吐き、気を引き締める。
 さて、ショーの始まりだ!







 無事に宝石を盗んで夜空を飛んでいると、名探偵がスケボーで追ってきた。
 その姿を見下ろし、俺はニヤリと勝ち誇った笑みを浮かべる。

 最近はすぐにトリックを見破られてしまい、宝石を手に取った直後には捕まりそうになっていたからなぁ。
 ここまで余裕なのは久しぶりだぜ!

 なんて、調子に乗っていたのがいけなかったんだろうか。
 ふと嫌な予感がした。
 瞬時にどこからか自分に銃口を向けられているのは気付いたものの、避けられずにハンググライダーに穴が開いてしまう。
 しかも二発目が太腿をかすめ、痛みに躰のバランスを崩してしまった。

 ライフルだ。
 どこから撃たれている?
 わからないが、三発目を気合で避けた。

 そのままぐらりと揺れ、降下していく。
 これ以上は飛べそうにないので、痛みに耐えながらどうにか軌道修正し、近くのビルの屋上に倒れ込むように着地した。


「くそっ、油断してたぜ」


 すぐさま怪我した太腿を確認した。
 血が流れズボンを赤く染めてはいるが、少し肉が抉れた程度で、重傷ではない。
 自分の運の良さにホッと安堵する。

 そういや俺って、パンドラを狙う連中に命を狙われているんだよな。
 最近は名探偵ばかり気にしていたせいで、連中も現場に来るという事を忘れていたぜ。
 鈴木次郎吉氏からの挑戦を受けている時は、警備員やガードマンがあまりにも多いせいか、絶対に姿を見せないし。

 とにかく、どこかに隠れなければ。
 このビルに下りたのは見られていただろうから、エレベーターか避難階段から上がってくるはずだ。

 周囲を見渡し、すでにどこからかカンカンカンと階段を上がってくる音がする事に気付く。
 避難階段だ。
 しかし、あまりにも早すぎる。

 焦って立ち上がろうとしたけれど、ずきりとした足の痛みに動けなかった。
 くそ、やばい。
 間に合わない。
 音が近づいてくる。
 こうなったら迎え撃つしかない。

 はぁと大きく息を吐きながら、痛みに耐えつつゆっくり立ち上がる。
 そして懐に忍ばせていたトランプ銃を、非常階段の到着点に向けた。
 ――来る。


「キッド!」


 名を呼びながら現れた人物に、思わず目を見開いた。

 現れたのは名探偵だった。
 そうか、そういえば彼にも追われていたんだった。
 しかもいつの間にか、追跡メガネを掛けている。
 それなら俺が撃たれたのも、着地した場所も全部見えていただろう。


「キッド、大丈夫か」


 トランプ銃を向けられているにも関わらず、心配した様子で駆け寄ってくる彼を見て緊張が解けてしまったのか、ズキンッとした足の痛みに耐えられず躰が傾いた。
 トランプ銃が落ちていき、そのまま倒れて。

 しかし駆け寄ってきた名探偵に抱き留められ、彼と共にゆっくりコンクリートの上に座らされる。


「撃たれたのは足か。くそ、今すぐ病院に」


 携帯を出した彼の手に、俺の手を置いて止める。


「俺なら大丈夫だぜ。銃弾はかすめただけだ。白いスーツだから血の赤が目立っているけど、重傷じゃねぇよ。それに俺はキッドだぜ? 病院はちょっと行けねぇな」
「……はぁ、無事なら良い」


 ニヤリと笑ってみせると、彼は脱力したように俺の胸に顔を埋め、躰をギュッと抱き締めてきた。
 まさかの行動にビックリしたが、モノクルを取ろうしているわけではないので、好きにさせておく。

 コイツは第三者に負傷させられて動けない俺に手を出すような、卑怯な奴じゃねぇからな。
 いつも殺さんばかりの勢いで追い詰められるけれど、そういうとこは好敵手として信頼しているんだぜ?

 じっとしていると、時間が経つにつれ足の痛みが和らいできた。
 これなら一人で帰れそうだ。
 そう思っていると。


「……なぁ。オメーって、女だったのか?」


 というセリフを言われて、カチンと躰が硬直した。
 そういえば今の俺、女の子だった!
 胸に顔を埋められた時点で、乳房があると気付かれるのは当然じゃねぇか!

 どうしよう。
 バレたら、またキッドの犯行がやり難くなってしまう。
 コイツを欺く為に開発したのに。


「こ、こここ、これはその」
「確かキッドには、女の仲間がいるって話だ。でもオメーが、今まで俺が対峙してきたキッドと別人だとは思えねぇ。今日の宝石を盗む手際、大胆不敵な態度。どれもこれも俺の知るキッドだ。だが前に飛行船での事件で一緒にヘリから下りた時は、確実に男だったんだ」


 そりゃそうだろうな。
 股間触られちまったし。


「つまりキッドは、二人いるのか?」


 あ、勝手に答えを導き出しやがった。
 ありがたいので、このまま黙っておこう。


「まぁその……たまにだけな」
「やっぱりな。どうりで蘭や園子のドレス姿に変装されても、気付ねぇはずだぜ。女装する時だけ、女のオメーが犯行に及んでいたんだな」


 いや、それは男の俺が普通に変装していたんだけど。
 元々躰が女っぽいのは認めるけど、男だからな。


「んじゃとりあえず、どうしてオメーが撃たれたのかとか、普段俺と対峙している男のキッドについて、あとオメー達がどうしてキッドをしているのかも詳しく聞きてぇから、俺んちに運んでやるよ。どうせ歩けねぇだろ?」
「は? ちょ……うわっ」


 ひょいと持ち上げられてしまい、驚いてしまう。
 待て待て待て、一人で帰れるから!
 つうか女の子だからって、キッドをお姫様抱っこするのは止めろ!

 名探偵と顔が思いっきり近づいて、しかも間近から目を覗かれてしまい、恥ずかしさに頬が熱くなった。
 なんでそんなに近いんですかね名探偵!

 どどど、どうしよう。
 閃光弾を使うか?
 しかし目を眩ませたところで、怪我で走れないし、銃弾でマントに数箇所穴が開いているから飛ぶ事も出来ない。


「あれ。もしかしてオメー、あの時のメイドか? 顔が似ている気がするんだけど」


 指摘された途端、耳まで熱くなった。
 だって名探偵に頬を包まれてドキドキしていたのが、キッドだとバレちまったのだ。
 うぅ、すげぇ恥ずかしい。

 しかも名探偵ときたら、顔を赤くしている俺を見て、ニヤリと笑いやがった。


「へぇ、あれが女のキッドの素顔ってわけだ。可愛いな。しかも俺に頬を触られて、トキメいてたし。実は俺の事が好きだったりするんじゃねぇの?」
「はあっ!? そそそ、そんな事、あるわけっ」


 確かに今は女の子だけど、普段は男なのだ。
 男が男を好きになるなんて、そんな、そんな……っ。


「顔真っ赤。やべぇ、すげぇ可愛い」


 楽しそうに顔を覗いてくる名探偵の、嬉しそうな声と可愛いという言葉に、泣きそうなくらい顔が熱くなった。





  以下オフ本にて。



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2017.05.03発行
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