残像

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 長く骨ばった指が胎内を弄り、無理矢理快楽を引き出そうと動き回る。


「ぁ、あ……は、あぅ、あぅ…!」


 カイジは必死にシーツを握り締め、クッションに顔に埋め、震える躰を叱咤した。
 しかし彼に慣らされた躰は悦び、その指を深く咥え込んでしまう。

 足はガクガクと震え、今すぐにでもベッドの中に沈んでしまいそうで。
 しかし腰に巻きついている腕のせいで、獣のように尻だけが高く上がった状態で、受け入れ続けている。
 ぐちゅ、ぐちゅと、掻き回されるたびに出る淫靡な音が、否応無しに自分の耳に届く。


「あぁ…、もう、やめ…、ぁっ!……やだ、やだぁ…ひぁ…!」


 初めは声を抑えていた筈なのに、いつの間にか、開かれた口から絶え間なく喘ぎ声が漏れていた。
 ぼろぼろと涙が零れ、涎まで垂れてしまう。

 もう何度も射精してしまっているのに、いまだに中を暴れる指を抜いてはくれない。
 押し広げられた入り口はじんじんと熱を帯び、それがまた堪らなくなるほどの快楽を与えてくる。
 ある一点ばかりを集中的にぐりぐりと押されると、言いようのない強烈な悦が、全身を駆け巡る。


「ああ、ひ、イっちゃ…また、やだアカギ、や、やめっ」
「良いよ。何度でも、イきなよ」
「も、やだ!無理…っ!!……ひん!や!?あ、ああ、やぁ、や――――!!」


 部屋中に響く、喘ぎ。
 射精したけれど、ほんの微かにしか出ないくらい、何度もイかされていて。
 シーツを強く握る事さえ出来無くなり、カイジはぐったりとベッドに沈んだ。

 つぽん、とようやく指が抜かれる。
 いきなり異物が無くなり、だが押し広げられたせいで、まだ何かが中に残っているような感覚がした。

 もう、解放されたかった。
 だが緩くなった入り口にアカギの太いものの熱さと感触が伝わり、ぎくりと腰が強張る。


「ふぇ…、も、無理ぃ…」


 何度も嫌だと言ったのに、全く指を抜かなかったのはアカギだ。
 そのせいで躰は快楽の海に飲み込まれたように酷く敏感になっていて、少し触られただけでイってしまいそうだった。
 正直そんなのつらい。
 その上、今更ペニスなんて入れられてしまっては、堪ったもんじゃない。


「飲まれてしまえば良い。貴方を覆う、快楽の波に」
「やだ、やだ…」


 クス…と微笑みキスを降らしてくるアカギから逃れるように、首を振る。


「やだ?でも俺はまだ一度もイってないんですよ。貴方だけ、ずるいな…」
「それは、お前が!…ひ?……や、やだやだ!!や、や、やああああぁん!」


 宛がわれていたペニスをずぶずぶと埋められ、カイジは高い嬌声を上げ、もう既に何度目かわからないがイってしまった。
 もう、出るものも出なくなっている。
 ただ躰中が熱く、ドクドク鳴っていて。
 獣のように尻を突き出した格好での行為なせいか、奥深くまでアカギのものが届き、堪えきれず声を上げ続けた。


「ふああ、ああ、あうぅ…ひぃんっ!やだぁ、やだぁ!!」


 太いものがぎちぎちと敏感な入り口を押し広げ、中いっぱいにアカギのものを咥え込まされ、カイジはぼろぼろに涙を流した。
 快楽によって思考が低下し、自分が何を口走っているのかもあやふやになっていく。
 ずぷ、ずぷ、と何度も奥に叩きつけられ、その度に嬌声が上がる。


「熱くて、柔らかくて、気持ちいいな、カイジさんの中は」
「あ、ああ、…はぅ!あぅ、あぁん!!」
「ん…っ。っ…、凄い。食い千切られそう…」


 中に入れられるたびに外に追い出そうと締め付け、無理矢理押し込まれ、そのまま中でじっとされると、熱い内壁がやわやわと動き全体を嬲っていく。
 引き抜く瞬間には入った時とは逆に逃がすまいと締め付けてしまい、自分の淫らな躰にカイジは嗚咽を漏らした。
 肢体は汗がぶり出し、その背中の上に、アカギの汗がぽたぽたと落ちてくる。


「はぅ!あ、熱い、熱い!!アカギ…!!」
「また、イきたいの?…いいよ、何度でもイって」


 甘く囁かれる言葉に、しかし首を横に振った。
 これ以上は、マジでつらい。

 イきたくなくて、カイジは熱を逃がすように、はぁ、と大きな息を吐いた。
 すると不思議にも、胎内に埋め込まれているペニスが、とてつもなく気持ち良くて。
 もっとこのまま、柔らかく咥えていたくて。

 しかし。


「ひぃ!?……や…、また、大きっ!…はぁぁん!!」
「貴方が悪いんですよ…そんな、色っぽい顔するから」
「そ、んな!アカギ、ああ、やだぁ!!アカギ、もう…!」


 室内に、粘膜の擦られる音が鳴り響く。
 それから自分達の名を呼びあう声と、息遣いと、嬌声と。

 ああ。
 滅茶苦茶恥ずかしいけれど、満ち足りた気持ちになれるのはどうしてだろう。


「んあ、イイ!!イっちゃ…ああ、はぅん!あん!!」
「カイジさん、我慢しないで」
「ふ、や…一緒、に、イきた…ああ、あああ」
「…可愛い事言わないでよ。余計に苛めたくなる…」


 焦点の定まっていない濡れた双眸は、開いているものの、何も見えなくなっていた。
 だらだらと閉まりのない口からは、だらしなく涎が垂れ落ちる。
 それでも耳元で囁かれ、後ろからぎゅっと抱きしめられた時、カイジは一瞬だけふわりと笑った。


「んあ…アカギ…、」
「いいよ、そろそろ俺も…一緒にイこう」
「あ、あ…、アカギ…ああん!」


 アカギは抽出する速度を速め、自身を解放へと導こうとしていた。
 カイジも喘ぎながら、自ら腰を揺らして彼のペニスを締め付ける。


「はぅっん!!ああ、ひぃ、い、い、ああ、あ、ああっ!!!」
「ぅ、ん……!」


 躰を大きく震わせ開放を迎えると、アカギも熱い迸りを中に注ぎ込んできた。
 その熱さと気持ち良さに、ぶるりと躰が震える。





 力尽きたようにベッドに沈み、カイジはぐったりと力を抜いた。
 その上にアカギが覆い被さってくる。

 しばらくは荒くなった息を整えていたが、次第に熱が引いていくと、中に入れられたままのものの形がはっきりと感じるようになる。
 自分の中にアカギがいる、という事実にカイジは顔を赤らめた。


「んぁ、は、やく、抜け…」
「良いでしょう?別に。もうやらないから」


 アカギは腰に腕を回してくると、そのまま横向きに寝転がるように躰を動かした。
 繋がったままの状態で、ぐちゅりと中のものの位置が変わり、思わずびくんと反応してしまう。


「ああ…んっ、あ…や、やっぱり、抜けよ!」
「やです」


 文句言うとまたヤりますよ?と耳元で囁かれ、ぐ、と息を詰まらせながらも、大人しく腕の中に納まった。
 するとアカギは、満足したように笑みを浮かべ、息を吐いた。


「あぁ…あったかい」
「…暑苦しいだけだっつの」


 横目にでも綺麗な微笑を見てしまい、カイジは照れてしまう自分を誤魔化すように、悪態を吐いた。

 大体、なんでやりまくって汗かいた挙句、密着しながら抱きしめられなければいけないのか。
 たとえ涼しい季節になろうとも、汗を掻けば暑い。
 滅茶苦茶暑い。

 でも…。


 ………満たされるのは、何故だろうか。


「はぁ、なんでこんな事になったんだ…」
「それはカイジさんがせがんだからでしょ?」
「違う、お前が…!!」


 続きを言おうとして、カイジは止まった。
 ん?とアカギが先を促すが、首を横に振っただけ。


「…何でもねぇよ、馬鹿」
「ふふ、酷い言い草」


 笑う振動が背中から伝わってくる。
 勝手に言ってろ、と口からは再び悪態が出るけれど、本心は酷く安心していた。

 そう、お前はそうやって人を馬鹿にしたみたいに笑っている方が落ち着く。
 あんな姿は、見た瞬間どうすればいいのかわからなくなる。










 二時間ほど前。

 夜中に人んちの玄関の前でアカギを見つけて、初めは訝しげに思っただけだった。
 一体何時から、いたのか。
 こんな季節に長い間外にいれば、どれだけ躰が頑丈でも風邪だってひくだろう。


「おい、アカ…」


 呼ぼうとして、カイジは止まった。


 なんて。

 なんて冷たい顔をしているのか。
 全てを拒絶しているような…世界の全てを置き去りにしているような、凍てつく双眸。

 何を見て…?
 何を思い…?
 そして何故そんな顔をする…?

 どうして良いかわからず、それでも拒絶されるのはもっと嫌だったから、カイジはその横顔から眼を逸らしつつも、アカギの腕を引っ張った。


「ん?…ああ、カイジさんか。お帰りなさい」


 自分を見てくるアカギは、普段通りの彼だった。
 ほっとしながらも、どうしてもあの冷たさが脳裏から離れなくて。


「お前。何を…見ていた?」
「別に?」
「別にって。…んな感じじゃ、なかった」
「…………ただちょっと、ね」


 自分の震える声を指摘する事もなく、アカギは遠い眼をした。


「燃え上がる焔は、いつになっても消えないんだな…と思って」


 ――焔。
 それが何を意味するのか。

 わからなかった。

 わからない事が悔しかった。


 自分は、こいつの事を何も知らないのだと、改めて気付く。
 聞こうとしても、いつも言葉が続かなくなるのだけれど。

 聞いてどうする?
 知ってどうする?

 自分達にとっては、過ぎ去った時間など必要無いのだ。

 アカギ自身も、言おうとはしないだろう。
 そしてこちらの事も、聞いては来ない。

 しかし。


「叫びが聞こえてくる。けれど誰も、足を踏み入れる事は出来無い。そう、誰も。そうして消える命は、孤独に打ち震えながら、全てを呪ったのかもしれない」


 知らない事がこんなにも悔しいと感じたのは、初めてだった。



 せめてお前が冷たい眼をしないですむならと、自ら望んで躰を開いた。
 髪の毛に手を差し入れ、冷たい唇にキスをして、冷え切った躰が温まるように抱きしめた。

 ゆっくりと、ゆっくりと。

 その躰が溶けてしまえるように。
 何も考えなくてすむように。

 どうか、刹那の時だけでも、全てが優しさに包まれるように。










 それがいつの間にか、こんなになっちまったじゃねぇか!

 途中から主導権を握られ、執拗に弄られ、イかされ、今に至る。
 もちろん、普段どおりに戻っている事には安心している。
 体温も、いつも通り。

 だが、それでもなんだか納得がいかない。


「なんか、俺が振り回されてるみたいじゃねぇかよ…」


 心配して悩んで、せめて暖めてやろうと普段からは絶対しないような事までして、なのにこいつは何もなかったように人を抱き枕にして寝てやがる。
 気持ち良さそうに寝息なんか掻きやがって。

 ………は?寝息??


「お、おいちょっと待て!なんで寝てんだよ!!せめて抜いてから寝ろ!」


 カイジは慌てて叫んだ。
 否、叫ぶしか出来なかった。
 躰を動かそうとすれば、中に入っているものが動き官能を刺激されるし、そもそも後ろからがっしりと腕が回っていて、全く身動きが取れない。
 だがカイジの叫びも届く事無く、アカギはすやすやと眠っていた。

 このまま寝たら、絶対起きた時にまたヤられる。
 そもそも後始末もせずにいたら、腹を下す可能性が出てくる。

 いや、その前にこんな体勢のままずっと寝れるのか!?
 寝返りなんて打たれた時には、自分の体まで一緒に動かされるんじゃないのか??


「どうすりゃいいんだよぉ」


 困り果てたようにカイジは呟いた。

 とりあえず抜くだけでもしたい。
 そう思い、抱きしめている腕を外そうと試みたが、ビクともしなかった。

 はぁ、と盛大な溜め息をつく。


「本当に、振り回されてんな…」


 でも、仕方無いのだろうか?
 なんと言っても、相手はアカギだ。
 自分じゃ敵いっこない。

 畜生、とりあえずこのまま寝て腹下したら、面倒見てもらおう。
 なんかうまいもん作らせて…躰も拭いてもらって、パジャマも着せてもらって…それからくだらない話が出来たら良い。


 随分損をしている気がしないでもないけれど、今回は甘んじてやるよ。

 このぬくもりに免じて。



 起きた時の事を考えながら、カイジはゆっくりと眼を閉じた。





  ...end.


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アカギに振り回されまくるカイジが書きたかった。
アカギは、思考を巡らしていると凍てつくほどに冷めて見えそうだなぁと思う。

2010.10.03
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