洗濯日和
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ゆっくりと眼を開ければ、カーテンの隙間から光が漏れていて、少し眩しかった。
時計の音が、カチ、カチ、と静かな音を立てている。
朝と呼ぶには少しだけ遅い時間だったけれど、昼にはまだ早い。
カイジは寝起きでだるい躰をどうにか動かし、上体を起こした。
布団から出てカーテンを開けると、外は気持ち良いほどの青空が広がっている。
綺麗な青だ。
こういう日を、洗濯日和と言うのだろう。
そのまま明るくなった部屋を見渡してみると、昨日脱いだ服が床に散らかっていて、微かに顔を顰める。
一人でいると、片付けるのがついつい面倒になってしまう。
しかもここのところずっとバイトを入れていたから、床も汚れていた。
「あー…、マジで洗濯した方が良いかも」
溜め息をついて、カイジは散らばっている服を拾い上げた。
かなりの量で、これは干すのが大変だなぁとぼんやり思う。
そもそも、前までは服類なんてほとんど持っていなかった。
けれどアカギと知り合ってから、大きめのタンスを買わなければいけないほどに服が増えていた。
アカギがここに来る時にいつも、金の使い道が無いからと言って服やら食料やらその他色んなものを買っては置いていくのだ。
そして着ていた服を洗濯機に突っ込まれ、買った服を着て出ていく事もしばしば。
そのせいで今じゃどれが自分の服でどれがアカギの服なのか、さっぱりわからない。
拾った服を洗面所に持っていき、下着も一緒に洗濯機の中に入れる。
洗剤を入れてボタンを押すと、いかにも洗濯をしていますという音がする。
その間に、顔を洗って歯を磨く。
あ、なんか今日アカギが来そうな気がする……なんて思っていたら、部屋中にインターホンの音が鳴り響いた。
慌てて口をゆすいで、歯ブラシを置いて玄関を開ける。
本当にアカギだった。
ジーパンに長袖のシャツ。
財布しか持ってきていないのか、今日はやけに身軽な格好をしている。
「おはよう、カイジさん」
「おう」
アカギが靴を脱いで部屋に上がる。
ごうんごうんと鳴る音に、アカギの綺麗な顔がほんの微かに笑みを浮かべた。
「洗濯してるんだ」
「ああ。これから掃除もしようと思ってるんだけど」
「飯は?」
「さっき起きたばっか」
「じゃあ手伝ってやるよ。それから食いに行こう」
「ん…さんきゅ」
頷くと、アカギは勝手知ったる様子で掃除機を出してくる。
コンセントを入れて、スイッチを入れれば、これもまたありふれた掃除機の音が、洗濯機の音に交じった。
結局、アカギに手伝ってもらったおかげで掃除は昼前に終わった。
ベランダにシーツや布団を干したので、衣類の洗濯物は室内干しだ。
「さて、出かけますか」
「ちょっと待て。俺まだ着替えてねぇ」
「その格好、寝起きのままだったんだ」
「ここにパジャマなんてものは置いてないんだよ」
「そうでしたっけ?この前はあった気がするんですけど」
「あれ、お前のじゃん」
「俺がそんなもの着ると思ってるんですか」
「………ですよねー」
「ま、カイジさんならその格好でも外に出れますよ」
「出れねぇよ!」
「ふーん?」
アカギが不思議そうな声を出す。
確かに、上はTシャツだし下はジャージだから、格好だけなら外に出られるかもしれない。
しかし眠っていた時と同じ格好で街を歩くなんて、そんなずぼらな事はしないぞ俺は。
とにかく着替えようと、Tシャツを脱ごうとして。
……手が止まった。
「ああそうか。セックスしちまえば、着てるもんなんて全部脱いじまうのか」
は?
…なんだって?
今、ものすごく突拍子もない言葉を聞いたような気がしてアカギに眼をやると、アカギは窓辺に座って煙草を吸いながら、真面目な顔してコクコクと頷いている。
「どうして時々ここで寝ているのにカイジさんが寝る時の格好が思い浮かばなかったんだろうと思ったら、いつも全部脱がせてたんだな」
がくぅ、と一気に脱力してしまった。
真面目に考えるような事じゃないだろ、それは。
「……あのなぁ」
「なに?」
これまた全然わかっていないアカギが不思議そうに聞いてくる。
普段はとてつもなく目敏いくせに、どうしてこういう時だけわからないのか。
それとも俺をからかっているだけか!?
「カイジさん?」
「ああもう、何でもないっ」
「?変な人」
アカギがくすりと笑う。
変なのはお前だ!と怒鳴ってやりたかったが、そうしたらどうせ、そうですねと、それこそごく普通に頷かれるに決まっている。
言うだけ無駄だ。
カイジはさっさと服を脱ぎ、下着姿のままタンスからジーパンとパーカを出した。
「あれ?」
アカギがポツリと呟く。
「何だよ?」
「いや、その下着、俺のですよ?」
「――――うそ」
アカギの顔をまじまじと見た。
だが、どうやら本気で言っているらしい。
この下着は、昨日帰ってきた時に着替えたものだ。
タンスの中に入っていたから、気にせず穿いてしまった。
正直困った。
服だったら同じものを着てもそんなに変じゃないだろうが、下着となると、そうもいかないような気がする。
え…でも、もしかして俺が間違えて穿いていたとなると―――
「カイジさん?」
いきなりの行動にびっくりしたのか、アカギが不思議そうに見つめてくる。
「お前が今穿いてるやつ見せろ」
「ああなんだ、ちょっと期待しちまった」
誘われてんのかと思った、なんてアカギが言っていたが、かまわずボタンを外してジッパーを下げた。
「……この下着、この前俺も穿いてたぞ」
そう言ったら、アカギが笑った。
珍しく、声を上げて。
なんだか凄く可笑しくなって、自分も一緒になって笑ってしまう。
「あー、ウケる。何だよこの状況!」
「名前でも書きます?かなり趣味悪いと思うけど」
アカギが器用に片眉をひょいと上げる。
「ぜってーヤダ。いいよ、お前となら下着も共有したって」
「俺もカイジさんとなら気にしないけど。それに今更だし。ところでカイジさん」
「あ?」
「早くジーパン穿いてくれない?これからやるなら別にかまわないけれど」
「あ……」
アカギに言われて、カイジはようやく今の状況を悟った。
下着一枚しかつけていない格好で、アカギの上に乗っかかっているのだ。
しかもアカギのジーパンのチャックを下げて。
「ぁ、う……あ…」
傍から見ればどうやったって自分が誘っているようにしか見えず、カイジは状況を理解した途端、顔を真っ赤に染めた。
え、ちょ、何やっちゃってんだよ俺!
こここここんな格好で、アカギ押し倒し…。
あああ、アカギの下半身が微妙に膨らんでいる気がするんだけど!?
えーと、えーと、とりあえず………、………?
テンパっていたら、ふいに頭を撫でられた。
カイジは泣きそうになりならがも顔を上げた。
すると、アカギが苦笑を零す。
「そんな困った顔しないでよ。飯、食いに行くんでしょ?」
「ぅ……悪ぃ」
謝って、アカギの上からどいた。
言われたようにすぐにジーパンを穿いて、パーカを着て。
それからちらりとアカギを見れば、アカギは何もなかったように身なりを整えて、平然としていた。
外はやはり気持ち良いほどに晴れていて、風も気持ち良い。
窓を開けてきてあるから、この分だとすぐに洗濯物は乾くだろう。
二人で肩を並べて、のんびりと歩く道すがら。
「なぁ、アカギ。今夜さ、何も無ければ俺のところに来いよ」
「いいですけど。どうしてまた」
「……さぁな。天気が良いからじゃね?」
「…ああ、そういう事か。もちろん良いですよ」
アカギが微かに笑んだ。
カイジはその横顔を眺めてから、頭上に広がる青空に視線を移した。
明るい太陽の日差しが、とても暖かかった。
...end.
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こいつらだって洗濯や掃除くらいはするよ!くだらない話で笑うよ!…そうだったら良いなという妄想。
2010.02.10
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